12、狩猟大会
──狩猟大会
毎年行われているその大会に初めて参加する。今後は公務を少しずつ入れていくと言われた。
ここには魔獣と呼ばれるものがいる。魔獣は森などに潜んでおり、定期的に討伐しないと街にまで現れることがあるそうだ。
定期的に騎士団が討伐しているが、毎年秋に魔獣狩りをして順位をつけることで、盛り立てる催しをしている。弓や剣などの武器を使ってもいいし、魔法を使ってもいいという。
優勝者には褒美が与えられる。ある程度の希望は聞かれるが、だいたいは王室が用意した剣などである。
私も初めて公務というものをすることに少し緊張しつつも、馬車に揺られながら会場に向かった。
レイモンドはまだ見習いではあるが実力を認められ、婚約者兼護衛として一緒に来ている。もう1人護衛はつくけど。
今回の主催者であるお父様の挨拶を王族のために用意された椅子に座って聞きつつも、周りの様子を眺める。
「───今日はみな、力をいかんなく発揮して、優勝を目指してほしい。結果を楽しみにしている」
「……父上の挨拶も終わったし、僕も行ってくる。ルーナ、くれぐれも気を付けてね」
「お兄様大丈夫です!心配しないで下さい!お兄様のほうが危険なんですから、気を付けてくださいね!」
「ふふっありがとう」
お父様が挨拶が終わり、お兄様はお父様の代わりに大人の部へ参加するために行ってしまった。
公務ではあるが、今日は私も魔法をどれくらい使えるか試すために参加する予定だ。
部門が大人と子供で分かれており、森の比較的小さな動物しかいないところで子供も参加できるそうだ。
ちなみに子供な部の狩猟対象は動物だが、大人の部の主な対象は魔獣になる。優勝を目指すなら。
お父様とお兄様には反対されたが、なんとか条件付きではあるが参加させてもらえることになった。
その条件が護衛と絶対離れないことと、お父様の目が届くところにいること。何かあればすぐに回収すると言われている。回収……参加させてもらえるから何も言わないけど。
そのためお父様は今回参加はせずに、子供用の狩場の見える位置に椅子を設置してそこから見てるという。
そして私は今日、いつものドレスではなく、ズボンの乗馬服を女性用にアレンジした服を着ている。
「今日はドレスじゃないから動きやすいわ!乗馬服っていいわね!」
「あまりはしゃぎすぎないように。怪我をする」
レイモンドに窘められつつも、意気揚々と2人を引き連れて子供用の狩場に向かった。火事防止のために火魔法厳禁になっているため、氷魔法を使うことにする。
いつもはあまり広くない部屋で魔法を使うため制御をしているが、今日は広いところなのでそこまで制御しなくてもいいだろう。
わくわくと少しの緊張から小さく深呼吸すると、私は両手の平を前に向ける。そして思い切り魔法を発動した瞬間。
氷の世界が出来上がっていた──
「…………?レイ、これは……」
「……やりすぎだ……」
「えっ、私がやったのかな」
「ルーナ以外、いないと思うが……」
見渡す限り、といっても森なので木があるから視線は遮られているためそんなに広範囲ではない、と思うのだけど。私が手を向けた方向が凍りついている。気温も下がったのか一気にとても寒くなった。吐く息が白い。
私の横にいたレイモンドをみると私側の右半分が薄く氷漬けになっている。
私が来たのが早かったからか周りをみると人は少ないが、みんなポカンとしている。否定してほしくて後ろにいるもう一人の護衛騎士のほうにも視線をむけるも、苦笑いの顔でうなずいている。
(え、これ全部私がしたの!?)
いまだに実感がないが、2人が言うからそうなのだろう。
周囲の喧騒もだんだんとすごいことになってきた。
「ルーナ!!」
そんな状況のなかお父様が駆けつけてきた。回収されることが予想されたため恐る恐る伺いみる。
「お、お父様……」
「ルーナ、もう満足しただろう。もうお前はおしまいだ」
「そ、そんな……!」
お父様はとても笑顔だが、その言葉は私にとって死刑宣告のように聞こえる。もうこの付近はしばらく使えない、他の子たちは予備のところに案内してあげてくれ。お父様は指示を出しつつ私を回収した。もちろんレイモンドももう1人の護衛騎士も、私をお父様から助けてくれるはずもなく。
(ま、まだ何もできてないのに……!!)
名残惜しく一帯が氷漬けになった場所に手を伸ばしながらも、お父様に肩に担がれて運ばれる。
こうして私の初めての魔獣狩りは一瞬で幕を閉じた。
私の控室のテントに行くとナタリーが驚いていた。しかし護衛騎士から事の次第を聞くと、呆れたような目を隠すことなく私を見る。
「そんなに、ダメだったかな……」
「まあダメというか、他の人の迷惑にはなっていたな。あれでは狩猟どころではない」
「そうかもしれないけど……」
「もうこうなってはどうすることもできないから、今回は諦めるんだな」
「はぁぁ……」
レイモンドに諭されながらもしょんぼりしていた私を、ナタリーは有無を言わせずにドレスに着替えさせたのだった。
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