表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/86

エピローグ



 赤坂の夜景を独り占め、してるわけじゃないけど、冷たい空気は視界をクリアにさせるのか、かなり遠くの方まで見渡せる。

 大きなライトや小さなライトが点滅したり繋がったり、一言で言えば美しい。


「なんか飲むか?」

「僕はいいよ。先生はワイン飲むんでしょ?」

「ああ。じゃあ、勝手にやらせてもらう」


 ワイングラスに紅い液体を並々と注ぎ、先生は僕の隣に腰を下ろした。いつものパターンなんだけど、こんなにゆっくりした時間は久しぶりな気がする。


 あれから三週間。来週はクリスマスですぐに年明けだ。


「そうだ。優実さんからメール来てた」

「あ、なんだって?」


 亮市叔父のこと、僕らが『急がなければ』ならなかった理由は彼女だ。

 優実さんが叔父のやってきたことを知っていたとは思えない。盗撮のことだって隠してた。入籍より前に、事実を露わにしなくてはと急いでたんだ。


「彼女、叔父とは遠距離だったから、デートも実際会ったのは数回だったみたいだね。プラトニックだったのも、自分を大切にしてくれてると思ってたって」

「まあ、そういうこともあるかとは思ったけど、それで結婚を決めたとはね」

「叔父はイケメンで公務員。人当たりのいい、好印象の人物だった。優実さんが騙されるのも無理はないよ」


 メールでは、ようやく前を向けるようになったとあった。僕は心底安堵した。


「来週のクリスマス、どうする?」

「あ、本当だ。色々忙しすぎて、あっと言う間だったね」


 僕は先生との距離をあからさまに詰める。先生は待ってましたとばかりに空いている左手を僕の肩に回した。


「初めてのクリスマスだもんね。外食? それともここでパーティする?」

「どっちがいい? 私の手料理も飽きたんじゃないか?」

「まさかっ。それはない」


 先生の料理はレパートリーが広いのもあるけど、新しい試みとかもするから、飽きようがないんだ。

 それにこのところお互い忙しかったから、しっかり堪能することがなかった気がする。


「先生が嫌じゃなければ、おうちマスがいいな。僕も、手伝うし」


 上目遣いで先生におねだり。こういうの自分でもずるいと思うけど、これも末っ子の技の一つだ。


「こらあ……最近、可愛いが過ぎるな」

「かわ……」

「可愛いって言われるのは嫌か?」


 僕は口角を上げ、ふるふると頭を振る。


「先生に言われるなら、何万回でも全然気にならない」


 好きな人が可愛いと言ってくれる。それを何故嫌がらなきゃいけないのか。


「ふふん、それは良かった……」


 先生の視線が僕をロックオンする。いつもの危険な視線。いや、今となっては僕を甘やかす甘々な視線だな。


「キスし……」


 言い終わる前に唇が塞がれた。ワインの甘酸っぱい味がする。先生がワイングラスをテーブルに置く音がした。両腕が僕の背中を這うようにして包み込んでいく。


 ――――好きが溢れてくる。


 夜はまだ暮れたばかり、僕らの恋もようやくなだらかな道に入ったのかな。

 後は安全運転で、でもたまに暴走して……いつか目的地にたどり着くまで、ずっと一緒にいたい……。


 柔らかいソファーにうずもれるように、僕らは倒れ込んでいく。終わりよければとは言えないけど、あの日、僕がクリニックペガサスを訪ねたあの瞬間だけには感謝したい。


 先生と出会えて良かった。ただ、それだけが今の僕に言える正義だから……。



 

 完






最後までお読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ