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5、本当のお兄様と決意



「君が、僕の妹?」

「……?」


 少し癖のある金髪に私と同じ空色の瞳の男の子がいきなり部屋に来て、言った。


  ◇◇◇


 数日前、お父様やら姫やらと言われたあと、すぐにお医者様と神官が来た。


 診察してくれた結果、栄養失調と睡眠不足と言われ、しばらくしっかり栄養のある食事を摂って静養してくださいと言われた。


 今まで食べたことがないとてもおいしいごはんを食べ、お風呂というものに入るとすぐにベッドに促された。


 もう身体も痛くないし、もう熱も下がったのにと不思議に思う。孤児院ではよっぽど体調が悪くないと横になれなかったから。

 お父様とナタリーはとても優しく私に接してくれた。またベッドに横になったときには、頭をなでてもいいかとお父様に聞かれて頷くと撫でてくれて。


 そのときに聞いたことには私の本当の名前はルーナリアというらしい。

 お父様曰く、ナスティ先生がぽろっと名前をこぼしたが、幼い私は語尾のリアというところしか拾えなかったのではとのことだった。ナスティ先生本人がいっていたとか。


 今まで感じたことのない安心感を覚え、もう気を張らなくていいのかも、と思うと眠気がくる。


 初めて会って抱きしめられた時に感じた安心感、そして既視感は血が繋がっているから感じたものなのかもしれない。


 そう思うとストンと腑に落ちたため、この人は私のお父様ということは不思議と受け入れることができた。


 うとうととしている私に気づいたのか、お父様はお話ししてくれていた。


 体調が万全になったら一緒にご飯を食べよう。

 一緒にお出かけしよう。

 今までできなかったことをたくさんしよう。

 なんでも好きなことしたいだけするといい。

 もうお前を虐げる者はいないから安心しなさい。

 そうそう、お前にはお兄様がいるから今度紹介しよう、などなど。


 その話声がなんとなく子守歌代わりになったのか、いつの間にか寝ていた。



  ◇◇◇



(……そういえば、夢うつつに聞いたかもしれない。……うん、言っていたかも)


 思い返していた私は、その男の子の瞳に金冠があることを確認した。



「た、多分、そうだと思います。よ、よろしくお願いします……」

「ふーん……」



 そう言ってる間にもその男の子は、目を細めて私をまじまじと観察している。


(私なんて妹と認めない!とか言われちゃうのかな……)


 お父様と話して数日たち、だいぶ頭も整理されてきて。いまだに現実味がなくてふわふわした心地だけれど、初めてのことに戸惑うことばかりのこの状況を、少しずつでも受け入れられるようになってきた。


 最後に私の瞳を見て目があった瞬間、泣きそうな顔になったと思ったらとても優しく微笑んだ。

 


「……やっと会えた。ずっと、探していたんだよ……」

「え…?」

「僕はセオドア。セオドア・シュルーク。君のお兄様だよ」

「セオドア、お兄様……?」



 そっと名前を呼んでみると、とても嬉しそうに笑った。


 どうやら喜んでくれているみたいだとホッとする。

 しかし先ほどの探るような視線はなんだったのか。


 そう思っていると、ふっとお兄様がおかしそうに笑った。



「ふふっごめんね、さっきはまじまじと観察してしまって。よくいたんだよ。私が姫ですって名乗り出る人が。まぁ父上も認めている時点で大丈夫だと思ったんだけど、つい癖でね」

「そうだったんですか……」

「敬語なんて使わないでよ。兄妹なんだから」



 途中、顔に黒い影を落とし冷ややかな口調だったが、すぐに温かみのある笑顔に代わりにっこり笑ってくれた。



 それからは毎日、お昼ご飯が終わってしばらくしたあとに来てくれるようになった。

 お茶の時間というものらしい。



 ここに来てから2週間ほどたち、私の体調もすっかり回復した。食事も最初はスープとかばかりだったが、今はパンが出るようになった。


 こんなに美味しい食事は食べたことがなくて、毎回感動してしまう。


 ナタリーは微笑ましいものを見るような目で私を見ているのが、少し恥ずかしいけれど。



「明日からお茶会だけでなくて、食事を一緒にどうかな?父上と3人で」

「食事?」

「うん。今までは部屋で食べてたと思うけど、もう普通の食事を食べてもいいと医者も言っていたと聞いたから。どうかな?」

「うん!私も一緒に食べたい!」

「ふふ、わかった。じゃあそのように言っておくよ。楽しみだな」



 じゃあ今日の夕食からね、とそう言ってお兄様はまた嬉しそうに笑ったのだった。



ーーーーーー



「そういえば、どこでご飯たべるの?」

「時間になりましたら、ご案内いたしますので大丈夫ですよ」



 にっこり笑ってナタリーは言ってくれた。しかし違うことも気になった。



「そういえば私、この部屋から出たことがない……」

「たしかに。それもそうですね。今は時間がありますので、少し庭園にでも行ってみますか?」

「え!いいの?それなら行きたい!」

「かしこまりました」



 さっそく庭園に向かってナタリーが案内してくれた。

 歩きながらここはどこに向かう時に、とかあちらには何が、とかいろいろ教えてくれる。

 案内されながら、豪華な内装にきょろきょろと周りを見回してしまう。


 その途中で誰かの話し声が聞こえた。



「……それは不遇な王女様ね」

「お可哀想に」

「でもこれから王女様としてちゃんと出来るのかしら?」

「さぁ、そればっかりは…」

「これからの王女様の頑張り次第じゃない?」

「それもそうね……」



 そんな話し声は次第に遠ざかっていった。

 案内のため先に歩いて行ったナタリーが慌てて戻ってきた。いつの間にか足が止まっていたらしい。



「姫様、申し訳ありません。何かございましたか?」

「……いや、大丈夫。なんでもないよ」

「そうですか。それなら案内を再会させていただいてもよろしいですか?」

「うん。お願いします……」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

「…………どうしよう」


 庭園から戻ってきてからベッドに潜りこんだ。

 宝物である赤い石のペンダントをぎゅっと抱きしめながら、わたしは一人、必死に頭を回転させていた。ナタリーには疲れたから少し休むと言ったら一人にしてくれた。


 そうして思い出すのは先ほどの廊下にいた人たちの会話。


 まずは、ここに住んでもいいってみんなに認められないといけないかもしれない。

 追い出されたら、また孤児院に入れられるかもしれない。また殴られたりご飯がもらえない生活に戻るのはもう嫌だ。


 まだたった2週間ほどだけれど、ここでの生活は今までと大きく違う。家族というものが初めて出来て、安心感がある生活。

 普通なのだと思っていた孤児院での生活は、本当に辛いものだったようだ。おいしい食事と温かく柔らかいベッドがあるだけで天国かとでも思ってしまう。


 もうあの孤児院には戻りたくない。そもそも先生たちも捕まってたし、どうなったのか。


 しかし私は家族というものがどういうものなのかわからないし、家族がいるとはいえこのままここにいてもいいのかもわからない。

 かと言って、孤児院以外に私がここを出て行く場所などない。まともに仕事をしたことだってない、まだおそらく8歳の子供である。雇ってくれる場所なんてないだろう。



 ──そして悩んだ私は、決めた。


 みんなに認められる王女になる。そして魔法使いになる。テオ兄に会うまでに必死に出来る限りのことをすることを。





読んでいただきありがとうございます!

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