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15せンチのおはよう  作者: 蔵樹 賢人
木曜日
10/11

第10話 15センチにいる彼女

”おはよう、シンジ”


 目覚ましを止めて起き上がる。─06:55─、いつもと同じ時間だ。


 顔を洗い、歯を磨き、髪をセットして、スーツを着る。

 机の時計は─07:15─だ。


「いつも通り。さて……行くか」


 駅までは15分。今日は暖かい。


「コートなくて正解」


 桜の花がちらほらとピンクの花を咲かせていた。


 電車は30分。いつものようにエリからのメールをチェックしてしまった。エリからのメールはもうないのに。


 一年前の今日、エリはもうこの世にいなかった。だから、一年前のエリからのメールは、今日からはもうないのだ。

 あの日から一年前のエリを追い始めた。現実が受け入れられなくて、楽しかった一年をずっと追いかけていた。

 15センチの距離に彼女を置いて、おはようを毎日聴き続けた。15センチの距離に彼女の言葉を閉じ込めた。15センチの距離に彼女の姿を……


 電車の窓に映る自分の顔が滲んでいく。


「昨日、墓参りして、吹っ切れたと思ったんだけどな」


 ピコン。


『今日会社来る?』


「冷めるなー、このタイミング。涙も乾くわ」


 電車の窓に映る自分の顔はもう滲んでいなかった。


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