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ペンギー:二刀流

■Side-ペンギー


 なんだか、大変なことになった。

 とりあえず、難しいことは全部ダグに任せておけば良いかな。


「おい、なんで俺はあっちじゃないんだ?」


「お前は、お頭候補だろ? 子供の中でも、リーダーは別だ」


 と、思っていたら。

 雲行きがとても怪しくなってきた。


「……」


 多分、彼は分かっていたんだろうな。

 分かっていて、自分から犠牲になりに行った。


「そんなの、許さないよ」


 子供達の一団中で、ボソリ、と呟く。

 ここで出ていくのは、愚かな行為だ。

 黙っていれば、私は助かる。


「おい、やめろ、ペンギー」


 誰かが私の腕を掴む。

 知ったことか。


 私は、人恋しい人間なんだと思う。

 例えば、皆の言うことを聞いて、大人しく生きる。

 そうすれば、みんな優しくしてくれて、人間社会で、良い暮らしができる。

 それでやがて老いて、価値がなくなって。

 捨てられて、消えていく。


 それで、私の人生は満足か。

 一度目は、我慢した。

 二度目は、我慢しない、我慢できない!


「成功も失敗も善行も悪行も全部全部、私の物だ。いくらダグでも、それはあげられないよ」


 私は、今世で何一つ、嫌なことはやらない。

 ここで彼を見捨てて難を逃れるなんて、絶対に嫌だ!


 例え、その結果どんな目にあっても。

 私は後悔しない。


「そいつは、お頭候補じゃないよ」


「「ははは」」


 騎士たちから、嘲笑が上がる。

 むかむかむかむか!

 もう許さない!







 騎士を二人倒したところで、ダグが立ち上がる。

 多分、教えていたオーガ・アームかな。


「もう、しょうがないなぁ」


 近くにあったハルバートを拾う。

 ぽいっと、投げ渡す。


「独り占めさせるかよ」


 ハルバートを受け取った彼が、不敵に笑った。


「っち……第一小隊は下がれ。第二小隊、盾を持って陣形を組め。第三小隊は外周警戒、逃すなよ」


 この騎士、装備からして、バルバナット帝国だよね。

 だけど、色々と違和感がある。


 装備は、環境と状況によって変えるモノだ。

 起伏の大きい山に、重くて動き辛いプレートアーマーは向いていない。

 これじゃまるで、平原とかで戦争でもしに行くみたいだ。

 もしくは、凱旋パレードとか。


「俺が切り開く」


「うん」


 そんなことより。

 今はこの状況をなんとかしないとね。


「うぉぉおおおお!」


「がぁぁぁぁああああ!」


 ダグの突撃に私もついていく。

 この体だと、どうしても突破力が無い。


「ぐがっ」


 彼が盾を構えた騎士に、ハルバートを打ち下ろす。

 甲高い金属音と共に、盾が大きくのけぞる。


「がぁぁあ!」


 そこに、私が剣を突き刺した。

 攻撃直後の隙を、ダグがなぎ払いでカバー。


 あ、足下お留守くんを発見。

 蹴飛ばして転ばす。


「うおりゃぁ!」


 彼がハルバートを打ち下ろす。

 今度は私がサポート。


 これ、案外、どうにかなるかもね。






 えっと、どれぐらいたったかな。

 流石にしんどくなってきたね。


 相手も警戒して、迂闊にはせめてこなくなった。


「あれ、まだ終わってなかったの?」


 緊迫した空気の中で、場違いに軽い口調の声が聞こえた。

 女性の声かな。

 見ると、後方から馬に乗って誰かが来る。


「も、申し訳ありません!」


 さっきまで指示を出していた男性が、恐縮そうに答えた。

 やっぱり、変だよね?


 厚手の、青いハーフケープ。

 中には白いパリッとしたワイシャツ。

 ホットパンツに、編み込みで膝まであるブーツ。

 まるで、散策にでもきた様だ。


 山賊狩りにフル装備でくる騎士団も変だけど。

 山賊狩りに散策にいく様な格好でくるのはもっと変だ。


「いい、良いよ。そんなにかしこまらなくて。こんな任務、皇帝陛下の気まぐれでしか無いんだ」


 彼女はそういうと、軽やかな身のこなしで馬から降りる。


「君たちにもプライドがあるだろうけど、ここは僕に譲ってくれないかな。仲間が傷つくのを黙って見ているのは、性に合わないんだ」


 これまでの戦いで、私たちと騎士の間には、お互いのテリトリーができあがっていた。

 彼女はそれを、まるで何も解っていないかの様に歩いてくる。


 もしかして、お上り貴族様だったりするかな。

 それなら、彼女を人質にすれば活路が見出せるかもしれない。


「はじめまして、勇敢なお二人さん」


 彼女はそう言うと、フードを外す。

 わずかに青味がかかった黒髪、そして髪と同色の大きな猫耳があらわになる。

 猫獣人だ。


「僕はサム……”不沈”のサムだ」


 バルバナット帝国で、騎士団にこの横柄な態度。

 そんでもって獣人で、二つ名持ち。

 残念、お上り貴族様とは対極の存在だったね。


「ペンギー、お頭候補だよ」


「ダグラス、お頭候補だ」


「ははは、仲間思いなんだね。だけど、思いを通すには、しかるべき力と、手段が必要だよ。そうでなければ、全て無意味だ」


 解らない。


 私は、対峙した相手の強さが解る。

 強い個性なら、イメージを可視化することだってできる。

 だけどサムからは、何も感じなかった。


 そっか。

 彼女は、私たちと戦っている認識が無い。

 ただ、駆除作業ぐらいにしか思ってないのだろう。


 むかむかむか!

 私は、軽んじられるのが大嫌いだ!!


「がぁぁぁぁぁあああ!」


 突撃して一撃!

 と、思わせてその場で急停止。

 逆手に持った短剣の柄で、パンチを刻む。


「君は元気が良いね」


 軽く、素手で防がれる。

 パンチで意識を上に持って行ったところで、足払い。

 これも読まれて、けり返される。


 その足を待っていた。


「がぁぁああ!」


 蹴り返される勢いに乗って、高く飛び上がる。

 腕に自信があったのか、知らないけど。

 そんなナメた格好できた事を、後悔させてやる。


「さあ」


 大上段から、渾身の一撃を振り下ろす。

 背後では、ダグが私の攻撃に合わせてなぎ払いを放った。


「僕の時間だね」


 甲高い金属音が響く。

 私とダグの攻撃がそれぞれ、湾曲した剣……ククリ刀で防がれる。


「にとう……」


 ぞくり、と背筋に寒気が走る。


「あがっ」


 腹部に、激痛が走る。

 咄嗟に防御に回した剣の断面が、私の視界に写った。

 そう、切断面が、ある。

 折れた訳でも、割れた訳でもなく、剣が、斬られている。


「くっ……かふっ」


 立ち上がろうとするけど、傷が深くてそれどころじゃ無い。

 内臓出ちゃうかも。


「すこし、深く切りすぎたかな。悪いね、僕の剣は……曲がっているんだ」


 そうだね、ククリ刀だもんね。

 彼女はちらりと自らの武器を確認すると、ダグに向き直る。


「さあ、もう良いだろう? 僕は子供にもわかりやすく、現実を示した。もう、諦めてくれ。諦めは良いよ、人生を豊かにしてくれる」


「……」


 ダグは、何も答えず、ハルバートを構えた。


「闘うでもなく、逃げるでもなく、答える訳でも無い。僕に勝てないと思って、別の解決策を考えている訳だ。君に時間を与えるのは、なんか嫌だな」


 腹部に、何か感触がある。

 見上げると、サムの足が乗せられていた。

 ついで、ダグの方を見る。


 君にそんな顔、させたくなかったな。


「君が大人しく降参すれば、この子の命は助かるよ?」

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