その13
「……お前は今、何処にいんだよ」
「病院や。そこで沼田一家が治療うけとる。お、咲奇ちゃんが笑ったで」
雷を受けた沼田一家は病院に搬送され、治療を終えた。そういうことらしい。
「じゃあ、こっちにいる咲奇がスワンプマンか?」
「さあ? どうやろね。まあ、そこはどうでもええんちゃう?」
「良くねえだろ。スワンプマンはスワンプマンを作ってくんだろ? そうして自分の同種を増やしてく」
「そんなもんは俗説や。いろんな創作物で設定が引っ付いたり、ドッペルゲンガーと混在しとったり。いずれにしたってスワンプマン自体に害はないよ。やから僕の目の前におる咲奇ちゃんがスワンプマンやったとして何の問題もない。一番の問題は…… わかっとるやろ?」
「こっちにいる咲奇をどうするか、だろ?」
「そこにおる咲奇ちゃんが自分の居らん家族の安寧を見たら、それこそ殺人事件が起こるかもわからんなぁ。人知れず殺せたらポジション奪えるわけやし」
こっちの咲奇が釣り堀を必死で探り回っている。地面に屈んだり、空を眺めたり、釣り堀を覗き込んだり。
「もうわかっとるんやろ? 解決法」
黙って言葉を待った。
「そっちに居る咲奇ちゃん殺せば解決や」
「ふざけるな!」思わず声が出た。
「電話口で叫ぶなや、耳キーンってなったやろ」
「簡単に人を殺すとか言ってんじゃねえぞ」
「人ちゃうやろ。怪異や、偽物の化物や」
「こっちが本物かもしれねえだろ」
「どっちが本物やったか、なんてもうどうでもええねん。病院にいる咲奇ちゃんが家族と一緒に笑っとる。だからこっちが本物で、そっちが偽物、や」
歯を食いしばった。
「君は前にボソッと言っとったよな? 自分は存在する意味がなくなった、だから死ぬべきだ、とかなんとか。今君の目の前におる偽物かてそうやろ。その子に存在する価値があるんか?」
「……わかった」
「自分だけ特別扱いか? 価値がないとか言って死にたい理由でっちあげて。本音は自分の自尊心と向き合いたくないだけやろ?」
「わかったって」
「何が怪異の特性で死なれへん、や。ただ君が死にたくなかっただけやろ。ただの現実逃避のために悲観ぶっとっただけやろ」
「わかったって言ってんだろ!」いつからか私は地面に崩れ落ちていた。
「ま、君が結論出すんを待っとるよ。ほいじゃ葉月ちゃん、頑張りや」
電話が切れた。
私は、深く深くため息をついた。
「話は終わったのか?」振り向くと佐藤が立っていた。
「……どっから聞いてたんだよ」
「お前が叫び出してから。本物がなんだって?」
私は佐藤に説明した。佐藤の表情は変わらなかった。
「じゃあ、僕が殺してやろうか?」
「……は?」
「稲荷さんが正しいだろ。それが一番丸く収まる」
「てめぇ、意味分かって言ってんのか? 殺すんだぞ? この手で。ギュッと首を絞めて、咲奇の困惑の表情を見ながら、少しずつ減っていく脈動を感じながら。きっと一生消えないんだぞ? その覚悟がお前にあるって言うのかよ」
「……あるわけないだろ、そんなの」
「だったら!」私の言葉を遮り、佐藤が叫んだ。「じゃあ、他にどんな方法があるんだよ! これがきっと一番正しい行いなんだろ? そうだ、って言ってくれよ…… そうでもなきゃ」
「人殺しなんて、できるわけないだろ?」佐藤の声は震えていた。
私は、深く深く息を吸った。そして稲荷に電話をかけた。
「……病院の場所、教えろ」




