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ウィル視点




 イザベラは近付いてくる魔物を俺に伝えると、返事も聞かずに地を蹴った。


 俺の返事が届く頃には左の茂みから飛び出してきた3メートル近い大きさの狼型の魔物を真っ二つに切り裂いており、返す刃で2体目の狼の首を下から斬り飛ばした。

 俺達がそれに驚いている中、剣の血を払ったイザベラは一瞬俺に視線を寄越し、右から姿を現した狼に向かって走り出した。


 話には聞いていたが、圧倒的な剣技だ。


 彼女と渡り合えるのは王子と騎士団長の息子くらいだが、ミリアにかまけている王子に今なら余裕で勝てそうだ。後ろの宮廷魔導師の卵くんも、驚いて目を見開いている。

 イザベラは1体こっちに流すつもりらしいし、俺も動かないとな。

 ニヤニヤしそうな顔を引き締め、アメリアとアイリーンにイザベラの援護を、クレイに他の魔物の警戒を指示する。


 仲間を殺られた狼がイザベラに向かって唸り声を上げるが、気にした様子もなく突っ込んでいくイザベラに3体の内の1体が襲いかかったと同時に、彼女から一番離れた場所にいる狼にアメリアの放った炎の矢が突き刺さる。


「ナイスショット、アメリア!」


 矢は狼に突き刺さった瞬間に爆発し、黒焦げになった狼は動かなくなった。

 アメリアに労いの言葉をかけていると、爆風で体勢を崩した最後の1体を斬り伏せてイザベラがこちらに戻ってきた。


「イザベラ様素敵でしたわ!」


「本当にお強いのですね。驚き過ぎて狙いを外しそうでしたわ」


 アイリーンは興奮気味にイザベラを褒めてハンカチを差し出し、アメリアも笑みを浮かべる。


「その細い腕でよくあの巨体をぶった斬れるよな」


 筋肉が目立たない体質なのか、イザベラの外見はアメリアやアイリーンとさほど変わらない。

 フォークより重い物は持ったことないと言われても信じられるくらい、普通の女性と同じような体格をしている。彼女の本性を知らなければ、まさか長剣を軽々と振り回し、自分の倍程もある魔物を真っ二つにできるとは到底思わないだろう。


「あら、角度と力の込め方を調整すれば、後は向こうが勝手に猛スピードで来てくれるから楽なものですわよ」


 イザベラは簡単よ?と小首を傾げる。


「その調整が楽じゃねぇよ」


 何が簡単だ。この脳筋め。


「アンタやけに慣れてるな」


 俺が呆れて半眼でイザベラを見ていると、クレイも目を細めて彼女を見た。


 そりゃそうだ。イザベラが総合的な力量からいけばクレイをも凌ぎ学園一と言っていいほど優秀な魔法使いということは全員知っているが、彼女がこれほど剣を使えるとは誰も知らなかった。魔物討伐実習の回数自体が少ないとはいえ、よく今まで隠してこられたものだ。


 実際、今回提出したオーダーを見た教官からは攻撃が魔法特化しすぎじゃないのかと言われたくらいだ。イザベラの現状を考慮してか、それ以上は何も言わず許可してくれたが。

 アメリアもアイリーンも護身術程度は習っているが、魔法を使わずにあの狼と戦える程の腕ではないし、クレイに至っては完全に魔法特化型で物理攻撃ではうさぎも狩れないらしい。女子か。


「えぇ、この森でしたら学園に入った頃には殿下と最奥まで行ってますもの」


「……君ってホントに予想外だな」


 クレイへのイザベラの回答は予想外過ぎた。

 学園に入った頃なんてまだほんの子供だ。最奥までなんて今くらいの年齢で辿り着くレベルの森だというのに、恐ろしい子供だな。


「さすがイザベラ様ですわ。わたくしも精進いたします」


 アイリーンが目を輝かせて言えば、イザベラは上品な笑みを浮かべて頷く。

 まだ猫を被るつもりらしい。


「民を守る力は蓄えるべきですわ。戦になればわたくし達は戦場に立たなければなりませんのよ」


「君は王妃になる予定だろ。戦場に立ってどうするんだよ」


「あら、王は軍の指揮を執るのに王妃はお城で待っていなくてはいけないなんておかしいわ」


「…いや、城を守るのも仕事の内だろ。我慢しろよ」


「戦える力があるなら投入すべきよ」


「イザベラ様が行軍なさるのなら、わたくしもご一緒いたしますわ。もっと魔法の腕を磨かなければいけませんわね」


 ……何でアイリーンはそんなにイザベラに対してポジティブなんだ。仮にも男爵家のご令嬢なんだから護られていればいいのに。

 ぐっと拳を握り、可愛らしく気合いを入れるアイリーンに遠い目をしているとアメリアが苦笑して背中を撫でてくれる。


 確かに貴族は戦になれば戦場に立たなければならない。魔法の資質は血統によるところが大きく、優秀な魔法使いは貴族に多いからだ。

 だが、女はそれほど強制的に参戦させられる訳ではない。彼女達には兵士が帰るべき国を守り、子を産んでもらわなければならない。


 イザベラには言っても無駄だろうが。




◆◇◆◇◆




 森での魔物討伐実習はクレイとイザベラの計画通りに進み、変異種の魔物に遭遇して状態異常になったクレイをイザベラが治癒してミリアの魔法も解けたことになった。


 クレイが持っていた紙の人形のようなものを燃やすと、イザベラは至極残念そうな顔をしていたが何か特別な魔道具だったのだろうか。


 聞いてもロマンがどうのとか言っていて今一よく分からなかったから考えるのを放棄した。というか、いつもやる気のないイザベラがやけに熱心だったのでちょっと引いた。彼女は古い文献を読むのが好きらしいので、今はあまり使われていない魔道具か何かなのかもしれない。


 森から戻り、ぐったりしたクレイを見たミリアは心配して彼に駆け寄り、魔法が解けたことに気付いたのか俺達にしか見えないようにイザベラを睨み付けた。


 ………女って怖い。


 どうやら彼女が心配していたのはクレイではなく、魅了の魔法が解けることだったようだ。

 心優しく、明るい笑顔の似合う可愛い少女であったはずのミリア・ウォルドはついに本性を現した。


 ちなみに、クレイがぐったりしていたのは単に体力の限界だっただけだ。


 普段見られないような生き生きとしたイザベラが魔物を屠りながら森を突き進み、彼女を崇拝するアイリーンが嬉々としてそれに続き、追いかける俺達に苦言を呈しながらもなんとかついてきたクレイだったが限界を迎えて俺に抱えられて帰ってくる羽目になったのだ。

 可哀想だから黙っておいたが。




 クレイが去った後、ミリアは王子や他の男の束縛を強め、イザベラに明確に敵対し始めた。


 といっても、元々ミリア達に大して興味もなかったイザベラが今更何かをするわけでもなく、今まで通りに過ごしていたが根拠のない噂が流れ始めた。


 爵位の低い者を嘲笑っているだの、王子と仲の良いミリアに嫉妬して辛く当たっているだのと根も葉もない噂だ。

 イザベラは口は悪いが、流れている噂のように他人を傷付けたり貶めたりはしない。


 傍目から見ればミリアが現れるまでは相思相愛な2人だったが、そもそもイザベラは王子に対して恋愛感情を抱いていないのだから嫉妬しようがない。


 俺達以外知らないが。


 爵位が低い者を嘲笑うどころか、私的な場では爵位など気にしない性格だし、何なら平民に混じって冒険者として活動しているくらいだから本当に気にならないんだろう。


 公にはできないが。

 

 撤回するのも面倒だとイザベラが放置していたらミリアが調子に乗ってきたので、イザベラの兄君と相談してミリアの嘘の証拠を集めることにした。イザベラはいいと言ったが、友人が貶められているのを傍観していられる程俺も大人じゃない。




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