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夢に向かって猪突猛進な『不遇』王女には事情がある!?〜孤児院出身の王女は愛されることには慣れていません〜  作者: はな
最終章

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55、冗談じゃない

レイモンド視点続きます。



(一刻も早くルーナの元に帰りたいのに)


 本当は一瞬だってルーナの側を離れたくはない。それを国王陛下もわかっているはずなのに。



「……そんな目で睨むな。まだ黒の魔女が見つかっていないだろう。それを見越してのことだ」

「…………」



 言いたいことはわかる。しかし、わかっても納得できるかはまた別の話で。

 夕食を一緒に食べたりと、ある程度親しいと言っても俺は国の騎士で陛下は主君。命令を下されれば拒否することはもちろんできない。


 これは命令なのだろうか。命令なのだろうな。



「承知、しました……」

「うむ、頼んだぞ」



 いつもいいように使われている気しかしないが仕方ない。



「よし、私たちは早く帰ってルーナを安心させてやらなければ!」

「そうですね!では帰りましょう!」



 そんな会話をしている国王陛下とセオドア殿下に、殺意が湧いた俺も悪くないと思う。



 そして2日ほどかけて城中隈なく探すも、黒の魔女は見つけることが出来なかった。

 これは前国王が言っていた通り、出ていったのだろうか。


 テオドール殿下と相談してこれならルーナのそばにいたほうが、彼女は安全なのではないかとの結論になった。

 やっと帰れる、と思ったとき。



「君は……本当に、リアが大切なんだね……」

「……?今何か……」



 何かボソッと言った声が聞こえたが、声が小さくて聞き取れなかった。そのため聞き返すと、真剣な目をしたテオドール殿下と目があった。



「……僕も、リアに本気だと言ったら?」

「──は」



 ──あの日。テオドール殿下と会った日から、ずっとルーナは何かを考え込んでいるように見えた。


 話しかければ、笑顔で返してはくれるが、どうも違う。

 何かを気にしているようだった。

 今にして思えば、彼女が何を思っていたのかわかる。


 でもその時は、まさかテオ兄、もといテオドール殿下に惹かれているのだろうか。


 そこに思考が辿り着いた。


 彼女の本当の婚約者になれていれば、近づいてほしくない、と言えたかもしれない。


 あの日、彼女に向かって歩いてくるテオドール殿下に言い知れない恐怖を感じた。

 もしかしたらそのまま彼女を浚われてしまうのではないだろうかという、なんの根拠もない恐怖。


 彼女を奪われたくない──



 あの時一瞬にして、そう思ってしまったのだ。


 学園の演習で、森で二人が仲良く何か話しながら歩いていたのを思い出す。

 二人が一緒に歩く姿はやけにしっくりきていて。

 嫉妬のあまりおもいきり邪魔をしてやりたくなった。

 何度も、ルーナは俺のものだと叫びたくなった。まだ婚約者候補だが。


 俺には彼女しかいないのに。


 もし、ルーナにテオドール殿下の所へ行きたいなどと言われたら。

 そう考えた途端、不安が急速に膨らんでいった。


 あの男を好きになったと告げられるのを想像し、怖くなった。


 押し潰されそうな不安が胸に広がり、自分にこんな弱さがあることを初めて知った。


 他の誰もいらない。欲しいのは彼女だけ。

 望んだのは、ただ一つだけなのに。


 どこにもいかないで、俺の側にいてほしい。



 あのときどきの感情が一気に膨れ上がってきて、それが殺気となって一気にテオドール殿下に向かった。


 テオドール殿下は俺の殺気に気が付いているだろうに、変わらず真剣な目で俺を見据えている。



「……笑えない冗談ですね」

「……冗談のつもりはないけれど」



 やがて我に返った俺の口からは乾いた笑いが漏れ、自分でも驚くほど低い声が出た。湧き上がる怒りを押さえきれなかった。

 なおも言い募ってくるテオドール殿下を殺意を込めて睨みつける。睨み合いが続いたが、しばらくしてテオドール殿下はふっと笑った。


 馬鹿にしているのか──


 そう思い問いただそうとしたところで、テオドール殿下が小声で呟いた。



「……でも、それは彼女も望んでいないからね」

「……え?」



 聞き取れなかったため聞き返すも、テオドール殿下は再び真剣な顔をして言った。



「……もし、彼女を泣かせるようなことがあったら。遠慮なく奪いにいくから、そのつもりでね」

「……そんなことにはならないので大丈夫です」

「そっか。それなら、いいんだ……それじゃあ、今回はありがとう。落ち着いたら改めてお礼とご挨拶に伺わせていただくよ」

「……国王陛下にも伝えておきましょう。それでは失礼致します」


 一応もう、暫定的に国王になったので畏まった挨拶をしてから帰途についた。


(やっと、ルーナに会える。……かれこれ1週間ぶりか)


 もう嫁がなくてよくなったことはすでに聞いているだろう。少しでも元気になってくれていればいいのだが。

 そう考えながら馬で急いで帰り、城が見えてきたところで様子がいつもと違うことに気づく。


──嫌な予感が胸をよぎる


 そのとき、左の耳元でピシッと何かヒビが入るような音が聞こえた。

 胸騒ぎがしつつも何の音かはそのときはわからなかった。


 裏門から王城の敷地に入ると、それは明白になった。いたか!こちらにはいません!などの言葉が行き交い、騎士たちがばたばたと駆け回っている。


 急いで馬を預けて、近くを、通りかかった顔見知りの騎士を捕まえて事情を聞く。



「は!レイモンド様!お戻りでしたか!?実は……ルーナリア王女殿下が行方不明になっておりまして……」

「……なんだって?」


(まさか、さっきの音は──)


 違えばそれでいい。心臓が早鐘を打っていく。

 急いで左耳につけた、ルーナの魔力石のピアスの部分に手を伸ばし確認する。

 癖になっているそれはいつもとは違って。

 耳から取って目で確認すると、石がなくなっていた。


 途端、頭の中が真っ白になった。



 ──本当に。嫌な予感ほどよく当たる。



 









読んでいただきありがとうございます!

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