ロシュ・ガルシナの苦悩篇
ささみさんよりネタ提供うけまして、ロシュが嫉妬しゃったよー的な番外編です。
ガルシナ夫妻に関して数ある"おとぎ話"の中から1つ、夫であるロシュ・ガルシナに訪れた苦悩の2日間についてのお話です。
ロシュ・ガルシナの屋敷には約20人ほどの使用人がいる。
料理人、執事、侍女、掃除人などなど。
数名いる侍女をまとめあげる役割を担っているのが侍女長であるマリア。
ロシュが溺愛する結婚して9年目の美しい妻・・・、実際には新婚ほやほや新妻のエレナ・ガルシナと侍女長のマリアが出会ったあるモノが引き起こしたある騒動。
それはロシュが朝早くから仕事に出かけた日の事だった。
エレナは現在、ロシュの妻としてガルシナ邸に住んでいる。
その為、実家の花屋は毎日営業することは難しく、週に3日程営業をしているだけであった。
今迄はエレナが栽培したものではなく、仕入れていた花を売っていたが、ガルシナ邸にいても何もすることがないエレナは自分で花を栽培することにし、ガルシナ邸の裏庭に花を栽培するスペースを設けていた。
今日もエレナはロシュが屋敷を出た後、すぐに花の様子を見に裏庭へと向かった。
色とりどりの花が温室の中で咲き乱れる。
ロシュがエレナの為に設けた素晴らしい設備。
エレナはここに来るだけでいつも気分が高揚する。
だが、この日。
エレナの気分が益々高揚する出来事が起こった。
エレナの護衛もかねていつも付き添っているマリアも思わず笑顔になる出来事。
それは、可愛い子猫が2匹、温室の中にあるソファーで眠っていたのだ。
「可愛い!マリア、見てください。とても可愛いわ。」
そっと子猫へと近寄るエレナ。
どこかはしゃいだようなエレナにマリアもにこにことしながら、子猫へと近づく。
「そうですねぇ、エレナ様。一体どこから入り込んだのでしょうねぇ。」
そっと手を伸ばし、細い指先で子猫のお腹をなでるエレナ。
「外は寒いけれど、温室の中は温かいから・・きっと温度に釣られてやってきたのね。でも、親猫がいないわ・・。餌でもとりにいってるのかしら。」
エレナはすやすやと眠る子猫をなでながら、周りをキョロキョロと見渡すが、やはり子猫以外には猫はいないようであった。
「きっと朝ご飯でもとりにいっているのでしょう。人間がいると近づかないかもしれませんから、今日はお部屋にお戻りになりますか?」
「そうね。そうします。あ、でも一応お花にお水はあげないと・・。」
子猫からそっと手を離すと、慌ただしく、だけれど音はたてないように、エレナは水やりが必要な花などに手早く水をくれ、最後に子猫の眠る姿をもう一度確認すると、マリアと共に温室を離れ自室へと戻るのであった。
部屋で刺繍や読書などをして時間を潰し、お昼には表の庭でマリア達と談笑しながら昼食をとり、あっという間に夕暮れ時がやってきた。
夕飯時になってきて、エレナはふっと子猫達のことを思い出す。
「ねぇ、マリア。子猫達はご飯を食べたかしら。親猫ちゃんと戻って来てれば良いけれど・・・。」
裏庭の温室が見渡せる廊下の窓から、心配そうに温室を見やるエレナにマリアは、一つの提案をした。
「一度温室の外から猫達を見てみますか?もし親猫がいるようでしたら、そのまま離れればきっと大丈夫でしょう。」
そんなマリアの提案にエレナは嬉々として賛同し、さっそく温室へと向かったのであった。
声を沈め、夕焼けにそまる中、そっと温室のソファーを見ようとした時、微かに子猫の鳴き声が聞こえて来た。
「子猫が泣いてるわ・・。親猫が一緒にいるのかしら。」
数多くある植物が視界をさえぎるせいで、子猫の様子があまり見えないエレナは、同じく目をこらしながらソファーの方を見やるマリアに問いかけた。
「良く見えませんが、どうやら親猫はいないみたいですね。」
少しの間、必死に目をこらしながら観察していた二人であったが、やはり親猫の姿はなく、か細い声で鳴く子猫の姿しか確認できなかった。
「やっぱり親猫が戻って来てないんだわ。きっとお腹を減らしているのよ・・。」
独り言のようにエレナは呟くと、温室の中へと足を踏み入れた。
マリアもその後に続き、子猫の元へと近づく。
エレナ達に気づいた子猫は警戒するように、ソファーの端に逃げた。
1匹はソファーから慌てて飛び降り、逃げるようにソファーの下に隠れる。
エレナは子猫に視線の高さをあわせるように腰をかげめた。
「おいで、怖くないから・・大丈夫よ。おうちでご飯をあげるわ。ね?ほら、おいで・・」
優しく囁くように言葉をかけながら、そっと手を子猫の方へと伸ばす。
決して無理矢理子猫に触ろうとはせず、ある一定の距離を保ったまま、子猫が寄ってくるのを待った。
それから、二匹の子猫を屋敷へと連れ帰ったエレナはマリアに頼み、夜はマリアの部屋で猫を世話してもらうことにした。
そして、その晩。
ロシュは城から戻り、出迎えたエレナの頬に優しくキスをおとした。
「今日は一日どうしていた?何か変わったことはなかったか?」
エレナの腰に手をまわし、エスコートするように食事の場へと進むロシュ。
エレナは子猫のことを頭の隅で考えながらも、その事を隠すように努めていつも通りの笑みを浮かべた。
「お花の世話と裁縫や読書などをして過ごしました。ロシュは何かありましたか?」
美しいエレナと会話をしながら食べる夕食がロシュにとって毎日の楽しみだった。
だが、今日はそんな会話の中、ふとした時にエレナがする表情がロシュは気になった。
食事をおえ、ロシュは一人書斎へとむかう。
書斎に着くと、ロシュは今日の食事中のことを思い浮かべ、エレナが現したいつもとの"違い"を思案する。
最初はわずかな"違い"だった。
「花の世話とは今日は何をしたんだ。」とロシュが聞いた時である。
エレナはいつもならば楽しそうに微笑みながら真直ぐとロシュを見て、何をしたのか説明するのだ。
だが、今日は少々違った。
エレナは少しロシュから視線をそらすようにして、「今日は水をあげただけなのです。」と言った。
ロシュは水をあげただけだからつまらなかったのかもしれないと思い、そのままやり過ごした。
そして、そのまま会話を続けると、またしてもおとずれたわずかな"違い"。
「明後日は夕方に城へいけば良いことになった。それまで買い物にでも一緒に行くか?」
いつもならとても嬉しそうにロシュをみるエレナが何故かぎょっとしたようにロシュをみて、無理矢理笑うかのような笑顔を見せたのだ。
「・・・ありがとうございます。楽しみです」
言葉では楽しみだといいながら、あまり楽しそうではない表情にロシュは疑問を抱いた。
だが、午後までしか出かけられないという事が不満だったのかもしれないと思い、またしてもそのままやり過ごした。
そして、決定的に何かおかしい、と気づくことになったのきっかけは、ロシュが
「明日の午後、1時間程時間があく。明日は花屋をあけるのだろう?お前が働く姿を見に行くことにする。」と言った時である。
エレナは困ったように笑い、いつもならありえない言葉をいったのだ。
「それが・・明日は用事ができましたので、花屋はあけないことにしたのです。せっかくロシュが来てくださると言うのに、ごめんなさい。」
この時ロシュは、やはり今日のエレナはおかしい、と気づいた。
今迄のは些細な"違い"だったが、花屋をあけないというのは大きな"違い"であるからだ。
両親から残された花屋をエレナはことのほか大事にしていた。
店をあけるのが週に3日程だけになってしまった今、益々大事に花屋を営んでいるのに、"用事"を優先させるという。
「・・・用事とはなんだ。」
不機嫌なことがすぐに察せられるロシュの声音に、エレナはびくり、と肩を揺らした。
「それは・・少し会いたい・・人?がいて・・。」
どこか言いにくそうに、会いたい人・・がいると言ったエレナにロシュは目を見開いた。
「会いたい人だと?!」
声をあらげエレナに問いただしたロシュにエレナは慌てて言葉を付け加えた。
「あ、でも、ロシュが思っているような人・・ではありません。本当にロシュが気になさる事はありませんから。」
そういいながらも、どこか慌てるように食事を終え、風呂場へと行ってしまったエレナ。
ロシュはそれから無言で書斎へと向かい、今に至る。
ーーーー会いたい人・・だが、俺が思っているような人ではないし、気にすることはない・・。ならば、何故はっきりと誰だか言わない!
考えている内に段々とイライラが増して来たロシュは、荒々しくイスから立ち上がると、寝室に戻りエレナを問いつめることにした。
そしてカツカツと足音をたてながら、勢いよく開けた寝室の扉。
だが、大きなベッドですでに寝てしまっているエレナを発見したロシュは、勢いをそがれてしまい、今、エレナを問いつめる事は諦めるのであった。
ロシュは自分の気を抑えるかのように大きなため息をつくと、エレナを抱きしめるように華奢な体に腕をまわし、自分もそのまま眠りについたのであった。
そして翌日。
エレナを問いつめることなく城へと来てしまったロシュは午後、エレナに会えるはずが会えなくなってしまい不機嫌で暇な1時間を迎えていた。
己の執務室にある豪華なソファーに座り、睨むかのように時計を見つめるロシュ。
側に控えていたホエルは怯えるように遠巻きにそんなロシュを見ながらも、好奇心がおさえきれずに、ついロシュに問いかけてしまった。
「あの・・・団長、今日はこの時間、奥様のお店に行くのでは・・っっひいいいっ」
ホエルの言葉を聞いた途端、まるで鬼のような表情でホエルを睨み無言で立ち上がったロシュは、そのまま怯えるホエルへとゆっくりと近づいた。
「だ、団長!ごめんなさい、いや、むしろ本当にすみませんでした。」
一日中不機嫌なロシュの地雷を踏んでしまったことに気づいたホエルは後ずさりしながらも、必死に何故か謝った。
壁にはりついて、逃げ場のないホエル。
ロシュはそんなホエルを睨んだまま、一言・・信じ難い命令をした。
「・・誰にも知られることなく、エレナが誰と会っているのか調べてこい。」
怯えながらも唖然とするホエル。
「え・・、団長、奥さんに浮気されてっっ・・・ひいいい」
またしても地雷をふんでしまったホエルはロシュからの凄まじい冷気をあびながら、逃げるようにロシュの執務室をあとにした。
「・・・浮気だと?!そんなこと許さん!!!」
一人、執務室で物に八つ当たりをしながらホエルの報告を待つロシュ。
被害額は相当なものだった・・・。
逃げるように城から出て来たホエルは、とりあえずエレナがどこにいるのか屋敷にいって、調べることにした。
地雷をよく踏んでしまうホエルであったが、本当は優秀な騎士なのだ。
馬を走らせようやく着いたガルシナ邸。
"誰にも知られることなく"という命令を遂行する為、ホエルは屋敷の外からまずは中を窺った。大きな庭に囲われた大きな屋敷。だからこそ、人の目につかない死角というものが所々にあり、ホエルにとってはとても楽な作業であった。
ーーー・・やっぱり屋敷の中にはいなさそうだな。侍女の話を盗み聞きでもすれば、何かわかるか・・。
ホエルは静かに庭を移動し、洗濯物を干している侍女の方へと音もなく近づき、物陰に隠れた。
「そうよねぇ、旦那様がいないとエレナ様はとても寂しそうだけれど、これでエレナ様もお寂しい想いはされなくなるわね。」
「あら、でも旦那様にバレるまでの話よ。きっと旦那様はお許しにならないもの。」
「・・そうかもしれないわね。きっと旦那様は自分お一人を愛してほしいはずだもの。」
「そうよー。きっと怒り狂うにきまってるわ。二股・・いえ、三股?とか責められてしまうのではないかしら。」
そんな侍女たちの会話を聞いてしまったホエルからは血の気がひいていた。
ーーーーど、どうすればいいんだ!これを団長に報告するのか?!いや、絶対に無理だ。無理・・でも命令だし、うわあああ。
頭をかかえ項垂れるホエル。
そこに問題の主、エレナがやってきた。
「あ、ごめんなさい、マリアを見ませんでした?ファインとジェネルと一緒に寝ていたら、いつの間にか結構時間が経っちゃって・・・マリアがどこに行ったか知りません?」
ーーーーな、なんだと!?寝ていた?!っていうか屋敷にいたんだ?!え、じゃあ団長と一緒に住む、この屋敷でファインとジェネルという奴らと・・、って本当に3股?!
ホエルはもうこれ以上聞いていられなかった。
これ以上聞けば、ロシュに報告する自分の命が消えそうだったからだ。
青ざめた顔色のままホエルは城への道のりを、ことさらゆっくり進んだ。
途中で馬をとめ、逃げそうになる自分を叱咤しながらも、進んだ。
そして、着いてしまった、ロシュの執務室。
ホエルは自分の頬を両手ではさむように叩き、覚悟をきめた。
「俺は命令を遂行する。俺は命令を遂行する。俺は・・」
ぶつぶつと呟きながら、震えそうになる手でドアをノックするホエル。
そして中から聞こえて来た「入れ」という低音。
ホエルは恐る恐る扉をあけ、中にいるロシュに挨拶しようと目線をあげた瞬間。
執務室の中の現状を目の当たりにし、固まった。
ーーーーひいいいっっ・・・!花瓶とか置物とか壊せるものは全て壊してるっっっ!
ホエルは無言のまま、ぎくしゃくと荒れ果てた部屋の中を進んだ。
そして、ソファーに腰をおろし、ホエルをじっと睨むように見ているロシュの元へと辿りつく。
「報告しろ」
響き渡るは低音すぎるロシュの声。
ホエルは震える唇から何とか声を出した。
「・・っっ報告します!殺さないでください!報告します!」
ホエルはすでに限界を突破した。
「だ、団長のお・・奥様は3股をしている模様ですっっ!相手の名はファインとジェネル!今しがたも屋敷にて彼らと寝ていた模様。これは洗濯をしていた侍女2名の会話と、あとから現れた奥様の言葉から得た事実を基に報告しております!わ、わたしは聞いた事を報告しております!!」
言い終えた瞬間、ホエルは何故自分はここまで直球に報告してしまったのか、と絶望した。
下を向いてしまい表情を見る事は出来なかったが、その時、ロシュから伝わってきた怒気をホエルは一生忘れない。
執務の途中であったのに、無言で執務室をあとにしてしまったロシュ。
ホエルは今、自分の命があることに感謝しつつ、ロシュに溺愛・・むしろ狂愛されているエレナの身を心配するのであった。
ものすごいスピードで町をかけていくロシュにギュールの民達は今度は何事かと噂し合った。
ロシュの顔は一瞬見たら魂を抜かれそうなほど恐ろしく、ロシュが通った道には顔を青くした人々が残ったという。
そして、ものすごい早さで屋敷についたロシュは、その勢いのままエレナを探し屋敷の中を歩く。
「エレナ!!!エレナはどこだ!!!誰か知らぬか!!!!」
怒鳴るロシュに怯える使用人達。
そんな頃、エレナはというと、ファインとジェネル・・あの子猫達と遊びながら花の世話をしていた。そこに、血の気をなくした顔でマリアが走ってやってくる。
「エレナ様!!!旦那様が戻られましたっっ!」
怯えるようなマリアの様子と、ロシュが帰って来たという言葉にエレナは慌ててマリアと共に温室を出た。
急いで屋敷へと進む途中、屋敷の中がとても騒がしい事に気づく。
「マリア、何か騒がしいけれど、ロシュに何かあったのですか?」
青ざめているマリアにエレナは尋ねる。
「そ、それは・・申し上げられません。旦那様が"何も話さずに黙ってエレナをつれてこい"と。」
エレナは、ふと考えた。
「ちょっと待ってください・・。もしかしてロシュ・・何か怒ってます?」
マリアはロシュの命令通り黙ってはいたが、ものすごい勢いで首を縦にふる。
エレナは、嫌な予感に胸をきしめかせながらも、ロシュの待つ部屋へと足を進めるのであった。
「ロシュ、入ってもいいですか?」
扉の前で入室をうかがうエレナ。
「・・すぐに入ってこい。」
中からかえってきた声音に、エレナはロシュが本当に怒っていることを知る。
二人の寝室である部屋で、ベッドに腰掛けてエレナを待っていたロシュ。
ゆっくりと開けられた扉のむこうから、困ったような表情でロシュをみたエレナに、ロシュは無言で近づくと、戸惑っているエレナの腕をつかみ、強引に引っぱり、ベッドの上へと投げ落とした。
「きゃあぁっ・・!」
微かな悲鳴をあげてベッドへと横になったエレナをロシュは押さえ込むように馬乗りした。
痛くはなかったがロシュのいつにない態度に驚いたエレナは目を微かに見開きながら、自分を押さえ込むようにしているロシュと視線を合わせた。
「ロシュ・・?どうかしましたか?」
そんなエレナの言葉をロシュは嘲笑った。
「・・どうかしただと?エレナの方がどうかしたのではないか?」
ロシュが見せた初めての嘲笑にエレナは怯えた。
「昨日の夕食の時からおかしいと思っていた。そして・・・今日、ホエルにお前の様子を調べさせた。そしたらどうだ。お前には俺の他に二人も男がいて、今日もこの屋敷でそれらと寝ていたという。」
顔には無理矢理浮かべたかのような冷たく歪んだ笑みを貼付け、そして瞳にはエレナへの憎しみを宿しているロシュに、エレナは言われた事は理解できずとも、ショックをうけていた。
思わず瞳に涙をうかべながら、ロシュを見るエレナ。
エレナの涙に気づいたロシュは一瞬戸惑うかのような表情を浮かべた。
「ロシュ・・私が愛するのは貴方だけです・・っ」
とうとう涙を溢れさせてしまったエレナ。
「どうして・・っ・・そんなこと思うのです?私は貴方に自分の全てを捧げました・・っ」
そんなエレナの言葉を無言で聞いていたロシュの表情が悲しみを現すのをエレナは気づいた。
「だから、貴方がそんな悲しそうな顔をされているのは嫌です・・・っ」
エレナの己を案ずる言葉にロシュは思わずエレナから視線をそらした。
「ならばっっ・・ファインとジェネルとは誰だ!」
怒鳴るように言葉を放ったロシュ。
だが、言われたエレナといえば、驚きすぎて絶句した。
それをまた勘違いしたロシュは、益々悲しみを顔に浮かべエレナをみる。
「何故何も言わん!愛しているのは俺だけだと言うのならば、そいつらは何者であるか説明しろ!」
段々と状況を把握したエレナは、思わず安堵し、ため息をつきながらも笑ってしまった。
そんなエレナの様子にロシュは眉をしかめ、エレナを睨んだ。
「ロシュ・・ファインとジェネルはとっても可愛い子猫です・・。昨日温室にいたのを見つけたんですけれど、親猫が戻ってこないようでしたので、屋敷に連れて来て世話をする事にしたんです。でも、ロシュはきっと私が動物を飼うのをいやがるでしょう?マリアにもそう言われて、夜はマリアの部屋で世話をしてもらったのです。さっきロシュが仰っていた"一緒に寝た"というのも、先ほど私ファインとジェネルとお昼寝をしたんです。多分その事ですよ?もう・・、ホエルさんもどうせならファインとジェネルが誰かまで調べてくだされば良かったのに・・。でもいくら反対されるからって隠していた私がいけませんよね。ごめんなさい、ロシュにつらい思いをさせてしまって。でも、こんなに愛されてるなんて私ってやっぱり幸せ者ですね。」
優しく微笑みながら言うエレナ。
眉をさげながら、悲しそうに謝るエレナ。
最後には、自分は幸せだと綺麗に微笑むエレナ。
胸につかえていた荒れ狂った感情がいっきに流れて消えたロシュは、己がとてつもない勘違いをし、挙げ句の果てにエレナを泣かしてしまった事を認識し、力果てたようにエレナの上に覆いかぶさりエレナを押しつぶした。
ロシュの下になったエレナは押しつぶされて重かったが、なんとか腕を伸ばし、優しくロシュを抱きしめた。
顔を赤くし、自分の言動や行動を後悔しながらも、どこか安心したような表情を浮かべているだろうロシュを想像しながら、エレナは今日も優しく微笑むのであった。
「・・ロシュ、愛しています。私の唯一の人。」
ロシュは静かに身を起こすと、エレナの愛の言葉に答えるかのように、そっとエレナの美しい笑みがうかぶ唇に口づけを落とすのであった。
そして、暫くお互いに何も言わず静かに抱き合っていた二人だが、ロシュがある事に気づき、どこか悔しそうに、睨みながらエレナを見た。
「・・エレナ、ではお前が俺と会う事を拒否してまで、会いたいといったのは"その"猫達なのか?それに明日夕刻まで取れた久しぶりの休みに買い物へと誘った俺に、あのような嫌そうな笑みを見せ頷いた理由は"その"猫達のせいなのか?」
言いながら、どこか段々と不機嫌になるロシュにエレナは嫌な予感を抱いた。
「あの、それは、だって本当に可愛いのです。ロシュもファインとジェネルを見ればきっと・・・ンッッ!」
荒れ狂うようなキスをし、エレナから言葉を奪ったロシュは、心配したマリアが仲間の侍女を連れ、様子を伺いに来るまで、エレナが泣いても止めずベッドの中でたっぷりとお仕置きという名の愛を示したとか。
こうして、ホエルを恐怖に陥れ、町の民をも怯えさせたガルシナ夫妻は、今日も巷で酒のツマミになるのであった。
ちょっと長いですが、無理矢理短編にしました。
ページ変えるの面倒だし良いよね!的な勢いで(笑)
では、ささみさん、ネタ提供さんきゅーでした。