16,学園
「よし!今日から学園に入学だ!頑張るぞー!!」
「姫様、元気なのはけっこうですが、あまり無茶なことはされないように」
「だーい丈夫よ!ただお勉強を頑張るだけだもの!」
「……本当にそれで済むのなら、私はこんなこと言わないんですよ……」
今日はやっと迎えた学園の入学式。
ここで勉強して大魔法使いに一歩でも二歩でも近づくため気合いは充分。
それにこの学園はこの国の多くの人が憧れる学園でもある。そしてのちに大魔法使いと言われ、世に名を馳せている人はほぼ全員この学園を卒業している。
そこに通えるということが嬉しく、わくわくが止まらない。
「そろそろ学園につく。……大丈夫か?」
「ええ!大丈夫よ!」
「もう…大丈夫ばっかりじゃないですか……」
馬車の外を見ていたレイの問いかけに元気いっぱいに答えたが、それをナタリーはあきれつつも、しょうがないとばかりに見ていた。
そして無事に入学したが、今までの環境との違いで慣れるために思ったよりも時間がかかった。
「うーん……頬が痛いわ。筋肉痛かしら」
「そうかもしれないな」
「レイも笑って「遠慮しておく」
勉強がとかではなく外用の顔をずっとしていることに、予想以上に疲労が溜まっていたようだった。
いつも笑顔を忘れずにいたつもりだが、お澄ましの笑顔はまた違うのか。
1年生は主に行事はあまりなく、座学が多かった。実践などの本格的なことは2年生かららしい。
1年生は試験が1月に1回あり、全てがふるい落としのためなのか、気を抜くことは許されなかった。
少しずつ人が減っていくのだ。少し恐怖を感じる。
また学園外でも、お兄様の成人に合わせて王太子となるための戴冠式も行われた。
「お兄様、おめでとうございます!」
「ありがとう。ルーナリアもあと1年で成人するから、これから公務も増えるかもしれないけど。私もまだあと2年学園生活があるしね。その分父上に頑張ってもらおう」
「う、うむ……それはしょうがないからな」
そんな中勉強は一層頑張り、1年を通して主席を取り続けた。しかし私には気になることがあった。
それは次席のレイが明らかに私が主席になるように調整していることだ。
「……レイ。私に遠慮してるのかもしれないけど、調整してるでしょ」
「…………………そんなことはない」
とても小さい声で否定したが、このたっぷりの間が答えだろう。これ以上聞いても何も答えないだろうことが予想されたため、それ以上つっこむことはしなかった。
目の前のことをただただ精一杯こなしてこなしてこなしていたら、気づけばあっという間に1年が経とうとしていた。
あと1週間で春休みである……
◇◇◇
「あ!みて!ルーナリア様よ!それにシャルロット様とフェリシア様にレイモンド様も!」
「え?ルーナリア様って、あの『不遇の王女』と言われている?」
「そうよ!でもそんな様子を全然見せないから、名前だけが一人歩きしたんだと思うわ」
「そうそう!それにその噂にも負けないくらい優秀でいらっしゃるのよ!学年首席を1年間取り続けているのよ。もう王女として申し分ないと言われてるとか」
「そうなのね!それにしても、とても皆様優雅で美しいわ……」
「えぇ、本当に……」
その視線の先には美男美女のこの学園の1年生で上位4人が歩いている。
太陽にキラキラと反射してとふんわりと波打つ色の淡いピンクブランドの髪に、空色の瞳の中に金色の輪がある王家にしか受け継がれない瞳は神秘的な輝きを放っている、息をのむほどの美女は不遇の王女ことルーナリア。
左にコラソン公爵家のフェリシアと、右にディアマンテ公爵家のシャルロット。
ルーナリアの後ろには若いながらも魔法騎士と名高く、国内最強ではないと言われ、今や女性人気が王太子に次ぐ王女の専属護衛騎士であるエスパーダ公爵家のレイモンドだ。
王女と公爵家の3人が共に颯爽と優雅に歩いている。
そしてロイヤルサロンこと、現在は王族と公爵家の者しか入れないサロンに入っていった。
パタンっと扉が閉まった直後。
「ふー……笑顔でいるのも大変だわ」
「ルーナは表と裏が激しすぎるのよ」
「笑顔でいるのはまだいいのだけど…でもずっと同じ顔でいるから顔がこるのよ……」
「ふふっお疲れ様。でも悪い意味での表裏じゃないからいいのではない?」
「……」
ルーナリアが疲れたように伸びをしながらソファに深く腰掛けた。
フェリシアはつっこみながらもいつものことなので気にせず、いつも自身が座っている1人掛けの椅子に座った。
シャルロットはくすくす笑いながらそれを眺めている。
レイモンドは慣れた手つきで黙々とお茶の用意を始めた。
「それにしても、私ってまだ『不遇の王女』だなんて言われてるのね……」
「まぁ、なかなかルーナみたいな王女は稀じゃないかしら……」
「ええ、いろんな意味でね」
「え!いろんな意味ってどういうことよ!?」
「まあ『不遇』に関してはルーナは気にしなくていいわ。今は亡き側妃様のせいでそうなったんだから。あなたのせいではないわ」
「そうかも、しれないけれど……。もう孤児院にいたのも8年前の話なのに……」
ルーナリアは生まれてから8歳まで国の辺境にある孤児院で暮らしていたことがあるという変わった経歴をもつ王女だった。
ルーナリアとシャルロット、フェリシアがそんな会話をしている間にも、4人分のお茶をそれぞれ配り終えたレイモンドはルーナリアが座っている2人掛けのソファに自身も腰をおろして問いかけた。
「ルーナ、この後の予定は?」
「図書館に行こうかしら!この間の本はもう読み終わったから……」
「わかった」
「……もうあのぶ厚い本を読み終わったの?まだ借りて2日じゃない」
フェリシアがギョッとした顔でルーナリアを見る。
「頑張って読んだのよ!放課後は実習室借りて実践してみるつもり!」
「……いつもながら、すごいわね…」
「ええ。テオ兄と約束したから。大切な約束だから頑張らなきゃなのよ」
ルーナリアはそう言い、いつもしている赤い石のペンダントを制服の上からそっと抑えた。
「あぁ、あれね。孤児院で一緒だった男の子との約束…次に会うときまでに大魔法使いになるっていう…」
「そう!いつ会えるかわからないから、できることはできるうちにしておかなきゃ」
「……」
その言葉にフェリシアとシャルロットはちらっとレイモンドの様子を伺うも、いつも基本表情は変わらない彼は無表情だ。
ただレイモンドをわかっている人がみると若干顔が険しくなったことがわかっただろう。
「図書館の帰りに申請だしとかなきゃ」とのんきに言っているルーナリアを切ない眼差しで見つめているレイモンド。
「レイ、いつも付き合わせちゃってごめんなさいね。用事とかあれば大丈夫よ?」
「……護衛も兼ねているから問題ない」
「そう。いつもありがとう」
そういって微笑むルーナリア。この笑顔はいつもの張り付けている微笑みとは違い、親しい者にしか見せない笑顔である。
その笑顔で先ほど感じた暗い気持ちも飛んでいき、笑い返すレイモンド。
レイモンドも我ながら単純だとは思ってはいるが、この笑顔を見るたびに自分はルーナリアの特別であることがわかるため、他はどうでもよくなってしまうのだった。
ちなみにレイモンドの笑顔を引き出すことができるのはルーナリアだけだが、それをルーナリアは知らない。
「来週から春休みだから、お休み入る前にいろいろできることはしておきたくて。この学校にしかない本も多いから…」
「春休みに入るのにいつもより多めに本を借りれると教師が言っていたな」
「あ!そうだったわね!ありがたいことだわ!」
嬉しそうに両手の指先を合わせて嬉しそうに笑っているルーナリア。そんな呑気な会話をしている2人を横目、フェリシアは先ほどの会話を思い返す。
「約束ね…王子になって迎えにくるって……。そんなこと絵本でもあるまいし…」
「まぁ、幼い時の話だから…」
「あの子、何か生き急いでる気がするのよね……大丈夫なのかしら」
「たしかに、そこは心配よね…」
「レイモンドもレイモンドで、いつまで婚約者候補で我慢しているつもりかしらね。こんなにもたもたしてたら横から掻っ攫われるわ」
「そこはなんとも……」
「はぁ、ほんとに。いろいろ今後どうなるのか…」
「なるようになるんじゃないかしら…」
そんな2人の会話のすぐそばで、フェリシアとシャルロットはその様子を眺めているのであった。
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