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夢に向かって猪突猛進な『不遇』王女には事情がある!?〜孤児院出身の王女は愛されることには慣れていません〜  作者: はな
第三章

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40、あなたがいたというだけで

まだレイモンド視点です。





 自身の配慮の足りなさが本当に嫌になる。

 これくらいの距離なら風魔法を使えばすぐに聞き取れる。ルーナはときおり威力がおかしいが、魔法の熟練者だ。誰にも気づかれず日常魔法と行使することなど朝飯前だろう。



「……レイモンド。どうした?何かわかったか?」



 セオドア殿下がしゃがみこんで動かなくなった俺に声をかけてきた。



「俺の、推測でしかありませんが……おそらく。だいたいのことはわかりました」

「「何!?本当か!!」」



 二重に聞こえた声に後ろを振り返ると、近くにいたセオドア殿下も後ろを振り返っていた。

 いつ来たのか、国王陛下がバルコニーの扉の所から顔を出している。



「確証はありませんが。おそらく、ルーナリア様が今向かっている場所も……。私は行ったことがないので……本当に推測ですが」

「それなら、すぐに捜索隊を向かわせて……」

「でも、ルーナが出て行った原因がわからないと、また同じことになるのでは?」

「う、うむ……そうだな……」



 この国の王族はルーナのことに関しては、少しポンコツになるのかもしれない。

 そう話を聞きながら思いつつ、話が途切れたところで手を挙げた。すると2人の視線がこちらに向いた。



「あの……私に、行かせてもらえませんか」

「それは、専属護衛騎士なのだからもちろん……」

「そうではなくて……私一人で」

「「は?」」



 どうしても、2人で話したかった。俺がルーナにとっての『テオ兄』になれるなんて思っていない。おそらく、俺にとってのルーナと同じだろうから。

 だから、1人で動いたほうが早く追いつくだとか、説得しやすいなどそれっぽい理由を挙げて懇願した。



「……わかった。許そう」

「父上!」

「ただし、条件がある。それは……」



 ◇◇◇



 馬に乗り、急ぎルーナが向かったであろう場所へ向かう。

 あのあと確認すると、やはりルーナの馬もいなくなっていた。


 ルーナも乗馬はできるが、俺ほど慣れてはいないだろう。そして病み上がりだ。おそらくルーナとあまり大差なく現地に着くことができるのではないか。


 ただ土地勘がないことだけがどうでるか。


 馬に乗りながらも、今までのこと、ルーナにどう話しかけるか、など考え事は尽きない。

 時間がたち、幾分か冷静になってきた頭で考える。


 そもそも、テオ兄という存在がありながらも、俺が候補とはいえ婚約者になったことでもっと疑問に思うべきだったんだ。ルーナにとってテオ兄がどういう対象なのかはわからないが。


 こんなときでも恋愛対象でなければいいな、と思ってしまう俺も大概だとは思う。

 そんなしようもないことを考えつつも馬を走らせる。


 休憩もせずにその場所へ急ぎ、馬もときおり乗り換えつつも着いたのは、もうすっかり夜も更けたころだった。

 さすがに少し疲労感はあるが、まだまだ動ける。


 もう道も薄っすらとしか残っていないが、森を入って少し歩くと廃教会があった。


(ここが、昔ルーナがいた孤児院……)


 暗闇の中でも存在感があるこの廃教会は、不気味ではあるがルーナがいたというだけで特別なものに見える。ルーナにとってはテオ兄以外の、良い思い出がなかったとしても。



(そしておそらくあちらの方向に……)



 地図で確認した場所を思い出しながら馬を進める。すると開けた場所にでて、そこにはルーナの馬もいた。


(やっぱりここにいた)


 自分の推測があっていたことにほっとしつつ、俺も馬から降りてつないでおく。

 そして歩き出すと、程なくして目的地にたどり着いた。


 今日は新月なのか月明りはなく、星だけがきらきらと輝いてた。

 それが湖面にも映って幻想的な光景を作り出している。


 その中に、湖の中で立っている人がいることに気づいたのはすぐだった。


 星の明かりに照らされたその姿は息を呑むほどに美しくて、なんだかとても遠い人に感じてしまう。


 茂みがあるのも気にせずに思わず駆け寄り、声をかける。



「ルーナ!!」



 今にも消えてしまいそうなその人は、ゆっくりとこちらを振り返った。



「……レイ、こんなところまでどうしたの?」



 それはいつもと何も変わらない声で。

 ルーナは笑顔で振り向いた。

 でもそれはいつもの笑顔じゃない。


──そんな顔で笑わないでほしい


 本当は、行き場もない想いでいっぱいだろうに。

 何も知らないみたいに、無理に笑わないで。

 笑っているのに、泣いているようにしか見えない顔で。


 俺には、そのままの笑顔を見せてくれていたのに。


 生まれて初めて、泣きたくなった。

 泣きたいのはルーナだろうに。


 あんなに2人で話したいと思っていたのに。馬を走らせながらもいろいろと考えていたのに。

 実際にルーナを目の前にすると何も言葉がでてこない。


 何か間違ったことを言ってしまうと、ルーナを永遠に失うかもしれない。

 今わかるのはそれだけだ。


 どんな言葉を言えば、ちゃんとルーナに届くだろうか。

 情けないことにルーナを前にするとただの一人の不器用な人になってしまう。


 (なんて、情ない……)


 あの日、ルーナと会った日。ルーナが俺に生きる力と勇気をくれたんだ。

 一人でいるときもルーナがいる、ただそれだけで強くなれた気がした。


 目が合えば笑いかけてくれて。

 一緒にいるだけで楽しくて。

 共に過ごした何気なく通り過ぎてきた日々は、俺にとってはかけがえのないものだった。

 

 ルーナが俺を救ってくれたように、今度は俺が。



 だから俺のそばからいなくならないで──







読んでいただきありがとうございます!

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