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孤児院育ちの王女は、護衛騎士の重すぎる愛に気づかない  作者: はな
第二章

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20、側妃の残影



「……詳しく聞かせてください」


 何も言えなくなった私の代わりに、いつもは聞き役に徹しているレイが口をはさんできた。


「私もまだ詳細はわかっていないの。ただ、ルーナには身辺に気を付けてほしくて伝えただけなのよ。あなたがいれば大丈夫だとは思っているんだけど……あんなことをする人だから気を付けるにこしたことないわ」


 そう言いつつも今わかっていることを教えてくれた。


 以前、ジャネット様の手足として動いていた人物が目撃されたらしい。

 その男は当時の捕縛網をかいくぐって逃走しており、今になって再び動き始めたという。


「でも……もう8年もたったのに、いまさら?」

「私もそう思ったのだけれど、他に黒幕がいて、そっちは側妃の思惑とは別に目的があった可能性が高いわ」

「大丈夫よ。私ももう、簡単にやられるほどやわではないわ」

「でもルーナ、あなた魔法だけでしょう?魔法が封じられたら危ないわ」

「俺がいるから大丈夫です。ルーナは必ず守ります」

「ええ、お願いね」

「国王陛下には?」

「今日お父様から報告がいっているはずよ」

「わかりました」

「でも、そんなことなくわかったわね……」


 フェリシアは少しだけ視線を落としてから続けた。


「コラソン公爵家は現宰相家門で、情報網を広く持っているの。国内外に諜報員を置いているから、こういう話は早いのよ」


「ジャネット様は……私をどうしたかったのかしら」


 前のことを振り返ってこぼした言葉に、2人とも気を使わしげに私をみる。


 私が生まれたとき、側妃は私を孤児として偽り、国境の孤児院へ送った。

 表向きは死んだことにして。


 そこで側妃の手下で侍女だったナスティ先生を監視役として一緒に送り込み、8歳のときに助け出されるまで私は施設で虐待されて育った。


 これが『不遇の王女』と言われる所以である。


 お母様が私を妊娠しているときに、側妃はお父様に睡眠薬を飲ませて夜を共にしたように偽装し、そして子供ができたと主張した。


 お父様は最後まで否定したが、ジャネット様の実家の権力も強く、側妃にするしかなかったそうだ。


 お母様はそれがショックでだんだん体調を崩していき、早産で私を生んだあと出血も多く亡くなった。


 ジャネット様は側妃になったあとに子供は流産したそうだ。と、思われていた。


 お父様はずっとジャネット様のことを調べており、やっと薬を盛ったことや、亡くなったと聞いていた私を誘拐して孤児院にいれたことが側妃の悪事を暴く中で発覚した。


 王族は亡くなればすぐ荼毘に付される決まりがある。

 強い魔力を持つ者は、死後に魔獣化する危険があるからだ。


 まだ予定日よりだいぶ早かったため、お父様は隣国の式典に呼ばれて不在にしていたタイミングだった。


 それもあって、最初はお父様も私は亡くなったと思っていたようだった。

 お母様もショックで体調を崩したように見えたが、ごくわずかな毒を少しずつ盛られていた。


 そのため、早産で出血も多く亡くなった。


 私が生まれたのは奇跡だったと言われたそうだ。

 王妃は国王の言ったことを信じていたことが、のちに手紙がみつかったことで分かった。


 そのことはいまだにお父様の心に深い傷を残している。


 そして私がどこの孤児院いるかはわからず探し回っていたところに、王族だけがわかる魔力の波動をお父様とお兄様が察知した。

 そしてだいたいの場所がわかったことでやっと私を見つけることができたそうだ。


 仮にも側妃の悪事ということで大っぴらに公表することも出来ず、少数精鋭で動かなければならなかったらしく、私を見つけるのに時間がかかったらしい。


 私が生きていることはときおり、魔力の気配を感じておりわかっていはいたそうだ。


 しかしかすかなものだったため場所までは特定できず、しらみつぶしに探す一方でジャネット様のことを調べていたらしい。


「……思い出すと辛いことも多いけど、でも大切な思い出もあるから。それに今頑張れているのも、その経験があったからだもの」


 感謝なんてしていないけれど──


 それでも、あの時間があったからレイとも出会えたのだと思う。


 ——だから全部を“不幸だった”とは、どうしても思えなかった。

 

「……まあ、側妃の陰謀が何かわかったらすぐに伝えるわ」

「頼みます」

「……お願いね」


(側妃の……陰謀!!)


 こんな状況にもかかわらず、なんかとてもかっこいい、とかしょうもないことを考えていた。


 長い付き合いの2人にはばれていたようで、呆れたように見られていたことには気づかなかった。


「……なんでこんなに危機感がないのかしら。本当に拍子抜けするわ。どう伝えようか悩んだ私が馬鹿みたいじゃない」

「これがルーナだから、諦めるしかありません……」


 フェリシアは気を取り直したように、コホンと咳ばらいをして話を続けた。


「そもそもその事件のときに、ルーナをどうしたかったのかがわかっていないのよ。殺すわけでもなく、監視役一人つけて放置しているだけだもの……」

「まだわかっていないことも多いですからね……」


 その事件も、ジャネット様は取り調べ中にも関わらず、牢屋の生活が耐えられないと自殺したと聞いている。


 自殺ではなく、口封じでの他殺であれば城の内部にもまだ敵がいることになる。

 首謀者が死んでしまったことで調査が進まなくなってしまったのだった。


「まあ、今日は始業式でこれしか伝えられることもないから、ひとまず解散しましょうか。……少し、気になることもあるから、もう少しこちらでも調べてみるわ」

「もし、何か手伝えることがあったら言ってね!」

「気持ちだけ受け取っておくわ。この話は他言無用でね」

「はーい。フェリシア、ありがとう」


 そういうとフェリシアはふっと笑ってサロンを出て行った。


◇◇◇


「……大丈夫か?」

「え?」


 帰りの馬車で向かいに座ってるレイは、私の眉間をとんっと人差し指で軽く押した。

 咄嗟に両手で眉間を押さえる。


「ここ。馬車に乗ってから皺がよってる」


 無意識に寄っていたのか自覚がなかった。

 まっすぐに私をみてくることで少し恥ずかしくなり視線が泳ぐ。


「……ちょっと考えごとをしていただけよ。大丈夫」

「あまり心配するな。ルーナのことは俺が守るから……命に代えても、必ず」

「命に代えてもって……そんなこと、言わないで」


 レイは何も答えず、ただ静かに目を細めた。

 その表情だけで、彼の意思が変わらないことを悟ってしまう。


 絶対に、そんなことにならないようにしなければ。


 先ほど聞いた話のことを考える。ジャネット様は何がしたかったのか。

 会ったこともないけど、亡くなった今でも脅威となりうるのか。


 さきほど、黒幕はほかにいるという話も出ていたが果たして──




読んでいただきありがとうございます!

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