34、テオドール・ネージュラパン①
ネージュラパン王国では双子は忌み嫌われる。不吉なことが起きる、悪魔などとと言われている。そして奇しくも王族で一卵性双生児が誕生した。
双子が生まれたらどちらかは殺す、という風習があった。しかしさすがに王族ということもあり、議論が紛糾した。のちの王になるのなら、より優れた方を残すべきでは。そもそも殺さずともよいのでは。など。
そして成長過程を見て、優秀な方を残そうという結論になった。
そういう背景から、双子が生まれたなど発表はされず、王子が生まれたことだけ公表された。
そしてどちらがいなくなっても違和感がないようにと2人に「テオ」という同じ愛称がつけられ、2人とも「テオ王子」と呼ばれることになった。
このことは国の上層部での極秘事項となり、その中で呼び分けるのに兄がテオバルト、弟がテオドールと名付けられた。
どちらを選ぶか、という選択が控えているなか、周囲の人間は客観視するためなのか、冷めた目で2人をみることが多かった。
王子らにつけられたごく少数のメイドたちは、まるで腫れ物に触るような態度でお世話していた。
そんな殺伐とした雰囲気の中でも、2人で支え合って生きていた。
どちらかが死に、どちらかが生きるということを、選択したくなかった。
お互いがお互いを唯一無二の存在で、大切に想っていた。
そして数年後。成長するにつれて、2人で差が出てくるようになった。
魔力量は2人とも王族なだけあった多いのだが、テオドールは体が弱く、寝込むことが多かった。そして9歳の誕生日間近。体の弱いテオドールではなく、兄であるテオバルトの方がいいのでは、という意見が多くなってきたころ。
その頃にはすでに国は、2人の親である国王の独裁国家に成り果てていた。前国王が早く崩御したことで若くして国王となった現国王は、政務もせずに欲望のままに生きている。
そのときの気分で戦争を起こしたり、やめたり。また金遣いも荒い。
そして諌めようとしたものはすぐに処刑される。そして国王の周りには否を言う人はいなくなり、ご機嫌取りしかいなくなった。
そしてそんなとき、宰相が秘密裏に話をしにきた。
ただのご機嫌取り軍団の一員であると思っていたが、内心では違ったようで。
国のためにも2人には生きていてほしいのだと。
この疲弊した国を、かつての活気ある国に戻すためには、2人の力が必要なのだと話された。
最初は騙すために来たのではないのか、本当に心から思って言っているのか。甚だ疑問ではあったが、子供に懇願するくらいには本気なのだと感じた。
そのため、どちらか一人、城を秘密裏に出て時が来るまで隠れていることを提案された。
確かにそれならむやみにどちらか殺す、なんてことを考える必要もなくなるのかもしれない。
「わかった、その話にのろう。僕がでていくよ」
「兄上!?」
「いいかい、テオドール。僕は体が頑丈だ。どんな環境でも耐えることができると思う。ただ君は違うだろう。最近、魔力石で魔力の循環のほうは治ってきたが、それでも体が弱いことには変わりない」
「でも……」
「2人で生き残るにはこれしかないんだ。わかってくれ。月一度、宰相の手の者が情報提供に秘密裏に来ると言っていたから、手紙を書くよ」
「兄上……」
双子だからなのか、お互いの結論も一緒だということはわかっていた。それでも今まで心配ばかりかけていたから今度こそは、と思ったが、それは叶わなかった。
そして国内ではばれてしまうということも考慮された結果、シュルーク王国内にはなるが、国境近くにある孤児院に行くことになった。
もう亡くなった母上からもらったペンダントは、今までは2人のものだったが、この機会に兄上に持っていってもらうことにした。
それからは月に1度の手紙を楽しみに生きていた。その手紙も読んだらすぐに燃やさねなければならないとは言われたけれど。
兄上がいなくなったことでしばらくは城内も騒がしかったが、国王の「一人いればそれでいいではないか」の一言で静かになった。
そしてわかっていたことではあったが、やはり次代の王には体の弱い僕ではなく、兄上が熱望されていた。そのことを知り、辛くなかったと言えば嘘ではない。
しかし、兄上が帰ってくるためにも、僕も頑張らなくては、と勉強に勤しんだ。
手紙でリアという女の子のことが書かれたのはすぐだった。僕と同じで魔力が停滞している女の子。
親近感を持ったし、リアとの日常が書かれていた手紙は、殺伐とした生活の中でも僕の心を温かくしてくれた。
手紙もだんだんとリアの成長日記のようになっていった。桃色の髪色に金冠がある空色の瞳をしていてとても可愛らしいとか、最近はやっと笑顔も見せてくれるようになったとか、魔法を教えたらすぐに覚えたとか。
どうしてそんな魔力がある子が孤児院にいるのか、と疑問には思ったが、それよりもリアと過ごしている兄上が羨ましくて仕方がなかった。ただ孤児院の環境はよくないようではあったけど。
きっと僕だったらすぐに衰弱していただろうから、僕がもし行っていたらリアと仲良くなることも無理だったのかな、なんて想像しながら。
いつしかリアは僕の中では、勝手にだけど友達になっているくらいには身近な存在になっていた。
そして1年と少したったころーー
宰相から議会で2人とも殺さなくてもいい、との結論になったと教えてもらった。周りの人間からしたら1人は行方不明だからいまさらな感じなのだろう。
そのためいつまでも話しは進まなかったが、宰相がそこまでいうのなら、と結論をだしたらしい。
どちらにしても議会で結論をださないと、いつまでも連れ戻すことはできないので、宰相の粘り勝ちなのかもしれない。
そして宰相は意気揚々と兄上を迎えに行った。
僕は僕で兄上が戻ってくることはとても嬉しかったが、リアは大丈夫だろうか、という気持ちも大きかった。もともといじめられていたと聞いていたから。
そんな心配をしつつも、兄上の帰りを待っていた。
「あ!兄上!!」
「テオドール……!!元気そうでよかった……顔色がとてもよくなったね」
「うん、兄上のお陰だよ!本当に……無事でよかった……」
「ふふっ泣かないでくれ。やっと会えたのに」
そんなことを言っている兄上も涙目だったが、突っ込むことはしなかった。
再会の挨拶も終わったところで、気になっていたことを聞いた。
「そういえば……リア、は大丈夫……?」
「……大丈夫、ではないかもしれないが……約束をしたんだ。そのためにお互い頑張ると」
「約束……?」
「うん。しばらくは会えないけど、僕は必ず迎えに行くと決めた。そのために、僕は頑張るよ」
そう笑顔で言っていた。戻ってきた兄上はその言葉通りに、不在の間なんてなかったかのようにいろいろと学び、すぐに吸収していった。
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