その1
思えば僕は死ぬべきだったんだと思う。死にたい瞬間は何度もあったがそれでも死ぬまでは至れなかった。あるいはその時、親の酒でも飲み勢いづけて死ぬべきだったのだろう。だから今こんなことになっている、とか、だからこんな思いをしているとかそういった話ではない。あえて何かを言うのであれば、死ぬべきだったから死んでおけばよかったんだ。
僕は他人に迷惑をかけるのが嫌いだ。人間は多かれ少なかれ他人に迷惑をかけて生きていくものだ。しかしそれが許されるのは価値のある人間だけだ。勉学が得意であったり、運動神経が抜群であったり、他人との協調性があったり、そういった秀でたものであるというのもと前提の元、他人にかける迷惑というものは成り立つ。あるいは甘えと呼ぶそれを他人にかけれるほど自分には価値がない。だから死ぬべきだった、という話だ。少なくとも死んでしまえば誰かに迷惑をかけることはない。死んだ瞬間を除いてにはなるが。
それでも死ねなかったのは僕に勇気がなかったからだ。生きるべき才能もなければ、死ぬための勇気もなかった。醤油をコップ一杯飲もうとしてみたり、出入りが容易そうな高所のビルを探したり、縄をかけれそうな場所を探したり、するはいいものの全て未遂に終わった。そんな勇気もない僕の死ぬ方法は、更に死ぬべき状況を作り上げることのみであった。文字どおり死ぬほど辛い状況になれば、死ぬしかなくなるから。
「……ねえ、怖いんだけど」
裏びれた公園で隣に座っていた卯月桃は言った。
「何がですか?」
「独り言」
どうも考え事が口から出ていたらしい。
「どこまで聞こえました?」
「別にどこまででも。君はずっとブツブツ何かを言ってたよ。聞き取れはしなかった」
「なら良かったです」
「良くないです。とても不気味なので良くはないです」
しばらく沈黙が流れ、後に卯月はため息をついた。
「後学のために言っておくけど、独り言は気を付けた方がいいよ? 気味悪がられるから」
「僕としては勝手に独り言を聞かれた、という思いなんですが」
卯月はむっとした。
「後学のために言っておきますが、時間は自分のために使ったほうがいいですよ。決してあなたみたいな人がただ不登校を説得するために毎日時間を使うべきではない」
「……善意は素直に受け取った方がいいと思うよ?」卯月は呆れたようにそう言った。
「でも、そう言う割にはちゃんと毎日決まった場所にいてくれるよね。私としては大助かり」
「……まあ、かわいそうですしね、あなたが。ただでさえ僕に時間を使わされてるのに、その上居場所まで探さなきゃいけないなんて」
「別にそれでもいいんだよ? 今度は家のインターホンを鳴らすだけだし」
僕が返せる言葉はなかった。
「とにかく、たまには学校で会おうよ。別に教室おいでなんて言わないからさ」
「わかりました。明日、保健室で待っててください」
「毎日それ言われて騙せると思ってるの?」
卯月は笑いながらそう言って去って行った。真昼の太陽の温かさで彼女の制服は少し汗ばんでいた。




