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たんぽぽ  作者: 諫早
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5日目

ある日、小さな種が落ちてきた。


その頃には子どもたちも大きく育ち、そろそろ巣立ちのことを教えなければならない。


小さなその種が芽吹いた頃に、良い風が来れば子どもたちを見送ろう。


近くに降り立ったその種にはしゃぐ子どもたちを静かにさせた。


いつもと空気が違うことに気づいたのか、一言もしゃべらない。




「そろそろ、一人立ちの時期ね。」

どう切り出していいか分からずに、独り言のようになってしまった。


「もう? ハナおばさんのところはまだなのに?」


「私たちは、ずっと早いのよ。」

確かに、ハナちゃんは花も落ちて白い綿になった私と違って、まだまだ花を咲かせている。


少なくとも、子どもたちを見送るまでは綺麗な花を咲かせているだろうくらいに。


ハナちゃんは私のように子どもたちは外に出ておらず、ひっそりと奥にしまっている。


外に出たがっている声をよく聞くが、どうやらまだ出られないらしい。


「私の子たちもそろそろだよ?」

ハナちゃんがそう微笑むと、奥にいる子たちの歓喜の声が聞こえた。


「一緒の日だったら、同じ場所まで飛んでいこうよ!風にのって遠くまで!」


きらきらした目をするまだ知識のない子どもたちに真実を言うのは酷な気がした。


私たちと、ハナちゃんたちとでは育ち方が違うのよ。


目があったハナちゃんと苦笑して、「同じ日だと良いわね」と応えた。





それからは、風が来たらどう身を任せるだとか、いくら風がふいていても、強風だと体が痛いばかりで根を張る体力が残らないから、見極めることが大事だとか根気よく教えた。


ただ、私もそうだったように、いくら教えても体験しないかぎりピンと来ないようで、見送るのが不安な子どもたちもたくさんいた。


私に出来るのは、飛ぶ合図をするくらいで、その後のタイミングも風に乗っている間も本人たちが頑張らなければいけないのだ。


この子たちがみんな成長を遂げることを願うしかない。




「いつ、風が来るかわからないから、油断しちゃダメよ」


「元気で育つのよ。」


「笑顔をありがとう、元気をありがとう。喜びをありがとう。」


「生まれてきてくれて、本当にありがとう。」


もう言えないだろうから。今のうちに言いたいことは全て言ってしまって、子どもたちを寝かしつけた。



「ハナちゃんのところもそろそろかしら? この子たちは、風の力じゃなくて、自分たちの力ではじけ飛ぶのよね?」


「ええ、そうよ。遠くの景色は見られないけれど、生まれた環境とあまり変わらないところで成長できるの。だから、慣れるのも早いのよ」


見送るのが楽しみだわ。と笑うハナちゃんだったが、あんな大きく育った種たちが一斉に飛んだら、ハナちゃんの身は持たないのではないだろうか。



「大丈夫なの?」この言葉は胸の内にしまった。


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