プロローグ
新しく連載始めます。
基本は1日2回更新予定です。
よかったらお付き合いいただければ嬉しいです!
少しでも楽しんでいただけますように…
「──またか」
隣で煤をかぶった騎士、レイモンドが静かにため息をついた。
「いててて……また失敗したわ。今度こそいけると思ったのに……!」
ぱちぱちと燃え尽きた実験室の残骸の中で、レイモンドの冷たい声が響いた。
煤だらけの少女──ルーナリアは、涙目で頬を膨らませた。
王宮の一角にある魔法研究所は、今日も見事に黒焦げになっていた。
「“今度こそ”は、もう何十回目かわかってるか?」
「えっと……五十回くらい?」
「正確には五十六回だ」
即答されて、ルーナリアは肩を落とす。
「ルーナ。君の“今度こそ”は信用に値しないな」
「レイひどい!」
護衛騎士のレイモンドは、淡々と彼女の髪についた灰を払う。
その手つきだけは、やけに優しかった。
「今日はもうやめよう。夜会の支度があるだろう」
「えっ、もうそんな時間!?」
「王太子殿下の誕生日パーティーだ。遅れるわけにはいかない」
その言葉に、ルーナリアの顔が青ざめる。
「やばい、ナタリーに殺される……!」
──いつもの騒がしい日常。
それでも今夜だけは、少しだけ違う夜になる予感がしていた。
レイモンドは一瞬だけ、言葉を飲み込む。
(今夜……決める)
それは誰にも知られていない、静かな覚悟だった。
◇
王宮の大広間は、すでに祝祭の熱気に満ちていた。
煌びやかなシャンデリア、貴族たちの笑い声、華やかなドレスの群れ。
その中心で、ルーナリアの視線は固まる。
「……テオ兄?」
人混みの向こうに立っていたのは、ありえないはずの人物だった。
白銀の髪に透けるような肌、そして赤い瞳。
「初めまして。ルーナリア王女殿下、テオバルト・ネージュラパンと申します」
隣国ネージュラパン王国の王太子──テオバルトは丁寧な礼をして挨拶をした。
だがその視線だけは、最初からルーナリアを捉えて離さない。
そして一瞬の沈黙の後、彼は小さく問う。
「……もしかして、リア?」
その言葉に、ルーナリアの息が止まった。
隣でレイモンドの指が、そっと強く握られる。
(……こいつが、そうか)
静かな夜会の中で、何かが確かに動き始めた。
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