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アレクシス 10年前と現在の運命の出会い 

 国王の間の中。


 伯父は、こんな夜分でも嫌な顔1つせずに、俺の呼び出しに応じてくれていた。


「おお、お疲れ様。はるばるオムラントから、大変だったな」


  金色の髪に金色の瞳をした俺の伯父は、まだ40にも満たずに、若々しい顔立ちをしている。


  その横には銀色の長い髪の美しい王妃が笑顔で座っているが、気の強さが顔に表れていた。夜会で疲れた後での俺の対応に、少し苛立っているのかもしれなかった。


「いえ、こちらこそ、こんな時間にお呼び立てして申し訳ありません」

  俺はペコリと頭を下げる。それを国王は明るく笑った。


「いや、いいんだ。それより、こんな時間に呼び出すなんて余程のことなのだろう。どうしたのだ?また大きな戦でも起こるのか」

「そうではありませんがーーーその、お願いがありまして」 

 少し、いいにくそうにしながらも、ここははっきり言った方がいいだろうと思った。


 オムラントからは、なかなか王都にはこれない。

 無駄話をして、肝心なことが言えずにオムラントに帰るなんて、絶対に嫌だった。

 ぐ、と俺は顔を引き締めて、伯父の顔を直視した。


「率直に言わせていただきます。イデア様を。ノイグラー公爵令嬢のイデア様を、俺の妻にいただきたいのです」

「「は?」」

国王と王妃が、2人して、かなり変な顔をしてみせた。


 声が耳に届かなかったのかと思い、もう一度、俺は同じ話を口にする。

「だから、ノイグラー公爵の娘である、イデア・イシュタル・ノイグラー様を愛してしまいましたので、俺の妻にしたい、と言っているのです」

 ガタン、と倒れそうになったのは、王妃だった。


「大丈夫ですか?」

俺が倒れそうになった王妃を支えようとすると、怪訝な顔で王妃は俺の手を遮った。

「いえ、触らないでいただけますこと?」

  まるで変態でも見るかのような瞳に、俺も少し腹が立つ。


「それは失礼しました」

形だけの謝罪をして、俺は改めて伯父に向き合う。


「ーーー考えて、いただけますでしょうか。王の許可をいただけ次第、ノイグラー公爵には、私の方からもご挨拶に向かうつもりですが」


 国王は、左手を額に当てて顔をしかめながら、右の手のひらを俺に向けて、ちょっと待てというポーズを取った。

「、、、少し、話をしても良いだろうか」

「勿論です。いくらでも」

気合いをいれて、俺は深く頷く。


 はぁ、と国王は小さく息を吐いて、俺にいくつか尋ねてきた。

「イデアちゃん、、、イデア嬢とは、以前からのお知り合いか?」

「いえ、本日、初めてお会いしました」

「、、、、、」

 

 自分の中で何か葛藤を堪えようとするようにしながら、うん、と国王は頷く。

「では、イデア嬢はまだ6歳だ。何故、そんな小さな少女を『愛した』などと言うのか、教えて貰えないか」


「それは彼女が、この世で一番神々しく、一番美しい人であると確信したからです」

 ガタン、とまた王妃が真っ青な顔をして倒れそうになった。 この人、身体が弱いのかな、なんて、ぼんやりと思う。

「、、、まぁ、好みなんて、人それぞれだからな。それは別にいいだろう。俺は、隣にいる王妃が世界で一番の美人だと思っているんだが」

「王様、、、っ!」

王の献身なフォローに気を取り直した王妃は、潤んだ瞳で嬉しそうに王を呼ぶ 。


「ーーー王様にとっては、そうなんですね」

 俺の、そんなことどうでもいいという対応に、王妃から強く射貫くような鋭い視線で睨まれた。


 別にいいじゃないか。王様だって、人それぞれと言ってくれているだろうに。


 俺と王妃がやや険悪な雰囲気になっている横で、ちらり、と国王は、言いにくそうにしながら、俺に尋ねてきた。

「ーーーこれは、一番大切な質問なんだが」

「はい」

 王のその言い方に、俺は姿勢を整える。

 ごくり、と王は唾を飲み込んだ。


「、、、その、アレクシス。お前は、その、あのイデア嬢に、すでに『触れたい』と思った、ということだろうか?婚約ではなく『愛したので妻に』という言い方が、とても気になって仕方がないのだが」


 言われて俺は、ノイグラー公爵が、彼女のふくよかな頬を自分の頬でグリグリとして、とても気持ち良さそうだったのを思い浮かべる。


「ーーーまぁ、恥ずかしながら、そうですね。触るととても気持ち良さそうだとは、思いましたが」

「『気持ち良さそう』?」

ぎょ、と、王と王妃は目を見開く。


「つ、つまり、結婚したら、すぐにでもイデア嬢に『触れたい』ということか?」


 そんなに興奮して聞くことだろうか。

  王達が何を言いたいのか、よくわからなかった。


「?ーーーまぁ、すぐにでも(頬を)触りたいですが、それが何か問題でも?」

  俺が平然と言った途端、伯父はかっと目を見開いて、俺に頭ごなしに怒鳴り付けた。


「問題しかないわ、この馬鹿もんがっ!!!」

 国王という名をその場で捨てて、伯父だけとなったその態度。


 あまりの怒声に、耳の鼓膜が破れるかと思った。両耳の穴に指を入れて、俺は顔をしかめる。

「、、、うるさ、、、」


 伯父は勢いよく立ち上がって、その金色の眉を吊り上げると、俺を刺すように指差した。

「いいか。イデア嬢は、この国の第2王子であるジュリアンの婚約者だ。絶対にお前には、指1本触れさせんから、覚えておけ!!」

「ーーーえ」

 そんなの、聞いていない。

 愕然としてしまう。


「それから、お前には金輪際、よっぽどのことがない限り、王都の夜会への出席を禁ずる!第2のイデア嬢のような存在が現れたら、目も当てられん。いいな!わかったな!?」

「、、、、、」

 俺は、ただ頷くしかできなかった。


 イデア様のような人が他に現れるわけもないと思うが。あんなに強く凛々しく輝かしい人が、この世に2人いてたまるものか。 

 

  そう言い返せなかった自分が、情けなかった。


  地位的にも、早く婚約をした者としても、第2王子に敵うはずがない。 俺には、その王子とイデア様を取り合う資格さえ、なくなってしまったのだ。


 約束通り、もう王都にはこない。

  そう言って、傷心したまま王宮を離れた俺が、オムラントに帰って俺を待っていたものは、ガリガリに痩せて、皮と骨だけになった母の遺体だった。


  そして母達が俺を置いて家を出たのは、母の家出ではなく、継母の陰謀だったと知り、大きく後悔した。


 ーーーー何故。と思う。

 何故、自分はこんなにも愚かなのか。

 そして何故、こんなにも苦しいのだろう。

 母を苦しめた全ての人が、引き裂きたいくらいに憎く、恨めしい。

 母が生きている間にそれに気付けなかった自分さえも憎悪し、自分に罰を与えたかった。


 そして俺は神に誓った。

 母や妹を苦しめた人間全てを、必ず粛清することを。

 こんな醜い事件が起きるくらいなら、もう、結婚など、しなくていい。そう思って『結婚をしない』という誓いまで立てた。

 

 それなのに『イデア様以外とは』という条件をつけたのは、イデア様との可能性はもうないと思いながらも、どうしても未練が残り、この恋心を捨てられなかったからなのだろう。


 今でも思う。

 彼女がどのように大きくなり、どのように綺麗になっていくのか。

 

 風の噂のイデア様は、半年前まで、相変わらず悪名高く、残虐非道の代名詞となっていたが、半年前くらい前から、ジワジワと真逆の噂を聞き出した。


「優しい」「癒し」「穏やか」

 どれをとっても、あのイデア様とはかけ離れている気がして、落ち着かなかった。

 彼女に何か、あったのだろうかと心配になった。


 そして、その頃だっただろうか。

 俺の前にもう1人、俺の心を揺るがす女性が現れたのは。


 ステラ・ピノット子爵令嬢。


 茶色のふわふわした柔らかい髪を伸ばして、今では腰辺りまで長くなった。

 小さな顔にくりくりとした丸くて大きな瞳。形の良い鼻と、花弁のような血色の良い唇。

 彼女は、可憐という言葉がよく似合っていた。


 だが見た目に反して、その行動は度肝を抜かれることばかりだった。

 驚嘆するほどの優秀な頭脳を持ちながら、いざとなると、とにかく身体が先に出る、典型的な脳筋タイプ。

 彼女の、想像もしない行動の数々に、何度驚かされたことだろう。


 そして、あれほど小さな身体のくせに、とんでもない体力と持久力を発揮させる。

 ちょこちょことよく動き、終始、その変え続けるあの豊かな表情は、見る人の視線を掴んで離さない。


 イデア様にも似て、凛と立ち、真っ直ぐに人の目を捉える人だった。

 自信に満ちていて、自らの道を決して疑わないあの突進力は、見ているものを不安にはさせるが、尊敬にも値する。


 ただの好奇心が、好意に変わり。

 そして好意が、いつの間にか愛に変わっていた。


 本当は自分が幸せにしてやりたいと思っているのに、俺は自らつけた枷によって、ステラ嬢とは結婚することができない身体だった。


 貴族の女性にとって、結婚できないということがどういうことなのか、よく知っている。


 妾でもいい。子供も要らぬと言われても、その愛がいつ終わりを迎えるかもしれないのだから、俺がちゃんと自制をしなければと自分に言い聞かせていた。


 ーーーカネシャが、ステラ嬢に向かって『いつ死んでもおかしくない』などと、言い出すまでは。


 『黒魔術』。

 それは、俺が神に『誓い』を立てたものとは、根本的に違う。

 『黒魔術』は神ではなく、悪魔に『誓い』をするようなもの。人を害するものであり、その対価は命か肉体である。


 そんな恐ろしいものに手を出す人の気が知れないが、しかしそれほどに、叶えたい願いがあるということなのだろう。


 何故、ステラ嬢が、そんな『黒魔術』にかけられたのか、俺は知らない。

 ただ、いつか死ぬかもわからないと聞いた時に、俺の心臓は、激しく千切られたかのように苦しくなった。


 彼女がこの世からいなくなってしまうなんて、そんなの、許されるはずがない。

 まだ若く、あれほど魅力溢れた彼女が、よくわからない『黒魔術』などで命を落としていいはずがない。


 そう思う度に、俺の頭はステラ嬢でいっぱいになって、ダメだと思いながらもとうとう、俺は、ステラ嬢に抱き付いてしまった。


 それでもステラ嬢は、嬉しそうに俺の胸に埋まってくれていた。淡く頬を染めながら、とても幸せそうに。

 

 その姿があまりにも可愛すぎて、それ以上のことを望む気持ちを抑えるのに、どれだけ苦労したか、ステラ嬢は知らないだろう。


 ーーーだが、堪えれて、本当に良かったと思う。


 まさかステラ嬢が俺の妹だったなんて、思いもしなかった。


 そもそも名前が違う。

 せめて名前が一緒であれば、もしかしてと察することもできたかもしれないのに。


 しかも、それをステラ嬢が自分で知っていて、俺に隠していたのが許せなかった。隠しさえしなければ、そうだったのかと、俺も諦められたかもしれない。

 少なくとも、こんな裏切られたような気持ちにはならなかっただろう。


 隠してどうするつもりだったのか。

 隠して俺と添い遂げる気だったのか?

 いや、裸になった時点でバレる話だ。それはない。


 ーーーとなると、やはり俺をからかっていたとしか思えなかった。

 

「、、、女は怖いな、、、」


 聞いてはいたが、これほどとは。

 俺もすっかり騙されていた。

 あの可憐な顔で、好意を全面に押し出して言い寄られると、大抵の男はその気になってしまうだろう。


 アイザックだってそうだ。

 あのアイザックでさえ、何だかんだ言って、ステラ嬢のことを気に入っている。

 そんな隙をみて「金を貸して」などと言われたりしてないだろうか?

 アイザックに限って、お金を渡したりすることはないとは思うが、それでもうっかり渡していたら、自分の事を棚に上げて、大笑いしてしまいそうだ。

 

「ーーーイデア・イシュタル・ノイグラー、、、か」


 呟いて、あの黄金色の輝く髪を思い出す。


 ステラが俺の怒りに触れて、慌てて言い訳してきたのが、『イデア』の名前だった。

 本当は、自分は『イデア』なのだと。


 ーーー笑わせる。


 妹だと俺にバレただけで、あれだけ怯えていたのだ。だから多分、俺の初恋の相手がイデア様だったということまでは知らなかったのだろう。


 嘘に嘘を重ねて、しかもそれが相手の琴線に触れる人物の名前を出していいかどうか。

 彼女はそれがわからないほど、愚かな人間ではない。


 ーーーだが、あの瞳。

 まるで、本当に自分がイデア様であることを理解して欲しいという真っ直ぐな瞳は、嘘だとわかっていても信じてしまいそうになった。


 はぁ、、、と俺はため息をつく。


 それが真実であれば、どんなに良いだろうか。

 最近聞いた、ジュリアン王子との正式な婚約の噂も全て嘘で、イデア様がこのオムラントに来て、一緒に暮らせたら。


 イデア様となら『誓い』の制限を受けない。

 妹ではなく、結婚して妻という家族になれる。


 イデア様なら、アイザックがあれほどうるさい、爵位の差の問題もない。

 辺境伯と公爵令嬢だ。何の不満もないだろう。


 結婚さえすれば、子供も作れるし、この先に未来もある。

 彼女は、白魔法で回復薬も作れるし、そもそも色々なものに魔法を付与することができる。

 オムラントは素材の宝庫だから、素材にも備品にも困らないだろう。


 俺が戦に出て、彼女が内政を整える。彼女は賢いから、領地の経営もできそうだし、備品の管理もお手のものだろうし。その一部を自分で作れるというのが凄い。


 考えてから、いや、とそれらを否定する。

「いや、待て。イデア様は膨大な魔力の持ち主の上に、魔法の天才だ。戦場でさえも向かうところ敵なしなのではないか、、、?」


 考えれば考えるだけ、彼女の有能さに脱帽する。


「、、、最強すぎるのも問題だな。そうなるとマクギナス王国を抜けて、公国でも作るか。ーーーははは」


 1人で笑ってから、また深いため息を、ゆっくりと吐いた。 

「、、、そんなこと、あるはずがないか」


 考えただけで楽しい想像の未来は、あくまで夢の話だ。


 身体が誰かと入れ替わるだなんて、起こるはずもはい。それに他の誰と入れ替わるのでも信じないのに、それがまさかイデア様とだなんて、さすがに出来すぎだ。


「ーーーさて、そろそろ現実に戻るか」


 俺は、火山口の中に落ちたようで、ステラ嬢が必死にかけてくれた白魔法の結界のお陰で、命拾いをしたようだ。

 足元にマグマが泡を立てながら揺れ動いている。


「まさか、マグマの上を歩ける日が来るとは、思ってもみなかったな」


 ステラ嬢の魔法は、いつも予想を越えてくる。

 白魔法の研究室は渡していたが、これもその研究の1つなのだろうか。


 結界は普通、枠組みのようなものを作り、それから敵も入れなければ、自分も出ていけないのが基本だ。

 防御する代わりに、攻撃もできない。


 なのに、ステラ嬢がかけてくれた薄い膜のような結界は、俺の身体にぴったりと張り付いている。

 マグマの熱を通さないのに、俺はマグマを触ることができる。

 表面面積を最小限に減らすことで、少ない魔力で維持できている。

 あまりに画期的な結界。

「ーーー無敵状態というやつだな」


 俺は背中の大剣を抜いてみた。

 一緒に落ちた黒い岩から、相変わらず魔物が沸き上がっている。

 大半はマグマに溶かされ沈んでいくが、その魔物かま溶けていくまでに、その魔物の上に新しい魔物が生まれて、徐々に積み上がってきている。


「あれがてっぺんまであがって、地上に這い出したら、洒落にならんな」


 少しでも減らせるように、結界の中からでも魔物を狩れればいいのだが。


 とりあえず、手前の魔物を斬ってみた。

 すると、魔物の手が斬れて、ストンとマグマの中に落ちていく。

「ーーーすごいぞ。完全に無敵だ」

 うっかり笑いが出て、俺は無理やり口を閉じた。


 笑っている場合ではない。

 この結界が切れた瞬間、マグマによって命は修了する。絶体絶命というやつだった。


 狩りながら、魔物の屍体を階段にして、この火山口を登っていこう。


 俺は魔物を一体斬って、それの上に飛び乗った。

 上を見上げた先。

 日の光は、はるか遠くにある。


「根気のいる作業になるだろうな」

 1人で呟いて、魔物を黙々と狩っていく。


 ふと、声が聞こえた気がした。

『アレクシス様!わたくしも一緒に行きますわよ!』


 太陽のように明るい笑顔。

 その笑みは、どんなに暗い地の底にいても、下までその光を届けるだろう。


「、、、さっきまで一緒にいたのに、もう会いたいとはな、、、、」


 あんな別れ方をした。

 俺が1人で怒って、怒鳴り付けた。

 怯えて、とても悲しそうな顔をしていた。


 ーーーそんな顔をさせたいわけじゃなかったのだが。


 知らないと嘘をつかれたのが、悲しかったのだ。

 イデア様の名前を騙られたのが、辛かったのだ。


 そう、俺は彼女に言えば良かったのに。


 ーーーもう名前など、誰でも構わない。

 ステラでも、レイラでも、イデアでも。

 俺がこれほど愛しく思うのは、彼女だけなのだから。

 

 例え血が繋がっていようと。

 傍にいることくらいは許されるだろう。


 もし、生きて戻れるのであれば。

 願うは、もう一度、彼女の笑顔が見たい。


 ただ、それだけなのだから。




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えーと、悪気があるわけではないので、気を悪くしないで読んでいただきたいのですが。 例えばレオナルド・ディカプリオの彼女は二十五歳で定年になって別れるらしいです。 彼は若い女が好きなのであって、特定の女…
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