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第10話 15センチにいる彼女
”おはよう、シンジ”
目覚ましを止めて起き上がる。─06:55─、いつもと同じ時間だ。
顔を洗い、歯を磨き、髪をセットして、スーツを着る。
机の時計は─07:15─だ。
「いつも通り。さて……行くか」
駅までは15分。今日は暖かい。
「コートなくて正解」
桜の花がちらほらとピンクの花を咲かせていた。
電車は30分。いつものようにエリからのメールをチェックしてしまった。エリからのメールはもうないのに。
一年前の今日、エリはもうこの世にいなかった。だから、一年前のエリからのメールは、今日からはもうないのだ。
あの日から一年前のエリを追い始めた。現実が受け入れられなくて、楽しかった一年をずっと追いかけていた。
15センチの距離に彼女を置いて、おはようを毎日聴き続けた。15センチの距離に彼女の言葉を閉じ込めた。15センチの距離に彼女の姿を……
電車の窓に映る自分の顔が滲んでいく。
「昨日、墓参りして、吹っ切れたと思ったんだけどな」
ピコン。
『今日会社来る?』
「冷めるなー、このタイミング。涙も乾くわ」
電車の窓に映る自分の顔はもう滲んでいなかった。




