大人の恋心 19
19.
" Telephone 電話 "
私たちはJRの駅までお互いの仕事の話をしながら歩いた。
話しながら歩いたせいか、あっという間に気が付くと駅だった。
お互い反対方向なので、改札口を抜けた後、別れた。
「桂子さん、じゃあ。また電話します・・さよなら」
彼は手で電話をするジェスチャーをした。
「さようなら、今日はありがとうございました」
お互い手を振り合い、笑顔で最後は閉めくくった。
私はエスカレーターに乗り、心の中で少し嗤った。
小野寺さんったら、電話しますよと私に電話番号も聞かずに
そう言ったのだ。
私に花を持たせる格好の大人の対応だった。
それでいて電話番号を聞いてこないということで、もうこれきりですよ
と正直に私に彼の意図するところを伝えてきていた。
『あっぱれでござる』
気が付くと私は口に出して呟いていた。
不快感はなかった。
そして今日使った自分の時間が惜しいとも思わない。
『知世さん、ありがとう』
自然と彼女に対して感謝の言葉が出たのだった。
小野寺さんに話したからというわけではないけれども
翌日、やはり早朝から私は釣りに出かけた。
最近、以前から欲しかったメタルジグも手に入れてたので
早く使ってみたかったし、昨日の少し非日常的だった特別な時間を
もう一度反芻して、心の整理をしたいということもあって。
いつものように船で渡り、堤防でショアキングする。
岸から軽めのジグを使ってひたすら小雨の中、釣り竿を投げた。




