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魔法学校の入学式


 僕が負傷したせいで、あの後はすぐに会場から立ち去った。


 メフィストさんは青ざめた様子で僕を治癒魔法の権威である賢者の下へ連れ立った。


「クソ、奴らこんな幼い子供になんて惨い真似を」

「だが、相手側の主張も」

「関係ないんだよッ! 私は私が愛する者さえ無事でいればそれでいい、他は敵だ」


 メフィストさんが激昂する中。

 僕は手術台のようなものに乗せられ、治療を受けた。


 治療を施してくれた賢者は、僕の顔を見て微笑む。


「ルウ、と言ったね。君はメフィストが惚れこむほど、強い子なのだろう……ちょっと痛くなるけど、我慢してくれよ」


「はい」


 カインとグウェルの2人に切り裂かれ、焼かれた左手の感覚が薄くなっていく。

 このままだと僕は左手を切除するかも知れないと、治癒にあたった賢者は告げていた。


 ◇


「ルウ、入るよ」


 扉越しにユルシアの声がした。


 ユルシアはメフィストさんにしぼられたようだけど。


「……いないの?」


 でも彼女に変わった様子はない。


「どうぞ」

「いるんじゃない……左手の具合はどう?」

「幸いなことに、全治出来そうとのことです。ご心配お掛けしました」


 そう、双子の兄によってボロボロになった左手は全快までもうちょっとで。


 快復したことがカイン達の耳に入るのを恐れた僕は、ユルシアを口封じすることにした。


「姉様、カイン兄様やグウェル兄様にはこのことは黙っておいてくださいね」


 出来ればもう二度と、あの2人やエヴィン家の者とは関わりたくない。


「……私のせいなのかな?」

「誰かにそう言われたのですか?」

「メフィスト様に少し怒られてね」

「僕は、姉様のせいだとは思ってません」

「じゃあ誰のせいなの?」


 数日振りに顔を合わせた姉との会話は、えらく不毛だ。


 今回の事件は、双子の兄達から言わせれば僕のせいなのだろう。

 被害者面したくないけど、兄達の主張は飲み込もうにも飲み込めない。


 ユルシアから問われた責任の所在は、思考を行き詰まらせる。


「どこか痛いの?」

「いえ、別に」


 と言うと、ユルシアは可憐な手を僕の頬にそえた。

 彼女の手は冷たくて、気持ちがいい。


「なら泣かないで」


 言われて気付かされた落ちる涙は、ユルシアの冷たい手を融解しているようだ。


 どうしてこんなにも、僕はエヴィン家から憎まれ。


 どうしてそんなにも、ユルシアの言動は無感情なのだ。


 今回のような事態を受ければ、普通は負の感情を持つ。


 なのにユルシアは一切、感情を揺り起こしてないようだった。


「ユルシア、ルウはお前を許したか?」


 泣いていると、メフィストさんがやって来た。

 ユルシアの立場を慮ったわけじゃないけど。


「僕はエヴィン家に居た頃から、姉様をうらんだことはありませんよ」


「そうか、それならば私としても気掛かりがなくていい。よかったなユルシア」

「今までごめんねルウ、それとありがとう」


 ユルシアがそう言うと、メフィストさんは目尻を下げる。


「後はエヴィン家の者にどのような報復をするかだな」

「……メフィストさんのお気持ちを、無下にするようで申し訳ないのですが」

「なんだ?」

「正直あの家の人達とは、もう関わりたくないのです」


 ですから、極力何もしないのは駄目ですか。


 報復した所で、あの家の人間が僕達に何もしないとは限らないし。


 執拗で嫉妬深い家柄を考えると、何もしないのが賢明なんじゃないかな。


「……お前がどれほど心細かったのか、想像出来ないし、私が夜会にお前を連れて行った責任もある。けど、此度の件で負ったお前の心の傷はどうなる」


「それこそ、報復した所で癒えたりしません」


 メフィストさんは僕の気持ちを、口にした通り理解できていない様子だ。

 今は首を傾げて、じゃあどうしようかと悩んでいる。


「エヴィン家のことは私に任せてくれませんか?」

「ユルシアに? そうは言うが、であれば夜会の時に何故防げなかった」

「あれはカイン達が何もしないと言っていたので」

「弟だからと言って、真正直に受け止め過ぎだ」


 でも、あの家の政治はユルシアに任せるのが一番かも知れない。

 ユルシアはあの家において、アイドル的な存在だったから。


 僕とは違い、彼女は生来から家の祝福をうけてきた。


 ◇


 夜会から半月後、いよいよ魔法学校に入学する日がやって来た。


 メフィストさんは僕の保護者として、入学式に出席する。


 王国の魔法学校は9年制で、15歳で卒業してからの1年がそれぞれの進路先の研修期間となっている。この国の成人は16歳に定められており、法律的に結婚出来る年齢でもある。


 エヴィン家の長女で、姉のユルシアの歳は丁度16を迎えていて。

 恐らく、ユルシアは近々政略結婚させられると思う。


 没落貴族とはいえ、あの美貌の持ち主が放っておかれる理由にはならない。


「新入生代表、ハイマン・ルードリッヒくん」

「はい」


 格式のある伝統的な魔法学校の講堂でおこなわれた入学式は、その年の新入生の中で1番高いMPを持つ生徒による賞状授与に移っていた。


 この後はMPの値によって振り分けられたクラスに移動して。


 各担任からの祝辞を貰って、今日は終わりだ。


 最底辺とはいえ、生来からMPが0だった僕でも入れるクラスはあった。


「えー、皆さん、先ずはご入学おめでとうございます。私はこれから6年間にわたり、君達の引率を受けることになった、名をセツナと申します」


 僕の担任は精悍なマスクが特徴的な中年の男性だ。


 僕達、Jクラスの生徒はこれから6年間、彼の師事を受ける。


「率直に言いますと、皆さんは最低の屑です」


 瞬間、クラス内にいた新入生や保護者はさざめいた。


 僕は慣れたものだけど、他の生徒はどうだろう。


「皆さんはこれから6年間にわたり、自身がこの国にとって屑であることを共に知りましょう。もしも皆さんのなかで早々にその自覚を持ち、学校を辞めたくなったら言ってください」


 ――その時は、私みずから貴方達を殺して差し上げます。


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