抑えきれない心
他の義手がどうかは知らないけど、俺の義手には多分、意思がある。フェルの魔力が持つ残留思念。
今までの夢の世界で現れていた影の正体。その性質はフェルの中の少数意見を体現する事だ。フェルは今まで、俺に手足を奪った事を隠していた。だから、残留思念は俺に手足を奪った正体を伝えようとしていた。
「レイ……ジ……サマ……」
初めての影はフェルと一緒に寝た時に流れ込む魔力が見せていたんだと思う。極少量の魔力は状況を教える事しか出来なかったんだろう。2回目はフェルとの信頼が深まったのか、流れ込む魔力は増え、少しだけ情報が増えた。
「ワタシヲ…………ステ……テ……クダサイ」
3回目はフェルとより親密になったし、天照のヒントにによって答えに辿り着いたからか、ハッキリと答えに辿り着いた。けれど、あのフェルが俺を殺したいと思うだろうか?いや、アイツはそんな事は全く思わない筈だ。
目の前のフェルは……いや、義手に宿るフェルの魔力の残留思念は血の涙を流しながら、俺へと少数意見を伝えた。
「そうか……直ぐ迎えに行く」
お前もそう思っているのなら、俺はもう躊躇わない。時間もかけない。義手も義足も要らない。お前が横に居ればそれで良い。俺は、お前を捨てないよ。
「ミチビキ……マス」
彼女はあの時のように、微笑んでいる。
◆
誰も起こさないように社を抜け出す。誰も起きていない午前3時、静かな街並みだ。修学旅行で行った京都のような街並みだ。
俺の住んでいた日本の古き街……俺だって詳しく知っているわけでは無いけど、フェルに見せてあげたい。だから、俺は……!
「シェーンが滅ぶかの瀬戸際だってのに、俺1人で黙って行ってごめん。でも……これは俺の問題だから」
背中の刀を留めている紐を結び直し、コートのボタンをしっかりと留める。義手の感触を確かめる。
一瞬だけ、弱体耐性を解除する。
『待ってろよ……』
左の義手を人差し指で叩いてみる。白く薄い魔力がふわりと浮き上がり、俺の手を西の方角へと引いていく。
そっちに天の岩戸があるんだな。今、行くからな……!
(…………ふむ、行ってしまったか)
「まあ、これが一番良いんだよ。これが、レイジが一番幸せな未来だ。たとえ、シェーンが滅んだってな」
(それはそうだが……やはり、誰か1人くらいは一緒に……)
「大丈夫だ。アイツは1人じゃない。それに俺の奥さんが味方になる未来が無い訳じゃない。今、最低でもレイジは彼女の元へは辿り着ける。俺の千里眼に誓うぜ」
(ううむ……しかし、信じられぬぞ)
「……俺達が同行して、俺達が彼女が死なせてレイジが世界を滅ぼす。しかも、太陽の腕とかは関係ない。レイジだけの力でな」
(そのような事をする男では無いと思うのだが……)
「俺だってそう思うさ。けれど、アイツらは愛に狂ってる。……俺だって奥さんが殺されたら。どんな事情であれ狂うだろうさ」
(ふむ……まあ、我がレイジに出来るはここまでよ。次はレイジに帰りの宴か……レイジが死んだ後の戦いか……宴が良いのう……)
「全くもって同感だねぇ……」




