エピローグ
〈エピローグ〉
タイムカプセルを発掘したあの日から二年半の月日が流れ、春菜は高校三年生になった。
春菜は花屋でアルバイトを続けながらも、夢や憧れと現実の仕事が異なる事を知り、一度は見失った目標を、別の形で見つけ出せた。
“樹木医になる”
それは、カードの力によって植物の命を粗末にしてしまった事への、償いから生まれた感情だった。
その決意をかつての仲間たちに伝えた。
夢が変わったのにみんな大いに喜んでくれる。
そんな中、一人だけ連絡が取れなくなった人物が居た。
――まさか……
春菜の直感がその人物を連想してしまうのは気にかけている証拠。
その不安を煽り、嫌な予感をさせるメールの着信を受けた。
早まる鼓動が抑えきれないまま、春菜はメールの文面を見て愕然とする。
差出人は風羽子。
添付ファイルの画像には、道路に生々しい爪痕が残っている。
こんな超人離れした事が出来る人は一人しか知らない。
「こんな事、出来るのは、ヒイロだけだ……」
それは最初に、カードの力を得た柊呂が、勇者の剣から放った衝撃波で電柱に着けた傷によく似ていた。
ただ、あの時と少し様子が異なる。爪痕の周りには血痕や、粘着質のような物体が光を放っている。
それは柊呂だけではない、“誰か”の存在を示唆しているように思えた。
春菜はその場に膝から崩れ落ちた。
柊呂はいつの間にか徐々に春菜たちと距離を閉じ始め、会う事もなくなり、とうとう連絡も取れない状態になっていた。
学校を退学したとの噂も流れた。
春菜は柊呂の家まで訪ね、柊呂の安否を気遣ったが、結局、柊呂は春菜に会ってくれなかった。
「二年も経って、どうして……あの時、カードは全部、焼いたのに!!」
春菜はひと目もはばからず、地面に何度も拳を打ち付ける。
そして気付いた。
自分の手首に唐草の模様が現れている事に。
「うそっ……何で」
急いで手首のボタンを外して腕を顕にする。
カードに乗っ取られた時に比べればかなり控えめだが、明らかに唐草のタトゥーが腕を這っていた。
鏡で自分の顔や首を確認し、首に少しだけ唐草のタトゥーがある事を確認する。
そして、鏡に写る自分の目をじっと見る。片目が緑色に光っていた。
「ハナ子……」
「春菜さん」
問い掛けに、緑の瞳はしっかりと春菜の名前を呼んだ。
「ごめんなさい。人を乗っ取る程の力を持った私たちは、意識をカードに戻す事が出来なかったようです。万が一、柊呂さんが勇者のカードを目覚めさせてしまうかもしれないと思い、この時まで私は春菜さんの中に残っていました。何もなければそのままで良いと思ったのですが……」
「じゃあやっぱり、ヒイロは勇者の力を発動させたって事だよね?」
「はい」
ハナ子ははっきりと答えた。
春菜は少し悩んでから、鏡を見つめた。
「ハナ子、力を貸して。ヒイロを助けたい」
「もちろんです」
芯のある声が頭にこだまする。
【私は貴方の願いによって生み出されたのですから】
春菜は軽く微笑んで、ハナ子の代わりに着けていた腕時計を外す。
「ヒイロは勇者なんかじゃない。ヒイロはヒイロだよ!」
相手が柊呂であるならば、一人だけではどうにもならない事を、春菜はちゃんと学習している。
春菜は顔を引き締めて立ち上がり、しっかりと携帯端末を握り締めた。
「みんなで、何度だって止めてやるんだからっ!」
仲間だった柊呂と対峙するために、春菜は力強い一歩を踏み出した。




