15、日々はあっという間に過ぎていく
あの狩猟大会から2年ほどたった。
あのペンダント紛失事件は大騒ぎにしたくなくてあれで終わらせてしまった。
シャルロットには泣きながら感謝したら、あまりの勢いに驚いていた。
それからは自分の使える魔法の許容範囲を確認しつつ勉強は続けていたら、魔力量は歴代の王族の中でも多いほうだということが分かった。あの氷の世界は2,3日はあのままだったそうだ。
またここ2年で私は魔法の応用編を学びつつ、少しずつ何か役に立てそうなことが出来ないか試したりしていた。
あるときは風が吹いた時に鬘が飛んで悲しい顔をしていた大臣のために、育毛剤ならぬ育毛魔法薬を開発しようとした。
「よし、これであとこの薬草を混ぜて魔力をこめれば……」
「……それじゃなくて、こっちじゃ」
レイが言葉を発するのと魔力を込めたのは同時だった。すると小さな爆発が起き、近くにいたレイモンドに薬がかかってしまった。すると髪が爆発して、くるくるチリチリ巻いていて頭部がいつもの倍以上の大きさになった。何をしても戻らず、1週間ほどそのままだった。成功なのか失敗なのかわからない。
またあるときは、大掃除ででたごみをまとめて処分しようとしていたところにでくわした。燃やすのであればと魔法を使うため、両手をごみの山へと向ける。そしてあまりの量に、思い切り魔法を発動した瞬間。
ごみがある場所に、空高く火柱が上がった。
「──え」
それと同時に、耳をつんざくような警報音が鳴り響いた。王城は何か不測の事態が起きると音がなるように魔法がかかっているらしいとこのときに知った。
レイがすぐに動いて火を消そうとしてくれるが、その勢いは衰えることはなく、轟轟と燃え続けている。
色々な意味で、汗が止まらない。
「……ルーナの魔力量だと、もっと人がいないと無理だ」
「わ、私が今消「いや、これ以上は何もしないでくれ」
私がしてしまったことなので、消火をしようとするもレイに止められた。
早々に自身の魔法による消火作業を諦めたらしいレイは、これ以上広がらないように消火作業を続けてくれているが、レイにまで飛び火したのか服が一部燃えてしまった。
結局、駆けつけた魔法騎士団と魔法師団によってなんとか鎮火された。その後素直に事情を説明した結果、火魔法の扱いを反省文として提出することになった。なぜかレイも一緒に。完全なとばっちりである。
各方面にも迷惑をかけてしまい、本当に本当に申し訳なかった。
いつもレイには迷惑をかけて、散々困らせてしまっているだろうが、それでもずっと私のそばにいてくれた。
レイはとても優しい人だから、私を見放さないでいてくれるのかもしれない。
普通に見放されてもおかしくないことばかりしている自覚はあった。
断じてわざとではないのだけれど。
そして以前は遠慮もあったのか程よい距離感だったのだと思うのだが、その距離が近くなったと思う。本当に稀だが、あのレイが笑顔を見せてくれるようになったのはとても嬉しい。
そんな主に私の被害にあっているレイは、とてつもない進化を遂げていた。
あの小さく細い身体は今は面影もなく。日々鍛錬を怠らずに行なっていたため身長も伸び、細身に見えるが体中に筋肉がついて男らしくなった。
辺境に出現した大型魔獣のドラゴン討伐の応援要請が来たときは、見習いなのに手をあげ出兵した。
私は心配で引き留めたが、頑として譲らなかった。せめてお守りでも用意しようとしたら、前にあげた私の作った空色の石をピアスにしたようで、それをつけて欲しいと言われた。レイからのお願いは本当に珍しいためすぐに了承した。
どきどきしながら指定された左耳につけ、目があったときのレイの上目遣いにはどきっとしてしまった。
耳にピアスをつけたままの状態で固まった私の手を、レイに包むようにして手を握られ唇を寄せられる。レイは私の様子を伺いつつも平然としていたから自意識過剰なのかもしれない。でもその不意打ちの行為に顔が赤くなってしまった私はおかしくないと思う。そして「これでもう大丈夫だな」と笑ったのは心臓に悪かった。
そしてなんと、辺境騎士団が手こずっていたのにも関わらず、ほぼ一人で倒してしまったそうだ。
今ではその武勇を国で知らないものはおらず、レイは時の人となっている。
またそれを機に見習いから正規の騎士になった。レイの希望で近衛騎士に配属され、これから通う学園にむけて私専属の護衛騎士になる予定だ。
気づけばレイの周りにも人が多くいる。昔、レイのお兄様であるウィルフレッドと一緒になってレイを殴ってた人たちは、魔法騎士見習いの時返り討ちにあい、殴られることが痛いことだと身をもってわかったことで謝ってきたそうだ。
それからはそこそこに仲良くしているという。
この2年は大きく周りのことが変わったと思う。
そして、ついに念願の学園入学の日を迎える──
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