イデア 魔力測定してみたのですが
オムラント領地の教会といえば。
わたくしは彼のことを思い浮かべる。
「、、、ようこそ、おいで下さいました。ステラ様」
水色の長い髪を1つに括って、肩から前に垂らしている男。
片方だけの眼鏡をかけて、うっすらとした笑顔でわたくしに向かうのは、ここの教会のトップである、フィンレー司祭。
まだ若くして司祭になった彼は、謙虚なふりをしてずる賢い。
懺悔室でずっとわたくしの心からの悩み相談を受けていたのに、それをのらりくらりとはぐらかした上に、毎日通うわたくしを邪魔者扱いして、どうにか教会に来させないよう企んでいた。
「あらぁ。お久しぶりですわね。フィンレー様。もう二度とお会いできないのかと思っていましたわ」
コロコロと転がる笑い方で、わたくしはフィンレー司祭を流し見る。
フィンレー司祭は舌打ちでもしたいだろうけれど、わたくしの後ろにいる人物達を見ると、そうはいくまい。
なんと、アレクシス様は、わたくしに『女神の間』で魔力測定をする紹介状を書いてくれただけでなく、一緒に同行までしてくれたのです。とてもお優しく、紳士的すぎます、アレクシス様。
ついでにアイザックまでも同行してきている。そんなに沢山の人はいらないのだけど。
「まさか、オムラント辺境伯様とアイザック様までいらっしゃるとは」
深々とフィンレー司祭は頭を下げる。正直、わたくしを邪険にしていただけに、今、冷や汗ものに違いない。
ざまぁーーー、と言いたいのをグッと我慢しているわたくしは、とーっても気持ちが良い。
アレクシス様は、さわやかな笑顔でフィンレー司祭に手のひらを向けた。
「あまり気にされるな。私はこちらのステラ嬢の能力がどれほどのものか、気になっただけなのだ。しばしお邪魔する」
低く素敵な声で話すアレクシス様。
「どうぞこちらに」
再び頭を下げたフィンレー司祭は、厳かな様子で踵を返した。『女神の間』に案内してくれるのだろう。
わたくし達は、フィンレー司祭の後ろをついていく。
教会の2つ並んだ扉を抜けて奥に入ると、薄暗い廊下をしばらく歩く。廊下の左右には窓がなく、真っ白なだけで飾りも何もない壁だけが続いていた。
数分歩いたところで、廊下の突き当たりに扉が見える。その扉を、フィンレー司祭はゆっくりと開いた。
「どうぞ、こちらへ」
フィンレー司祭は扉の前に立ち、先にわたくし達を中に入れる。
『女神の間』。
そう名をつけられる理由は、その部屋の中央に大きな女神像が置かれているからだ。王都の中央教会も、女神像が同じように配置されていた。
どの教会も同じ作りになっているのね。
王都の中央教会には何度も足を運んだわたくしは、このオムラントの教会の『女神の間』に入るのは初めてだというのに、なぜか懐かしささえ感じてしまう。
女神の像の前の、祈りの台とともに置かれているのは、水晶玉のような存在。これが機械と知るのは数少ない人達で、一般には『神の力の宿った奇跡の石』ということになっているらしい。
フィンレー司祭は、その玉を起動させた。
「ステラ様。どうぞ。こちらに来て、この石をお触りください。結果は向かいの壁に表示されます」
わたくしがこの魔力測定の玉の正体を知っているということを、フィンレー司祭も知っている。つまり、きっと今頃、フィンレー司祭は(どうせやり方も知っているんだろうけどな)などと思っているに違いない。
フィンレー司祭には、散々苦汁を飲まされたから、うっかりこの玉を落として壊してやろうかしらと思わなくもないけれど、アレクシス様に迷惑をかけるわけにもいかないからやめておく。
素直にわたくしは、その魔力測定の玉に手を触れた。しばらくすると、水晶のような玉が光を発して、向かいの壁にその光を伸ばして照らした。
丸く光る壁に、うっすらと文字が浮かびあがってくる。
羅列された文字。
それを見て、フィンレー司祭だけでなく、アレクシス様もアイザックも、驚愕の表情を浮かべた。
壁にはこう書かれている。
『 水魔法 レベル6
風魔法 レベル12
木魔法 レベル1
白魔法 レベル1
土魔法 レベル1
火魔法 レベル1
雷魔法 レベル1
聖魔法 レベル0
闇魔法 レベル0 』
「9属性だと!?」
アイザックが声をあげた。
そんなバカなと声を震わせる。
ここに表示されるのは、その調べた人物の使える魔法能力のこと。
普通の人は、魔法を使えない。
使えても、1~3属性程度が殆どだ。
5属性で魔法の天才と言われる。
9属性なんて、そう見れるものではない。
レベル1は、まだ使えないけれど、いつかその属性の魔法を使える才能はあるということ。つまり、わたくしは頑張れば火も雷も使えるということになる。
驚くことはない。わたくしは元の身体でも全魔法使える才能があったのだもの。一番得意だった火魔法のレベルは、89でしたけどね。他もしかり。聖と闇はずっと0のままだったけれど。白もレベル1のまま、どんなに頑張っても上がらなかった。
わたくしはレベル値から興味を失い、並び順に意識を向ける。
並び順は、その人物が得意な魔法。
一番上に水魔法があるということは、わたくしは水魔法が一番、相性が良いという。
これからは積極的に水魔法を覚えていきましょう、と心の中で呟く。
「い、いや、待って下さい。私は目がおかしくなってしまったのでしょうか」
フィンレー司祭は真っ青な顔をして、眼鏡を外しながら目を擦る。
「『聖魔法』と『闇魔法』と書いてあるのですけど?」
あぁ、とわたくしはフィンレー司祭に微笑む。
「見間違いではなくてよ。確かに書いてあります」
何の誤作動か知らないけれど、元のわたくしの身体の時も、聖と闇の魔法は表示されていた。
でも、その人が使える魔法は、レベル1から。
0ってことは、使えないと同義。
そう、王都の中央教会の司祭に教えられた。
「でも使えなくては、意味がありませんのよ?」
驚くフィンレー司祭には悪いけれど、と思う。
聖魔法も、闇魔法も、いわば伝説のような存在。
わたくしが王立学園で特別クラスに編入されたのも、そのことが一部関係している。
だからといって使えなければ、ただのお飾りだ。
血の気が引いた顔のまま、フィンレー司祭はわたくしに尋ねた。
「、、、ステラ様は驚かれないのですね。まさか、これをご存知だったのですか、、、?」
「いや、ーーー知りはしないですけれど」
ステラの魔法能力は初めてみる。
でも、驚かないのかと言われれば、この体内から溢れんばかりの魔力量により、そんなものだろうとは予想できていた。
でもこれだけの魔力量がありながら、魔法レベルがなかなかあがらないのはどうしてなのか、よくわからない。
興味深いのは、元のわたくしの身体と同じく全魔法使えるのに、得意な魔法の順番が本来のわたくしと違うこと。
魔法の能力は、精神体ではなく、その肉体に起因するということなのだろう。
これは学会で発表できる内容ですわね。
ふむふむとわたくしは一人で納得する。
そのわたくしの横に、す、とアレクシス様が近寄った。
「それにしても凄い才能だ。やはり白魔法も、努力次第で使えそうだな」
アレクシス様の黒い髪の下のアーモンドの瞳がわたくしを見つめ、にこり、と微笑む。
わたくしの頬は一気に発熱した。
アレクシス様が近い。
「ふぁ、ふぁい!!そうですわね!!誠心誠意で頑張らせていただきますわ!!」
緊張して、そんなことしか言えなかった自分自身が憎かった。もう少し会話を広げられたらいいのに。
そんなことを考えることで頭がいっぱいで、わたくしの後ろでまだ顔色を悪くしているフィンレー司祭の呟きなど、わたくしの耳には入らなかった。
「ーーー本当に使えない魔法は、ここには表示されないんですよ。、、、レベル0とは、一体、、、」




