竜退治の騎士・後日談
ひとつ前の竜退治の騎士の後日談です。
戦いの描写はありませんが、少し怪我の様子が出てきます。
「騎士団が竜退治から戻ってきたよ!」
大通りから聞こえてきた子どもの声に、私は思わず顔を上げた。
子どもも大人も誰もが騎士団の凱旋を一目見ようと駆け抜けていく。
その様子が気になっていると、レストランのオーナーが無言で顎を動かした。
一瞬ためらったものの、オーナーにお礼を言ってから外へと駆け出した。
一目だけでいい。
無事な姿を見るだけで。
そう思いながら群衆の合間から覗くと、出立したときは煌びやかだったマントがぼろぼろになりながらも、使命を果たして戻ってきた騎士団の姿があった。
その一行の中に、仲間に支えられながら、腕を三角巾でつった姿で歩く彼を見つけた瞬間、私は一目見るだけでいいという考えなんて消え去って、気づけば彼の名前を叫んでいた。
「――リック……!!」
多くの人々の声でかき消されそうな中、彼がこちらを振り返った――。
***
窓の向こうには雲一つないまぶしい青空が広がっている。
「――いい訓練日和だ」
外を見ながらそんなことを言う彼を、私は果物の皮を剥きながら首を横に振った。
「ダメです。しばらくは安静にするよう言われてます」
「けど、怪我をしているのは腕だけだし……」
「絶対にダメです」
厳しい言葉で彼をベッドに縛り付ける。
彼は眉を下げて残念そうな表情をした。
そんな顔をされても、怪我をして包帯を巻かれた腕を見るたび、不安になるこちらの身にもなってほしい。
竜を退治して騎士団全員が戻ってきたのは、つい先日のこと。
怪我を負った騎士も多かったけれど、全員が元の状態に回復できるらしく、だれ一人欠けることなく竜退治を成し遂げたことはとてもすごいことらしい。
彼の腕もきちんと治るようで、竜退治で体力を消耗しているからしばらくは安静にするようにとお医者様から言われ、私はその言葉通り彼をベッドの住人にしてこうして見張っている。
「はい」
皮を剥いた果物を小さく切りフォークにさして差し出せば、彼は嬉しそうに笑って口を開いた。
一口で食べて美味しいと言う。
そんな姿を見るたびに、怪我を負ったものの、こうして無事に帰ってきてくれたことに心の底から安堵する。
「これ美味しいね。どうしたんだい?」
「あなたと一緒に竜退治に行った騎士の人が、お見舞いに持ってきてくれたんです」
竜退治から戻ってきたとき彼を支えていた仲間の騎士は、今でもよくお見舞いに来てくれる。
今日も先ほどまでお見舞いに来てくれていて、来るたびに彼にある話を持ち掛けていた。
「……本当に、騎士団に正式加入しなくて良かったんですか……?」
竜退治のために結成された騎士団は役目を終えて解散したけれど、彼は正式に騎士団への勧誘を受けた。
けれど。
「元の警備隊に戻るよ。俺はずっとここで過ごしてきたから、これからも下町の皆を守っていきたい」
彼は騎士団の勧誘を断り、怪我が治り次第もともと所属していた下町の警備隊への復帰を予定している。
名誉ある国の騎士という職を選ばなかった彼に、警備隊や下町の人々は考え直すよう何度も説得したけれど、警備隊へ戻るという彼の意思は変わらなかった。
「カレン。約束通り戻ってきたから、頼みを一つ聞いてほしいんだ」
「国王陛下みたいには叶えられませんよ……?」
「ははっ、そんな大げさなことじゃないよ」
竜を退治して戻ってきた騎士団には、国王陛下から希望する褒章を頂けた。
聞いた話では、金貨だったり昇進だったり様々だったらしく、そして竜にとどめを刺した騎士団長は王女様を望み、国王陛下はその全てを希望通り叶えたという。
彼が望んだのは町の警備隊への資金援助で、おかげで今まで足りなかった装備品などを用意することができたと警備隊は大喜びしていた。
そんな大きな希望を叶えて貰えたあとで、私に頼みなんて何だろう。
「君じゃなきゃ叶えられない頼みなんだ」
国王陛下に褒章を頂いた後で、私にしか叶えられないというものが思いつかない。
そう思っていたとき、彼は怪我をしていない方の手で私の背中を引き寄せ、強く抱きしめられた。
「竜退治で危険な目に遭うたびに、君の笑う顔が思い浮かんで、もう一度君の笑顔を見たい一心で戦い抜くことができた。君のおかげで、俺は生きて戻ってくることができたんだ」
耳元のすぐ側で声が静かに響く。
彼は今まで、竜退治のさなかの過酷さを語ることはなく、喜びの声に対して常に笑顔を返していたので、それは初めて聞く辛い声音だった。
震える声に、思わず彼の背を抱き返す。
私を抱きしめていた手が、少し力を抜いた気がした。
「国の騎士になった方が生活も楽になるし、地位も上がるだろうけど、俺は気さくで少しお節介なこの下町で、これからも君と一緒に暮らしていきたい」
窓の向こうから、近所の子どもたちの賑やかな声が聞こえてくる。
きっと今日も子どもたちがお見舞いといって遊びに来るはず。
名誉ある国の騎士でなくても、この下町の子どもたちにとって、彼は竜退治の英雄に変わりない。
「贅沢はあまりさせられないけど、大事にすると誓うよ」
「リック……」
「カレン、どうか俺と結婚して欲しい」
いつも優しい顔が少しだけ緊張しながらそう言った。
私の答えはただ一つだけ。
頷いて返事をする。
緊張していた表情がいつものように笑って、私も笑った。
これからも、こんな風に彼と笑い合って過ごす未来を思い浮かべた――。
スパダリも好きですし、庶民の中の英雄も好きです。
後日談、読んで頂きありがとうございました。




