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第17話 小凪を迎えに

 気づけば十月も残りわずか。近年、上昇傾向にあった気温は、例年に比べてやや低くなっている。


 その差を肌で感じながら、俺は下校する生徒にまぎれ小凪(こなぎ)の通う学校へと向かっていた。


 なぜ帰宅せずに小凪の学校を目指しているのか。それは昨晩のことである。



 夕食や入浴を済ませた俺は、自室で静かに予習していた。


 そんな中、風呂上がりらしき小凪が部屋にやって来たのだ。


 もう慣れたことだと思っていたのだが、どうやら小凪は用があって来たらしく、ベッドに腰かけて唐突に「明日迎えに来て」と言ってきた。


 あまりに急な申し出に戸惑っていると、続けて小凪はその理由を説明した。内容は次の通りだ。


「──あたしにカレシができたって噂が少しずつ広まってきたけど、まだ信じてないやつが多いみたい。だから明日、人が見てる中で兄さんと恋人っぽく振る舞えば疑う人いなくなると思うから」


 これに対し懸念はあった。というか、最初に迎えを提案したのは俺だったが、そのときの小凪の反論はアイツにバレるかもというもの。


 当然俺はそれを言い返したのだが、どうやらその心配はないようで、迎えに行くことが決定したのだ。



 でも、なんでアイツに会うことはないってわかったのだろうか。


 そんな疑問はあるものの、俺がいくら気にしていたって無駄なことだ。小凪を信じることにしよう。


「しっかし、雰囲気が違うな……」


 小凪の通う学校は、この地域ではトップレベルの偏差値を誇り、名門高校としてもそこそこの知名度である。


 そしてその学校の周辺には、どこか気品を感じる住宅街が広がっている。ついでにうちがあるのは平凡で庶民的な住宅街な。


 少し居心地の悪さ──というより場違い感を覚えながら歩いていると、気づけば学校の近くまで来ていた。


 先ほどまであまり人と会わなかったのだが、今は小凪と同じ制服を来た生徒とすれ違う。


 若干視線を感じるが気にせずに歩く。というか気にしていたら胃に穴が開きかねない。


 さっさと小凪を連れて帰ろう。


 そう思っていたのだが、校門の前に到着したところで小凪からLINEが届いた。


小凪:用事ができたから、少し待ってて


 待て、だと……? この状況で?


 再度述べると、俺は今校門前にいる。通りすぎるならそれほど気にされないだろうが、立ち止まっていれば当然注目されるに決まっている。


 やべぇ、さっきの比じゃないほど視線を感じる。もう帰りたいんだけど。



「──夜露(よつゆ)さん?」


 次々と刺さる視線に耐えながら小凪を待っていると、突然凛とした声音で名前を呼ばれた。


 この声、どこかで聞いたことがあるような……?


 声のしたほうを見てみれば、そこには驚いたような表情をした女子生徒が立っていた。


 小凪よりもやや高い身長と、長い黒髪。そして覚えのあるこの呼び方。


 えっと、たしか……。


一原(いちはら)さん、だっけ?」


 小凪に『兄さん』と呼ばれるようになった日、某ファストフード店で出会った小凪の友人の一人。それが一原小百合(さゆり)さんだった。


 なんとか思い出し自然に返すと、一原さんは「はいっ」とどこか嬉しそうに頷いた。ちょっと可愛い。


「お久しぶりですわね、夜露さん。本日はどういったご用件で?」


「あ、あぁ。えっと、小凪を迎えに」


 そう答えると、途端に一原さんは目を見開き、両手で口を(おお)う。


 どうしたのだろうと首を傾げていると、一原さんは「そうでしたか」と頷いた。


「ということは、小凪さんのお付き合いしている方というのは、夜露さんのことだったのですね」


「あ、あぁ。まぁそうなるな」


 本当は兄妹だとバレないようにしないとな。少し緊張しながら、そう肝に銘じる。


「そういえば、他の二人は?」


牡丹(ぼたん)さんと芍薬(しゃくやく)さんなら、塾と委員会活動ですわ。いつも一緒というわけではありませんの」


「なるほど」


 たしかに、俺だって山田(やまだ)佐藤(さとう)と常に一緒にいるわけではない。白夜(びゃくや)はともかく。


「ところで夜露さん、小凪さんですが少々遅れることになるかと」


「あぁ、それなら小凪からLINEで聞いてるよ」


「そうでしたか。それで、このままここでお待ちになられますか?」


「……」


 一原さんの質問に、俺は辺りを見渡す。


 当然ながら、先ほどよりも俺を見ている生徒が多い。恐らく一原さんと話していたからだろう。


 正直気まずいのだが、かといって離れて待つというのも面倒だ。なんなら距離が空いた分、不審者らしさが増してしまう気がする。


 どこで待つべきか。そう悩んでいると、一原さんが「でしたら」と口を開いた。


「よろしければ、わたくしが小凪さんの所用が済むまでお相手しましょうか?」


「えっと、それは時間潰しに一原さんが付き合ってくれるってこと?」


「はい。そうですね、立ち話というのもなんですし、どこか座って待てる場所に移動しましょうか」


「え? でも部外者の俺が敷地内に入っても大丈夫なのか?」


「わたくしと一緒なので、大丈夫だと思います」


「そうなのか?」


「はい。わたくし、先生方から信頼されていますので。それに先生方も頑固ではありませんので、事情を話せば図書館くらいなら入館を許可してくれると思いますわ」


「な、なるほど……図書館?」


 そういえば、図書室って正確に言えば図書館なんだっけ。なるほど。


「それでは早速、許可をいただきに参りましょう♪」


「えっちょっ、待って一原さんっ」


 俺は一原さんに手を引っ張られ、学校の中へと進んでいった。




   ーーーーーーーーーー




「まさか、本当に許可が下りるとは……」


「ふふっ、大丈夫だったでしょう?」


 一原さんに案内されながら、俺は先ほどの教師の様子を思い浮かべる。


 最初から優しげな雰囲気ではあったのだが、一原さんが説明しただけで即許可が出た。もちろん学生証なんかで住所の確認はされたが。


 こんなに簡単に入れたっけ? 特殊すぎない?


 そうこうしているうちに到着したらしく、一原さんが「ここですわ」と言った。


「ここが………………」


 図書館だった。それはもう、まぎれもない図書館であった。


 いや、校舎の一室とかじゃなくて、ちゃんと一棟なんだな……。


「す、すごいな」


「そうですか?」


 俺の呟きに首を傾げながら、一原さんは誘導するように図書館へと入っていった。


 まぁ、ここまで来たわけだし入るか。



 入り口から少し離れた席に座り、俺は一原さんと雑談を始めた。


「しかし、勉強用の個室スペースまであるんだな」


「はい。ある程度ではありますが、音が遮られますのでより集中できるかと思います」


「そうなのか」


 もちろん話し声はなるべく小さくしてある。ついでに小凪にも図書館にいることは連絡済み。既読はついていなかったが。


「夜露さん、いつ小凪さんとお付き合いを始めたのですか?」


「えっとそれは……今月の頭くらいかな」


「そうなんですね。……不粋とは存じますが、どちらから告白なされたのですか?」


「えっと……」


 ここは俺からということにしていたほうがいいのだろうか?


「小凪からは、なんて聞いてるんだ?」


「残念ながら、お答えいただけておりませんの」


 つまり、俺がどう答えようと話が違う、ということにはならないわけだ。


 なら、やはりここは男である俺から、ということにしておこう。


「俺から、かな」


「そうなのですねっ」


 どこか興奮気味な一原さん。


 どうやら、お嬢様っぽい彼女も年頃らしく色恋沙汰に興味があるらしい。


 クラスメイトたちよりウザくないから、答えるのもやぶさかではないな。


「ふふっ、夜露さんはお優しいのですね」


「……どうしてそう思うんだ?」


「だって、普通であれば馴れ初めを話すのは恥ずかしいことでしょう? それなのに、夜露さんはイヤな顔一つせずお答えしてくださるので」


 まぁ、恥ずかしいは恥ずかしいのだが、正直真実ではないからなぁ。


 嘘をついてごめんよ、と内心で一原さんに謝っておく。


「一原さんは、好きな人とかいないの?」


 なにか話をしなければ。そう思い、俺は気づけばそう尋ねていた。


「わたくし、ですか?」


 そうですわねぇ、と考える素振りを見せた一原さんは、


「夜露さん、でしょうか」


「……」


 思いもよらぬところで名前を挙げられ、つい動揺してしてしまう。


「あのときのこと、本気でしたのよ?」


「あ、えっと、ぁ……」


 ふふっとイタズラっぽく笑う一原さんに、俺はなんて返せばいいかわからずただただ慌てるのみ。


 いや、え? でもあのときは、白夜に比べれば好みって話じゃ……。


 そう戸惑っていると、一原さんは「夜露さんは可愛らしいですわね」とからかってきた。


「か、からかうのはやめてくれ……」


「ふふっ、失礼しました。夜露さんが本当に可愛らしい反応を見せるので、つい」


 ペロと舌を出して謝る一原さんに、俺は思わずため息をこぼす。


 一原さん、もしかしてSっ気があるのか?



 それから一原さんと話すこと三十分ほど。


 一原さんが「そろそろ所用が終わるころでしょうか」と時計を確認しているとき、ふとスマホの通知ランプがついていることに気づく。


 なんだろうと確認してみれば、小凪から壁から覗いている犬のスタンプが送られてきていた。


 時間にして数分前。どういう意図で送ったのだろうか。


 そう首を傾げていると、突然一原さんが「あら」と声を上げた。


 つられて一原さんが見ている方向へと向いてみれば、



「……」



 どこか不機嫌そうな、小凪が立っていた。 

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