洗礼
「――っ」
僕は双子の兄に会場の外へ連れ出され、先ずは頬にビンタを貰った。
「お前、俺達のことが嫌いなんだろ?」
「……」
グウェルの問いに黙っていれば、今度は逆の頬にビンタされる。
グウェルは流れるように鳩尾に膝蹴りを入れ、一瞬呼吸が止まってしまった。
僕の髪を鷲掴み、膂力に任せて地面に押し倒す。
「お前さ、昔から気持ち悪かったけど、今はもうおぞましいな」
「不思議だねグウェル、どうしてルウは今生きてここにいるんだろ」
「今まで父上に育てて貰ったのに、恩をあだで返すように、父を下半身不随にしやがって」
そこまで言われて、僕は自分が憐れになり、泣くことしか出来なかった。
虐待されていたとはいえ、父の下半身の自由を奪ったのには変わりないのだから。
「何泣いてるんだよ」
「まぁ何しろ、困るんだよなルウ」
カインは怖気を催すような冷徹な声音を繰り。
「MP0の蛆虫のお前が、何かと理由つけて僕達の前に面見せるのはさ」
「学校が始まる前に、二度と俺達の前に面見せないようにしてやるよ、ルウ」
「僕を、どうする、つもりですか」
僕の声は震えていた。
今から何をされるのかわからない恐怖で、おしっこを漏らしてしまうぐらい。
「こいつ、しょうべん漏らしてるぜグウェル」
「いい傾向だな」
「ってことでルウ、ちょっと左手だしな」
カインがそう言うと、グウェルは僕の左手を強引に前に出させた。
「やっぱり薬指にしようか。それとも左手丸ごといっておくか?」
この台詞で、2人が今から僕に何をするのか把握してしまい。
僕は自身を襲った、憐れで不憫な境遇を、心底呪った。
◇
「ルウー? いないのか、返事しろ、ルウー?」
会場の外で猛烈な痛みに堪えていると、メフィストさんの声が聞こえた。
双子の兄の痛烈なさいなめに遭った後だと、メフィストさんでさえも怖い。
「あっちに居るよ女賢者!」
コリンズが僕を見つけたようにメフィストさんに叫ぶ。
どうやらコリンズがメフィストさんを連れて来てくれたみたいだ。
「そこに居たのかルウ……どうした? 聞けば双子の兄達に酷い目に遭わせられたらしいが、左手を怪我させられたのか?」
「メフィストさん……どうして僕は、こんな惨めな体質なのでしょうか」
この世の森羅万象は神の恩寵を賜っている。
それを証拠に、神は万物にMPを与えた。
「事情は後で聞こう、今は怪我を治さないとな。庇ってる左手を見せろ」
それなのに、僕は神の恩寵を、一縷だとて与えられずして生まれ。
敬虔深い父は、そんな僕を見て涙した。
全身で庇っていた左手を、2人の前に差し出すと。
「……殺してやる」
メフィストさんはずたぼろになった僕の左手を見て、殺意を口に出していた。
「ウ……ウヮアアアアアン、アァアアアアッ、アッ!」
コリンズは血まみれの凄惨な光景に泣き。
僕は、魔法学校に入る前に、手痛い洗礼を受けていた。