グウェルの憎しみ
それからと言うもの、僕達ジャンククラスの日々は忙しくなった。
朝は兄達の目を気にしつつ、魔法学校に通う。
「お早う御座います最低の屑の皆さん、今日は皆さんが生きる上で粗相がないよう、礼儀作法について勉強しましょう。そもそも王国の礼儀作法の歴史は古く――」
MP量の低い人間をないがしろにする授業に本腰を入れることはない。魔法学校での授業は将来の役に立ちそうなものと、そうでないものとではっきりとわかれていた。
僕達の本番は放課後の空いた時間だ。
昨日、ガラルさんに弟子入りしたクラスの女子たちは威勢よく工房に向かう。
「コリンズは授業中だろ? 俺達はどうする」
コリンズとの約束があるけど、手を持て余した男子はクラスに残り相談し合う。
「空いた時間は僕達もガラルさんの工房で勉強しない?」
「僕はルウくんにさんせいかな」
「じゃあ行くかー」
と言うことで、男子もガラルさんの工房へ向かった。
ちょっと小走り気味に向かい、先に出ていた女子たちと合流する。
「何であんた達もついてくんのよ? 修行するんでしょ修行」
「コリンズがまだ授業中なんだよ、しかたないだろー」
エドはアンナと意気投合するように会話し。
オゴロは気の優しいクスィーと会話している。
「ねぇルウくん」
「何?」
「MPが0なのに、どうして召喚魔法がつかえるの?」
僕は残されたもう1人の女子のヒューと話していた。
「僕が召喚魔法をつかえる理由は、メフィストさんの研究成果だよ」
「……君はエヴィン伯爵家のお子さんだし、特別な人間だよね」
「一概にそう言いきれないと思うよ」
「どうして?」
ヒューの特徴としてはクラスで一番背が高く、また言動も正確で無駄がない。すらりとした体格が持ち合わせる綺麗な黒髪のポニーテールからは、年齢とは不相応の女性の馥郁がしていた。
「メフィストさんと出逢う前までは、僕は家で忌み子扱いでさ……君なら知ってるかもしれないけど、エヴィン家は今瀬戸際なんだよ」
「ふーん、あの噂は本当だったんだ」
◇
その後、裏町に門を構えるガラルさんの錬金工房に辿り着くと。
「よく来たな、君達には錬金術の基礎を先ずは教えよう」
ガラルさんは僕達によくあるバスケットを手渡した。
「そのバスケット一杯に、錬金術で使えそうな物を入れて俺の所に持って来なさい。採取場所はここら辺で言うと、街外れの森や、賢者の塔の付近、あと君達が行けそうな場所は隣国への街道沿いとかかな」
「ガラルさん、採取するものは各自自由にしていいってことですか?」
「ああ、自由に採取して来い。採取が終わったらここへおいで」
実際に使うアイテムを入手するのが錬金術の基本だとガラルさんは言う。
「よし! あんたには絶対負けないからね、ルウ!」
「アンナじゃねーけど、俺もお前には負けねぇぞルウ」
アンナとエドの活発な2人はそう言い、工房を飛び出て行った。
僕は生まれながらにして、MP0のハンデを背負っているのだから。
2人が僕をライバル視してくれるのは、昔よりはいい傾向だった。
「よし、僕も行ってきます」
「頑張れよ、ルウ、みんなもあの3人に負けないようにな」
のように、ガラルさんに師事を仰いだ僕達ジャンククラスの日常は忙しなかった。
毎日のように学校に通い、中途半端な授業を受けては、ガラルさんの工房に顔を出し。
アンナやエドといった活動的な2人を筆頭に、錬金術の基礎を学んでいった。
その日々はエヴィン家に居た頃からすれば、嘘のように幸せな時間だった。
そんなある日のこと。
僕は錬金術に仕えそうな雑貨を探しに、王都の外にある墓場へとやって来た。
ここには霊的力を持ったマジックアイテムが転がっていそうな予感がしたんだ。
「……うん、これはいいものだ」
その予感は的中し、墓場には不思議な力を宿してそうな石ころや草花が生えている。
「こんな所で何やってるんだ」
「!?」
墓場でマジックアイテムを漁っていると、今最も会いたくない2人と遭遇してしまう。それは夜会の時、僕に凄惨な怪我を負わせたカインとグウェルの双子の兄だった。
「ごめんなさい、僕はこれで失礼します」
暗澹とした墓場から立ち去ろうとした瞬間――グウェルが僕の肩を掴んだ。
「ルウ、ちょっと付き合えよ」
「……嫌です」
「安心しろよ、お前が俺の言うことをよく聞けば、何もしたりしない」
グウェルがそう言うと普段から小綺麗な格好をし、学校の女子の評価も高いカインは怖気めいた卑しい笑みを浮かべ、僕をいたぶるような眼で凝視する。
「つまりはさぁ、お前の命運は僕達に握られてるんだよ」
「父はお前に伝えるなって言ってたけど、ここに来た以上は知って貰う」
――どうして俺達が、お前を心の底から憎むのか、その理由を。




