もっとイチャイチャ……? 後編
天照の言葉は難しくて分からない。けれど、顔が青ざめていくフェルを見ていて、我慢が出来なかった。
フェルを天照から庇うように立ち、腰の剣を抜いた。膝が笑うし、腰から力が抜けそうだ。剣を持つ手だってカタカタ震えている。
(……歪ながら、信頼をしているのか。ならば、女子を追い詰めるような発言をした事は謝ろう。勇気を持ち、恐怖しながらも我に剣を向けた事を讃えよう)
「いや、こっちこそ神様に剣を向けるなんて……」
天照の言葉に腰が抜けて、地面に座り込みそうになったのをフェルが支えてくれる。
神様に剣を向けるなんて、恐ろしい事をしてしまったんじゃ。
(良い、今回は我の方が悪い。さて、少年、名は何と言う?)
「名前は……レイジ・スギヤ」
(ふむ、レイジ……良き名だな。ヤパンを訪れる事はあるか?)
「ああ、魔力の供給の要らない義手がヤパンにあるらしいって聞いたんだ。その為に近々行こうと思ってるんだ」
(ならば、我の社に来い。そこの巫女は貴様好みの美人だぞ?)
天照が笑うと、フェルが俺の剣を奪って斬りかかる。しかし、天照は口であっさりと受け止め、ボリボリと噛み砕く。天照がしっかりと噛んで、俺の足元に剣を吐き出した。
中央に橙の宝石が埋め込まれ、その剣が落ちているだけで、周囲が明るくなった気がする。
(女子よ、貴様も歪んでいるのう……いや、歪まざるを得なかったのか。同情し、先ほどの失言は詫びよう)
天照の吐いた剣を拾って、持ち上げてみる。刃には薄く火の紋様が入っていた。
持ってるだけで、体に力が漲ってくる。
(その剣は、我の加護が付いている。名付けるならば単純に太陽の剣……と言った所か。女子、貴様が使え。理由は違えど、隠れたくなる事が有る。その時に力を貸すだろう)
「ええ……使わせて頂きます」
受け取った太陽の剣をフェルに渡す。フェルは剣を受け取り、紫色の収納の魔法に丁寧にしまう。
良いな……俺もなんか使える武器が欲しいな……
(レイジ、貴様には無理だ。神の授ける物を受け取るには、別の神から干渉されすぎている。守護神獣の我の物でも受け取れぬだろう……)
「だよな……って、依頼受けてたの忘れてた! シュヴァハ牛! 狩らなきゃ!」
すっかり忘れてたけど、俺はシュヴァハ牛を狩りに来たんだ!あの少女のお母さんは大丈夫か!?
(牛か、5秒待て)
そう言って、天照が消え、現れる。その口には藍色の牛がくわえられている。
あの短い時間で、牛を狩ってきたのか……
(我のせいで、動物共は離れていたようだな。受け取るが良い)
天照は牛を地面に置く。フェルが無言で牛も収納の魔法にしまった。
守護神獣……改めて考えると、凄い存在なのでは……?
(引き止めすぎたな。レイジ、ヤパンで再会出来る事を楽しみにしているぞ)
天照はそう言いながら、モフモフの毛を擦りつけてくれる。なんて心地よい毛並みなのだろうか。撫でさせてもらうと、更に優しく毛を擦りつけてくれる。
(女子の収納を見よ。それを見て受け入れられるのならば、歪な信頼は真の信頼となるであろう)
天照は最後にそう言い残して、俺から離れる。フェルにも同じように毛を擦りつける。フェルが驚いているのは、天照に何か告げられたからだろうか。
となると、さっきの言葉は俺だけに告げられたのか?フェルの収納を見ろって……その程度で信頼が深まるんだろうか?
(では、さらばだ)
天照は光の柱となって、ヤパンの方へと向かって行った。
こうしちゃいられない。俺達も早く、少女の所へ向かわなきゃ!
「フェル、急ぐぞ!」
「あ、はい! 勿論です!」
フェルの手を引いて走り出す。どうにか間に合えば、良いんだけど。
「……………なんてもらえないに決まってる」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、何も言っていません……」
◆
「おにいさん! おねえさん!」
街に帰ると、少女が変な3人の若い男に囲まれていた。少女が俺達を見つけると、後ろに隠れる。
……知り合いとかじゃ、無さそうだ。
「お兄さんよぉ、その娘に依頼された商品くれないかなぁ…? 良い薬になるからさぁ……?」
なるほど、シュヴァハ牛は強い冒険者程、牛が弱すぎて生け捕りが難しい。しかも、毒や麻痺の良い薬になるから奪いに来るやつもいるかもな。
「アンタらも痛い目見たくないっしょ?」
男の1人が俺の肩に手を置こうとして、吹き飛ばされた。フェルが殴り飛ばしたのだ。その動作で、フェルの三角帽子は何処かへ落ちていった。
「な……何しやがる!?」
「何しやがるはこっちの台詞なんだよ。てめぇら……」
俺は自分の手でフードを外す。露わになる俺の顔に、周りの人が騒めいた。
「曲がりなりにも俺が領主だ。俺の街で好き勝手はさせねぇ」
俺の顔を見て、硬直する残りの2人をフェルが一瞬で気絶させる。
さり気無く、フェルがメイド服に戻っている。うん、魔女服のフェルも新鮮だったけど、こっちのフェルもしっくり来る。
「フェル、そこの馬鹿共は縛り上げて、後でギルドに苦情出すぞ。さぁ、依頼の品を渡そうか」
フェルが若者を縛り上げ、収納の魔法から小瓶を取り出した。
「シュヴァハ牛の肝を、治療薬にしておきました。魔法も使いましたので、殆どの病気が治ると思われますよ」
「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!」
フェルが小瓶を渡すと少女は笑顔でそれを受け取り、背中を向かって駆け出していく。周りの街の人から拍手喝采を受ける。
やってる事は褒められた事じゃないんだけど……俺の領地の事だから、まぁ良いか!




