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ダグラス:愚皇グンテ

■Side-ダグラス


 ペンギーが剣闘士奴隷になって、一年。

 遂にペンギーは、自由の身となる。


「そなたの功績を称え、白樺の短剣を与えよう」


「白樺の短剣?」


 ステージでは皇帝による訓示というか、儀式が続いていた。

 ペンギーの元に、木製の短剣が渡される。

 どういう意味があるのか解らず、隣に座っていたレジーナに問いかけた。


「ああ、剣闘士が自由になると、白樺の短剣を送る風習があるんだよ。名声の証拠というか、記念品みたいな」


「……なるほど」


 それを持っているだけで、ある程度身分が証明できるのか。

 彼女とそんな事を話している間も、儀式は進行する。

 やがて終盤に差しかかった頃、皇帝が変な事を言い出す。


「……気に入った。朕の側近に加えてやろう」


「お断りします」


 即座に断る、ペンギー。

 会場に不穏な空気が流れる。


「……そうか、残念だ。では、朕のコレクションに加える事としよう」


 皇帝の言葉が理解できず、思わず声を荒げる。


「な、なに……! コレクションってどういうことだ?」


 隣のレジーナが、眉をひそめて教えてくれた。


「通称、皇帝の大金庫。気に入った人間を結晶に閉じ込めて、監禁しているんだよ」


 腐ってやがる。

 腐ってやがる。

 腐ってやがる!!!


「……もう、俺の我慢も、ここまでだ!」


「ちょっ、ダグラス君!」


 俺は立ち上がると、ステージへ向かって駆けだした。

 そして、駆けだしているのは俺だけでは無い。

 今まで、ギリギリで抑え込まれていた市民たちの不満が、遂に決壊してしまった。


「ふざけんなこの野郎!」


「市民を、人を何だと思っていやがるんだ!」


「鉄腕を助けるぞ!!」


 周囲から、そんな怒号が聞こえる。

 俺も、同じ気持ちだ。


 ステージの前で、なだれ込む市民を必死に制止する兵士。

 突進の勢いのまま殴りかかり、手に持っていたハルバートを奪う。


「止まれぇ!」


「うるせぇ!」


 俺は、決めたんだ。

 もう、大勢に流されるままの人生を止めるって。

 間違っている物は、間違っていると、はっきり言って、行動する。

 ペンギーを助ける為なら、なんだってしてやる。






 ステージの、ペンギーが居た位置まで駆け寄る。

 そこには、地獄が広がっていた。


「いっいてぇ」


「かふっ……」


「ああ、内っがっあっ……」


 会場には、俺より先に我慢の限界に達して、俺よりステージに近い人たちがいた。

 当然、俺より先にペンギーの元へ辿り着く。


 そして今、地面でのたうち回っていた。


「やあ、ダグラス君」


 地獄の中心に立つのは、大罪剣の一人。

 優しくて、親切で、残酷な、猫獣人。


 ”憤怒と嫉妬”のサム。


「サム……どいてくれ」


 彼女は、何時もの様な、優しい声音で答える。


「いくら君の頼みでも、それはダメだな」


「どうしてだよ! お前だって、こんなの間違っているって、解っているだろ!!」


「ああ、そうだね。こんな理不尽、許される事ではないと、僕も思うよ」


「それなら!!!」


「仕方ないだろ? 皇帝陛下の命令なんだ」


 どうしてだよ。

 間違っていると解っていて。

 どうして、今を変えようと思わないんだ。


「一年前、俺がペンギーを助けると言った時、お前は応援していると言ってくれたじゃないか。あれは、嘘だったのか」


「いいや、勿論、本心さ。……だけどね」


 サムは一度言葉を区切り、俺の方を見つめる。

 深い深い、絶望を湛えた瞳は、まるで何も映していないかの様だった。


「それはあくまで、今の僕が持つ、特権階級としての利権を損なわない範囲で、だ」


「……サマンサァァァアアアアア!!!!」


 山賊の子供にすぎなかった、一年前とは違う。

 一年越しのリベンジだ!


「がぁぁぁぁあぁぁぁあああ!」


 俺の突撃に合わせて、サムの背後にいたペンギーも突撃する。


「まったく、君たちは」


 背後から迫るペンギーの斬撃を、サムは半身になってさらりと躱す。

 その躱す位置へ、俺は既に薙ぎ払いの一撃を繰り出していた。


「本当に、仲が良いんだから」


 鈍い、金属音が響く。

 突撃の勢い、遠心力、スキル、全てを込めた渾身の一撃。

 サムはそれを、片手のククリ刀で簡単に防ぐ。

 手には、まるで鉄の壁に打ち据えた様な感覚が帰って来る。


 あり得ない。

 あり得ない!!

 おい、物理法則!!

 仕事しろ!!!


「我が前に立ち塞がる者を尽く吹き飛ばせ! ゲイル・レーザ!」


 即座に、ペンギーが魔法を放つ。

 これに対しても、サムはククリ刀で迎え撃つ。


「なんっ」


 至近距離で放たれた暴風を伴う衝撃波が彼女を襲う。

 しかし、ククリ刀に触れた途端、弾かれた様に勢いを失った。

 逆に、押し返された圧力が、ペンギーを吹き飛ばす。


「これでっ!」


 サムの意識がペンギーに向いた瞬間に、ハルバートを翻す。

 逆サイドからの、薙ぎ払い。


「前にも言っただろう? 僕は”不沈”のサムだ」


 サムは俺の動きに即座に反応して、再びククリ刀でそれを受ける。


「それが、お前のユニークスキルか」


 彼女は俺から、視線を完全に外す。

 片方のククリ刀を視線の高さまで持ち上げると、刃を確認した。


「さあ、どうだろうね?」


「リピート!」


 サムの後ろから、ペンギーの声が聞こえる。

 ゲイル・レーザを逆噴射して、帰って来たんだ。


「うぉぉおおお!」


「がぁぁぁああああ!」


 ペンギーの攻撃に、俺も合わせる。

 持ち手をクルリと返して、大上段からハルバートを叩きつけた。


「……絶望を捧げて貰うよ」


 俺の攻撃は、サムのククリ刀に止められる。

 度重なる攻撃に耐えきれなくなったハルバートが、砕けた。

 サムはそのまま、俺の懐に飛び込む。


「くっ」


 伸びきった腕を掴まれ、ペンギーの方へ投げ飛ばされた。

 眼前に、ペンギーの魔法でできた刃が迫る。


「ダグっ」


 強い衝撃と共に、意識が暗転していく。

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