もっとイチャイチャ……? 前編
現在、俺はスギヤの街近くの森をフェルと歩いている。天気も良く、出てくる魔物も弱い。正に散歩日和だ。
「依頼内容のシュヴァハ牛というのは、どんな魔物なんだ?」
「シュヴァハ牛とは、その名の通り、牛の魔物です。身体は猪程度……我々の腰位の大きさで、突進されても吹っ飛ぶくらいで済みます。ゴブリンよりも弱く、一般人でも狩れる為に魔物とも認識されていない魔物です」
説明を聞くと、本当に弱そうだな……
さて、何故俺達が、依頼を受けて森に来ているか。それは30分前、ラーメンを食べ終えて外に出た頃だった。
▽▽▽
「異世界のラーメン、美味しかったな!」
「はい、ついつい替え玉が止まりませんでした」
ラーメン屋では、フェルは5回も替え玉をしていた。俺は2回が限界だったのに…なんか負けた気分だ。けど、店主も周囲の客も驚いていなかった。人の魔力は食事で即座に回復できるらしい。更に食事を魔力に変換すると、お腹には溜まらないそうだ。そんなに、俺の義手や義足が魔力を使っているのだろうか?
「分身に今回は魔力を半分託したのが、食事に響きました。申し訳ありません……」
「いやいや、別に気にすんなって…………ん?」
フェルを慰めていると、俺のマントが引っ張られる。振り返ると、小さな少女が俺のマントを引っ張ている。
「どうしたんだ?」
少女の目には涙が滲んでいる。睨むようにこちらを見ている少女はマントを離し、口を開いた。
「おかあさん……しんじゃうの…………もりのうしさんのないぞう……ひつようなの……」
少女は言いながら悲しくなってきたのか、俯い咽を漏らす。小さな少女の頭を撫でてやる。
こういうの、普通は引き受けちゃ駄目だろうし、偽善っぽくて嫌だけど……目の前で泣かれて、突き放せる程に冷酷じゃない。
「任せろ。お兄ちゃんとお姉ちゃんが直ぐに取ってきてやる」
△△△
「それにしても、見つからないな。弱い分、滅多に見つからないって訳じゃないだろ?」
「…………シュヴァハ牛ならもう遭遇していてもおかしくありません……」
「ふーん、そっ…くぁあ!?」
横から何かが飛んできて、押し倒される。すげぇモフモフして、うえぇ……頬を舐められた……
「おい、フェル……コイツ、何だ?」
「へ! ?あ……えと、何でしょう? 少し大きな犬のように見えますが…こんなモンスターは知識にありません」
フェルの知識にないって……どういう事だ?神様が知らなかったのか…?あり得そうだな。
毛並みの良い犬らしき生き物をワシャワシャと撫でてやる。俺を襲う気は無いらしく、体を起こしても問題は無いらしい。
「人懐っこいですね」
「グルァ!」
フェルが犬らしき生物を撫でようとした時だった。今までブンブン尻尾を振って撫でられていた犬らしき生物が、フェルには歯を剝き出しにして唸り始めた。
「……前言撤回、排除します」
「グルルルル……」
「どっちも待てよ! 犬はともかく、フェルは待て!」
戦い始めそうな1人と1匹の雰囲気に、慌てて立ち上がり間に割って入る。そんな、撫でれなかった位で喧嘩するなよ!
(神から直接創られし人間どもよ……)
急に頭の中に声が響いた。しかし、声は荘厳な男性の声…フェルではない。犬らしき生物が、座った姿勢で目を閉じている。まさかコイツの声……?
(異世界から訪れし少年よ、然り。我の声だ。我の名は天照。天照大神。我の名誉の為に訂正させよ。我は狼だ。犬ではない)
「えっ、すいません……」
天照……地球の日本の神様……位しか知らないけど、とにかく凄い神様なんだよな。でも、俺がやってたゲームでは女性だった気がするんだけど……?
(それもまた然り。地球での我は女神。しかし、我はこのシェーンでは天照の名を持つ、唯一の個体。東の国、ヤパンの守護神獣である)
「……ヤパンの守護神獣が何故、ハインリヒの方の街の近くの森に?」
(ふむ、混沌の心を持つ女子よ。貴様の善を取り繕う姿勢は好まぬが、素直な質問には答えよう)
フェルが混沌の心を持つ……なんか引っかかるな。
(ヤパンの民に似た魂の波長を持った者が突然現れた。生まれたのではなく、現れる。この様な事が出来るのはシェーンを管理する神共よ。もしも現れた者が悪の心を持ち、ヤパンに害成す者ならば、母の元へと送ろうと思うたまでよ。故に純粋なる獣の心による直感に審判させたが、異世界から訪れし少年は審判を乗り越えた)
え……えーと、難しい言葉遣いだけど、悪い奴なら殺したけど、良い奴だったよって事だろうか?
(その認識で良い。して、女子よ。貴様も審判されてしまったが威嚇された。純粋なる獣の心は善ならば懐く、悪ならば噛み殺す。しかし、貴様はどちらでもなかった。どう転ぶかは我にもわからん)




