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勇者なんかじゃない  作者: ゆきや
第3章
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ここから“えせ方言”を使っています。

ニュアンスと勢いだけで書いたので間違っているかと思いますが、大目に見てやってください(>人<;)

〈第3章〉


 風羽子の実家でプロ魂というものを見た春菜は翌日、きちんとアルバイトに行った。

 そして、再三心配してくれた店長にお礼を言って、真実を伝える。


 嘘は通用しないと自分でもわかっていたからだ。


「そっか……喜んでくれなかったかあ」


 苦笑いを浮かべ俯いてしまう店長。

 それに対して助言したのはブレスレットのハナ子だった。


【春菜さん、店長さんに春菜さんの気持ちを伝えてみてはいかがですか?】

――私の気持ち?

【はい】


 自分の気持ちなど考えてもみなかった。

 伝えたのは配達の様子だけだから。


――私は……

「店長、私は店長の作る花束、好きです。男の子向けに作ったやつも素敵で、その子には合わなかったのかもしれないけど、私は店長の花がっ!」


 必死に言葉を見つけて店長をフォローする姿に、店長はふんわりとした笑顔に変わり、春菜の頭を軽く撫でた。


 春菜はこの、大きくて少しほっそりした店長の手が好きだった。

 幼い時から撫でられていた事もあるが、最近は同じように手が荒れてきた事で、店長がどれだけ努力をしているのかがわかってきた。


――プロの手。


「ハルちゃんは優しい子ね。ありがとう。つらい思いをさせちゃったわね」


 店長は春菜が傷心して、昨日のアルバイトを急遽休んだのだと理解したのだった。

 春菜は必死に首を横に振る。

 傷付いているのは店長の方だからだ。


 店長は一度頷くと、春菜の頭を撫でていた手を引き、自分の胸の前で拳を作った。


「もっとがんばらなくちゃ!」


――プロだ……


 春菜は昨日見た風羽子の父親と同じような目をする店長を見て、そう思った。



「ハルちゃーん、それ、外に出しといてくれる?」

「はーい」


 店長が声を張り上げて春菜に指示を出した。

 いつもより声が大きいのはそれだけ気合が入っている証拠なのだろう。


 この前の一件から、店長は花を見る目が真剣で少し怖いくらいだった。


「店長、そんな顔してたらお客さんが逃げちゃいますよっ」

「あ、そうね。いけない、いけない」


 指摘すると、直ぐに店長は普段の笑顔に戻ってくれた。


――店長って本当に凄い。


 春菜は指示された花が入ったバケツを、日の当たる外に運びながら思っていた。


【あの方が、春菜さんのなりたいものですか?】

「うーん、ちょっと違う気がしてきた」


 春菜は返答に困った。

 確かに憧れの花屋さんになれはしたが、理想と現実は違う。


 水仕事だから手は荒れ、たまに棘が刺さったりして傷だらけ。

 枝ぶりのいい物を水切りするのは握力が必要で、水と花が入ったバケツを動かすにも力が必要だ。

 春菜はそれらをアルバイトとして経験する事で、花屋は意外と体力仕事であると知った。


 春菜は指示された花の入ったバケツを外に置いて体を起こす。


――最近、腰にくるなあ。


 トントンと腰を叩いていると前方から、キョロキョロと何かを探している風の少女と、その子より少し大人びた、春菜と同い年くらいの少年少女の三人組が現れた。


 先頭の少女は腰まである漆黒の髪が印象的で、前髪も横髪も真っ直ぐに切り揃えられていた。大きくて真っ黒な瞳はキリリと引き締められ、口元もきっちり閉じられている。


 背後に居る少女は黒髪の少女より頭一つ分以上大きい。

 彼女が大きいのではなく、黒髪少女が小さいのだ。

 明るい茶色の髪は胸ぐらいまであり、大きく波打っている。

 風羽子と同じような髪型だが、顔つきがまるで違うので、同じには見えない。

 少しつり上がった目元に細いまゆ、最大の特徴は誰もが注目してしまう大きな胸と、くびれたウエスト、細く長い脚だ。抜群のスタイルを誇示している。


 そんな少女の傍らにいる少年もなかなかの美形だが、目を爛々と輝かせてあちこちを好奇心旺盛に見ている顔つきが、見る物によって表情豊かに変わるため、芸人のような印象を与える。

 ベリーショートの金色に近い茶色の髪は、襟足の方が黒い地毛のままのようで、見るからに“面白い人”だった。


「何か探してるのかな?……あのー!」


 春菜はたまらず三人に声を掛けた。


 花屋は接客業。

 アルバイトを始めた事で、春菜は進んで人に声を掛けられるようになった。


「何か探してますか?この辺、道が入り組んでるんですよ。お手伝いしますよ」


 先頭に居た少女は持っていた紙と春菜のエプロンの胸元にある文字を見比べ、確認していた。


 そして視線を下げる。


 春菜がつられてそちらを向くと、春菜のブレスレットが光ってしまっていた。


「げっ!!」

「結界!!」


 驚く春菜が驚いてブレスレットを手で覆うと同時に、少女が不思議な言葉を放った途端、自分の見える世界が赤と白と黒だけの世界になってしまった。


 まるでゲームの世界に取り込まれたかのような錯覚に、自分の目がおかしくなったのかと思ったが、少女たちも自分もちゃんと色を持っている。


「なにっ!? どうなってんのっ!」


 驚いていると、黒髪の少女が凛とした声を出す。


「この、虚け者があああああ!」

「はひいいいいい!?」


 あまりの声量と剣幕に、春菜は腰を抜かしてその場にへたり込んだ。


「まあや、いきなり過ぎとちゃう?」

「せや。出会い頭にそれはちょっと、なあ?」

「なあ」


 金髪の少年とスタイル抜群の少女が互いに確認しあっているが、“まあや”と言われた黒髪の少女は気にせず続けた。


「“奇跡の金木犀”などともてはやされていい気にでもなったかあ!」

「ご、ごめんなさいいいいい」


 取り敢えず謝った。

 ほぼ、条件反射と言っていいくらいだ。


「確定やな」

「せやな」


 少年少女が納得して、春菜が起こしてしまった事実をあっさり暴いていた。


 ふと春菜がその二人を見ると、蛍のように光が出ているのがわかった。

 しかし春菜の緑の光とは違う。赤い色としていた。


「な、どういう事……」

【私と同じ者が居ます】


 いつになく真剣なハナ子の言葉に、春菜は地面に突く手を握りしめた。


――……ハナ子、守って。

【はい】


 しっかりとした返事をした瞬間、ハナ子は光の粒になって春菜の帽子とグローブ、ブーツになった。


「へえ、この子は手首のアレがああなるんやー」

「ブレスレットが帽子と手袋と靴、やねん」


 少年が感心して言うのに対して、少女がきちんと言い直した。


「そっちが臨戦態勢なら、こっちも応戦せな、な?」


 そう言った少年は尻のポケットから御札のようなものを取り出し、春菜にかざして見せた。


「へーんげっ!!」


 軽い口調で言うと、御札は赤い粒子に変わり、少年の両手に拳銃が握られている。


「ええええ!?」


 柊呂と同じような力を見させられ、春菜は声を上げた。


「ほな、うちも」


 スタイル抜群の少女は両耳の近くで留めていたヘアピンをそれぞれ引き抜き、十字架を作るようにして手を前に突き出す。


「変身!」


 赤くまばゆい光で目が眩み、光が収まると、目の前には看護師服を着て、大きな注射器を持った看護師が現れた。


「かっ、看護師さん!?」

「そうや。どこか悪いところはあらへんか?」

「頭が悪いんや!頭が!」


 答えたのは春菜に喝を入れた少女だった。


「え? あ、そうではありますが……」


 春菜の成績は決して良いわけではないので素直に認めたが、出会い頭にそんな事を言われる筋合いもない。


「もう、なんなのっ!!」


 大声を出して気持ちを奮い立たせると、ハナ子がアシストするように春菜を立たせた。


「あれ、どんな力やろ? 検討もつかへん」


 少年は銃で春菜をくいくいと差して他の二人に聞いていた。


【こちらの力は暴かれてません。春菜さん、ここは戦わずに逃げましょう】

「うん、そうだね」


 今まで真っ向勝負などした事もない。柊呂のように戦い慣れているわけでもない。春菜が一歩後ずさると、その横から人が現れた。


「え?」

「へ?」

「は?」

「ちょ……」


 全員が驚いてその人物を見ると、その人も四人に気が付いて、持っていたカバンをボトッと地面に落とした。


 黒いショートヘアに生真面目そうな眼鏡の男性。


「なっ……」


 彼も春菜たちと同じように言葉にならない。

 そして自分の周りに広がる赤白黒の世界を、眼鏡を抑えながらきょろきょろ見ていた。


「ちょお、まあや!? これ、どないやねん!」

「結界壊れたんとちゃうん!?」

「そんな事あらへん! この結界は許可した者と、カードの力を持つ者しか入れないはずや!」

「カード?」


 乱入してきた眼鏡の男は怪訝な顔をして、落とした自分のカバンから一枚のカードを取り出した。


「え? 光ってる!?」


 それは春菜たちと同じ絵柄の入ったカードだった。


「しゅ、しゅうちゃん!?」

「……誰?」


 突然の乱入者は、春菜たちと一緒にカードに夢を描いた遠藤秀平えんどうしゅうへいだった。


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