28、君の隣
「やっぱり。ここにいたのか」
「……レイ」
いきなり聞こえた声にびっくりするも、聞きなれた声にすぐに誰かわかりほっとする。
レイの声を聴くだけでほっとするとは。
少しおかしく思いつつも、レイに問いかける。
「レイこそ、こんなところにどうしたの?」
「こんなところという自覚はあるんだな。探した」
「え?大丈夫よ。ちょっと気分転換してただけ。……もう戻るつもりだったし」
「……」
私をじっと見た後、レイは黙って私の横に座った。
強がりはレイにはもうバレているみたいだ。
ここは王城の片隅にある湖だ。
昔テオ兄と孤児院の近くの湖に遊びにいっていたこともあり、何かあったり、考え事をしたいときにはここに来ていた。
ときおりちらちらと視線を感じる。
もう日も沈み、星が輝く時間だ。
静かな夜だからか、ときおり感じる視線が妙にくすぐったい。
もう戻らなくては、と頭ではわかっているが、どうしても腰が重かった。
レイは言葉をかけることはせずに、二人でしばらく星空を眺めていた。
ただ、レイからは言いづらいことかもしれないから、一言言っておいたほうがいいかもしれない。
彼の方を見る勇気がなくて空を見つめたまま、レイに話しかけた。
「レイ、私に思っていることがあるなら、言ってね……」
「?何を……」
「シャルロットの言っていたこと……その通りだな、と思って……」
そう言葉に出してしまうと悲しくなってくる。
レイを婚約者候補という中途半端な立ち位置で縛り付けていることは事実だ。
レイに甘えすぎていたのかもしれない。
「……なら、俺の言葉も信じてほしい。俺は望んで、ルーナの隣にいる。……気にするなと、フェリシアにも言われただろう」
「……ありがとう、レイ」
レイの言葉に涙が出てきそうだった。
でも、泣いてはいけない気がして。
誤魔化すようにレイに頭を預けて、もたれかかった。
最初は驚いたのかビクっとしたが、少しすると戸惑いながらも慰めるかのように頭をなでてくれた。
頭を撫でる手がぎこちない。
不器用なレイの優しさに、また涙がでそうになったのはばれてないと思う。
しばらくそのままでいたが、はっと思い出した。
レイはシャルロットとは親しくしていたのではなかったか。
一緒に街へ行く仲だったはずだ。
そのことを思い出すともやもやして胸が痛くなった。
しかし今は私のことよりも。
あのシャルロットの豹変は私よりもショックが大きいのでは。
でもそのあとシャルロットを拒絶してもいた。
——どういうことか。
そう頭を撫でられながらもぐるぐると考えていると、そろそろ戻ろう、とレイに声をかけられたため部屋に戻ることにした。
……なんとなく何も聞くことができなかった。
◇◇◇
それからは、いつもと変わらない日常を送った。
変わらないと言っても、シャルロットはあれから学園を休んでいる。
休みすぎれば、出席日数が足りなくなってしまう。
少し心配になったが、「あんな人のことを気にする必要はないわ」フェリシアは冷たく言い放った。
レイも頷いている。
そしてルイーズについては今は貴族牢にいる。
シャルロットのことで頭がいっぱいだったから忘れていたのだが。
王女である私を貶めようとしていた、と後ほど自供した。
調べると噂もすべて、ルイーズによって流されたものだということが分かった。
ただ男爵令嬢であるルイーズ一人でここまでできるとは思えない。
おそらくシャルロットも噛んでいるのだろうが、証拠がでてこなかったようだ。
そのことも含めて追及すると、これ以上は知らない。このままでは殺されてしまう。助けてほしい、と最後にはいいだしたそうだ。
そのため、保護も兼ねて貴族牢にいれたとのこと。
シャルロットは自分の部屋に閉じこもっているらしいと聞いた。
テオドール殿下も翌日、一番に私のところに来てくれた。
しかし大丈夫なことを伝えるとしばらく顔を観察されたが、ほっとしたほうだった。
「君が悲しいと僕まで悲しくなる。僕ができることがあれば何でも言って」と言ってくれた。
優しい人たちばかりで、胸が温かくなる。
そんな私を横目に「何かあっても私が何とかするので大丈夫です」「その割には昨日彼女を助けたのは僕だけど……?」と険悪そうな会話していたのは聞こえないことにした。
◇
そしてそのあれから2週間ほどたった。
2年生になって初めての魔法実技の演習が行われる。
2年生の終わりには討伐訓練という名の課外授業がある。
それは移動も含めて1週間かけてのものになるが、それの練習ということになる。
そして今回はさらに初回なので学園の裏手にある森で行われ、森の奥にある湖を目指すそうだ。
湖には学校の先生が待機しており、名簿のチェックをされたあとはみんなで帰ることになる。
各グループ、木に括り付けられた指定された色のリボンを辿っていくそうだ。
この森は実技授業にも使われる学園管理の森で、魔法薬の素材となる植物なども育てられているらしい。
この学園の広さに驚くも、学園を一周するには馬車でも2日はかかると聞いてさらに驚いた。
「僕と一緒にグループを組んでくれてありがとう。まだ知っている君たちと組めて嬉しいよ」
グループ分けのとき、テオドール殿下が1人困っていたため、こちらから声をかけて一緒のグループになったところだ。
留学に来たばかりであまり交流できてない中、他のクラスメイトは隣国の王太子ということで声をかけるハードルが高かったのだろう。
「いえ、こちらこそ承諾いただきありがとうございます。一緒に組めて嬉しいです」
素直な言葉を伝えると、テオドール殿下はおかしそうに笑った。
「リア、ここは公の場ではないのだから、もっと砕けた話し方にしようっていったじゃないか」
「あ、そ、そうね……どうしても、畏まっちゃって……」
「………」
その瞬間、背後からじっとりとした視線を感じた。
気づいてはいるが、なんとなく振り向けない。
「それにしても、僕がここに入っても良かったの?」
そう、ここはロイヤルサロンである。
明日の演習の打ち合わせのために、ここに来てもらった。
「大丈夫ですわ。学年ごとにサロンは分かれてますし、今は私たちしか使っている人はいないので。それで明日の演習ですが……」
フェリシアが明日の演習についてテオドール殿下に説明をした。
彼は頷きながら真剣に話を聞いている。
始業式の日に私たちには説明されたが、テオドール殿下はそのときにまだいなかったから。
「へぇ、最後は討伐訓練なのか。それの初回だからまだ練習要素が強いのかな?」
「はい。そうなりますね」
「どんな魔獣がでてくるのかしら?どきどきするわ」
「……ルーナはいつも楽しそうでいいわね。まぁでもここは学園の敷地だし、そもそも角ウサギや牙狸ぐらいしかいないわ。初回だから、足場の悪い道に慣れるという意味合いもあるわ。王侯貴族だとどうしても、歩きなれていない人が多いから」
「そうなのね……」
フェリシアの説明を聞きながら少し落胆しつつも、ハイキングも楽しそう、なんて楽観視していたのだが——それは大きな間違いだった。




