ダグラス:グンテの大金庫
■Side-ダグラス
スタアトの街の南西に、グンテの大金庫はある。
古代文明の遺跡を改造したらしく、この辺りではあまりみない建築様式だ。
例えるなら、巨大なピザの斜塔だろうか。
砂塵の中、俺たちは砦と対面していた。
「グンテは、どうしてコレクションを砦に集めているんだ?」
普通、コレクションは自分の目の届く場所に置くと思うんだが。
「数が多すぎる上に、グンテの屋敷は防衛には向かない。取り返そうとする人間は常に、一定数はいるからな」
ブルーノと話をしていると、レジーナが前線から帰ってくる。
「ただいま」
「おかえり、砦はどんな様子だった?」
彼女にはしばらくの間、秘書という形で手伝ってもらっている。
「砦の兵力は凡そ2000だって。ただ、大罪剣がいるかは解らない」
闘技場襲撃は、大成功と言って良い。
これで”希望の剣”はテロ組織から、公式組織へと格上げされた。
それに、解放した剣闘士はほとんど、即戦力だ。
頭の中で、俺たちの戦力を整理する。
開放した剣闘士が350人。
一般の冒険者が250人。
”希望の剣”戦闘員が400人。
蜂起した一般民が凡そ、1万人。
大罪剣は、いても、多分一人だ。
広大な領土を持つ帝国は、守らなければならない場所が多い。
帝国中の他の重要地点にも、同時に人を集めている。
この地点に大罪剣を集中させる余裕は無いだろう。
「……小細工は不要だな」
俺には、兵法の知識なんてない。
もしあったとしても、知識だけの兵法なんて、毒にしかならない。
人数で圧倒しているなら、そのまま捻り潰すのが一番だろう。
待っていてくれ、ペンギー。
もうすぐ、助けにいくぞ。
「……」
俺は、指揮旗を持ち上げる。
作戦なんて、ない。
俺がこれを下ろせば、革命が、始まる。
「進め! 武器を取れ、市民よ!!」
城門の突破は、あっさり終わった。
何せ、数が数だ。
鳴り響く怒号、血の匂い。
これが、戦場、俺が始めた戦争だ。
一年前は、まさか自分がこんな立場にいるなんて。
考えもしなかったな。
「広間、突破できません!! 大罪剣”暴食”のベルゾガガです!!」
伝令が俺たちのいる本陣に帰ってくる。
やっぱり、出てくるよな。
「出るぞ!」
この為に、剣闘士と、アイアン以上の冒険者で固めた部隊を残しておいた。
背後から、ブルーノに呼び止められる
「ダグラス君……死ぬなよ」
「ああ、俺たちの戦いは、ここからだ」
ハルバートを、高く掲げる。
「突撃!」
怒号と共に、戦場を駆ける。
この程度、冒険者の宿のクエストボード争奪戦に比べればなんてことない。
雑兵を蹴散らしながら、広間にたどり着く。
「うがぁぁぁぁぁぁああああ!」
一際大きな怒号が、空気を震わせる。
そこには、鬼がいた。
全長は、三メートルはあるだろうか。
両手の巨大なフレイルを振り回しながら、民兵を蹴散らしている。
「”鏖殺”のダグラスが来てくれたぞ!」
周囲から、歓声が上がった。
”鏖殺”のダグラス。
サンドホッパーの大量討伐以来、呼ばれる様になった二つ名だ。
「あれが”暴食”のベルゾガガか」
身体中には無数の傷跡があり、血を流している。
背中には矢が何本も刺さっている。
息は荒く、視点も定まっていない。
それでも尚、この空間で……最強の生物だ。
「このっ!」
レジーナが、ボウガンからボルトを放つ。
ベルゾガガはそれを、歯で受け止めた。
俺は、彼に声をかける。
「ベルゾガガ! 皇帝グンテは、お前がそこまでして尽くすに値する人間なのか!!」
「グンテ、ヘイカ、オデ、ヒツヨウトシテクレル、オデノコト、ワカッテクレル、コワガラナイ、ダカラ、タタカウ!」
「俺は、お前が必要だ!」
「ダメ、オマエ、リヨウ、シタイダケ、オデノコト、リカイ、デキナイ」
そこまで、思考力があって。
お前はどうして、そっち側なんだよ。
「グレゴール! やるぞ!!」
「うあぁああああ!!」
”不屈”のグレゴール。
決勝戦でペンギーと戦った剣闘士だ。
「うがぁぁあああ!」
グレゴールが突撃し、ベルゾガガがそれを片方のフレイルで迎撃する。
グレゴールは自身のサイズに合わせて特注された大きな盾で、それを弾き返す。
さながら、怪獣大戦争だ。
そのまま肉薄して、取っ組み合いになる。
「オマエ、ジャマ!」
ベルゾガガは、もう片方のフレイルをグレゴールへむけて振りかざした。
その時を待っていた!
「させるかぁ!」
俺は駆け出し、ハルバートでそれを受ける。
ガラスが割れる様な甲高い音と共に、フレイルが砕け散った。
「ナン、デ」
この千載一遇のチャンス。
逃すものか。
「お前らが」
さらに一歩、前に出る。
ハルバートを返して、力を込めた。
「弱者を理解しないからだ!!」
肩口から、脇腹にかけて、一閃。
まるで豆腐でも切るかの様に、彼の鎧を、筋肉を、引き裂く。
巨体化が揺らぎ、地響きを立てて崩れ落ちた。
「ベルゾガガ、討ち取ったぞぉおお!!!」
ランキング落ち……儚い夢でした……





