53、思わぬ助っ人
「「話は聞かせてもらった!!」」
ノックの音の後、返事もする間もなく扉が開き姿を現したのは、この国の頂点である国王陛下と、その息子であるセオドア王太子殿下だった。
仲良く声をかぶせて、ジャジャーンとでも効果音が付きそうな登場だった。
まさかここに来るとは思わず、驚きから目を見開いてしまう。
ハっと我にかえるも、フェリシアとテオドール殿下も同じく目を見開いている。
この2人とそこまで関わったことがないであろう2人からすると、当然の反応だと思う。
(人前のあの威厳のある風貌とは少し……いやだいぶかけ離れているからな)
「……国王陛下、セオドア殿下。どうなさったのですか?……ここはテオドール王太子殿下の客室ですが……」
まさか、国王陛下ともあろうものが、隣国の王太子の部屋でしている会話を盗み聞きなんてしていないですよね?と言外に言ってみれば、2人の目が泳いだ。
「いや、ルーナのことで、相談しようと思って、だな」
「そ、そうだよ。盗み聞きしようと思ってきたわけではない」
つまりは盗み聞きしたということか。先ほどもうすでにそう言っていたが。
でも。これで報告の手間が省けるか。
そう思いなおし、今の話は聞かなかったことにしようとする。
「あ、ルーナには言わないでくれ」
「………」
そう言われると告げ口したくもなるが。今は他の話を進めなければ。
「……聞いていたのなら、話は早いですね。私はテオドール殿下とともに反乱に参加してきます」
「……そんなピクニックにでも行くみたいな感じで……」
呆気に取られていたテオドール殿下も我に返ったのか小声でつっこんでくる。
「ああ。許可しよう。でもそれには私も参加させてもらおう」
「もちろん、私も」
「──は」
言っていることが理解できない。いや、わかるのだが脳が理解するのを拒否している。
そんな周囲を置き去りにした2人は「いや、セオドアは残ったほうが」「それなら父上が」と何か話していたが、結論がでたのか国王陛下はなおも言葉を続ける。
「私たち2人とも参加するとしよう。一応私とセオドアは顔が割れてしまっているから、甲冑で隠すことにするから安心すると良い」
「そうですね。そうしましょう」
「いや、ちょっと待ってください」
そう言う問題ではない。誰か助けてくれないか。こんなに切実に思ったのは初めてだった。
どうしてルーナが絡むとこんなにポンコツになるのか。
国の未来が少し心配になる。
「国王と王太子が……テオドール殿下は味方とはいえ、敵国の反乱に参入するなんて聞いたことありません。どうか考え直してください。お二人に何かあったらどうするのですか」
「大丈夫だ、心配するな。一応、騎士団長だけ連れていく。私たちが不在の間にルーナに何かあっては困るから、それ以外は置いていくが」
「そうではなくて……」
「戦力的に不足はないはずだ。私もセオドアも毎日とは言わないが、いまだに鍛えている。国最高の戦力だ」
たしかに魔力量も多い王族で、鍛錬も怠っていない2人は戦力としては申し分などないだろう。
しかし再度言うがそういう問題ではない。間違っても了承できることではないのだ。
どういえば納得して引き下がるだろうと頭を悩ませていると、国王陛下とセオドア殿下が言った。
「私はね。確かに1つの国の王をしているが、それ以前に1人の父親なんだ。16年前……何よりも大切に想っていた妻を失い、ルーナにつらい思いをさせてしまった。それに今回も、ルーナにあんな決断をさせてしまった不甲斐ない父親ではあるが……もう、あんなことはこりごりなんだよ」
「……私も幼かったとはいえ、何もできなかった。大事な妹にもうつらい思いはしてほしくない。ルーナは今まで十分に苦しんできたんだ。私にできることがあるならなんでもするよ」
その言葉を聞いて、これ以上説得するのは無理だと思った。
その気持ちがとてもよくわかってしまったから。
「……わかりました。テオドール殿下、よろしいでしょうか」
「え?!え、本当に、あの、その、力になってくれるのですか……?」
「もちろん。全力で力になることを誓おう」
それが決まると話は早かった。戸惑いが消えないテオドール殿下と作戦を立て、翌日朝早くに出立することになった。
フェリシアは終始、戸惑いから置いてけぼりになりつつも話し合いに参加し、何か力になりたいと言っていた。
今回は少数精鋭で行くことになるため連れていけないが、戦争の話やルーナの婚姻の話が国中に広がっていることの情報統制をお願いした。
宰相であるコラソン公爵は、国王陛下と王太子が揃って不在にするから仕事をしなければならなくなるだろうから。
コラソン公爵には申し訳なく思いつつも、着々と準備を進めていった。
◇◇◇
そして夜明け前。ルーナの部屋に忍び込んだ。
本当はいけないことだと分っているが、最後にどうしても顔を見ておきたかった。
ルーナは深く眠っているが、泣いたのか目元が少し赤い。
やわらかい頬をそっと指でなでる。
このことを知ればルーナはどう思うか。
わかってしまうから何も言わないで出ていくけれど。
(終わらせてくるから。そしたら、どうか──)
どんなことがあっても変わらない。
惹かれてやまない、彼女を見つめる。
「ルーナ、愛してるよ──」
額に口づけを落として、部屋を後にした。
部屋をでるとナタリーがいた。こんな時間にいるとは思わなくて驚く。
俺の服装をみて何かを悟ったのか。
「よろしく、お願いします、レイモンド様……どうか、姫様を……」
泣きそうな顔で懇願される。
(ルーナは、みんなに大切にされて、愛されている)
そう思うと、自分のことではないのにとても嬉しく思った。
「……任せてください。必ず」
そうして、テオドール殿下や国王陛下方と合流し、城を後にした。
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