4日目
早々に花を落とし、悲しんだけれど、そこから子どもたちがたくさん生まれた。
この時期はどうやら子どもたちの声で騒がしくなるらしい。
朝から晩まで、様々な花たちの楽しそうな笑い声が響いた。
子の1人が聞いた。昔老婆が答えてくれた通りに、私も答えた。
「ねーねーまま! どうして太陽は眩しくてあったかいの!?」
「眩しいと、どこにいても目印になるでしょう? 暖かいのは、私たちに命を注いでくれているのよ。」
子の1人が聞いた。これも老婆が答えてくれた通りに、私も答えた。
「じゃあじゃあ、どうしてお空は青いの?」
「海が青いって教えたでしょう? 私たちみたいに海を見られない人の為に、お空に海の色があるのよ。」
好奇心旺盛な子どもたちは、まだまだ聞くことをやめようとしない。
「海を見に行こうよ!」
「土に根を張っていて、動けないでしょう? あなたたちが空を飛んで、海の近くに降りることを願うしか無いわ……」
海を見に行こうなんて考えたことがなくて。絶対ムリだとわかっていたから。
こんな夢を見たことがなくて、答えるのに時間がかかってしまった。
どう答えたら、諦めてくれるだろう。
納得のいく答えではなかったのか、子どもたちの一部がムッとむくれた。
「ちょっとずつ動けばいいんじゃ無い?」
「もし、出来たとしても…。私の体は歩くほど体は発達していないの。ほら、風に揺らぐほど柔らかいでしょう?」
子どもたちは、まだ自分の出来ることと出来ないことの区別がつかないのだろう。
ちょっと私でも無理のある回答だと思ったが、これしか思い浮かばなかった。
これ以上聞かれたら、「ムリなものはムリ!」と声を荒げてしまいそうだった。
それでも、子どもたちは聞いてきた。
「それじゃあ、あのおっきな木は、動いていけるんじゃない?」
「そうねえ。あそこまで大きくなると、遠くの海まで見えるんじゃないかしら。聞いたことないからわからないわ。」
まさか、あの大木のことが出てくると思わなくて、少し驚いた。
ここに住んでる人たちがみな、笑顔で過ごしているのに、唯一一言も喋らないし、笑わない彼のことは触れないでいたのに。
子どもたちは、ここらで一番大きいあの大木のことが気になるようで、何度か聞いてきたこともあった。
そのたびに濁していたのだが、未だに諦めていなかったらしい。
まだまだ聞いてくる。
気になるととことん気になるのだろう。
それはとても良いことなのだが、あの大木にだけは触れないで欲しかった。
「聞いてみようよ!」
「むだよ。答えてくれないの。きっと、1人が好きなのよ。」
思わず冷たくなってしまった。
ハッとした時には、子どもたちは「やっぱりダメか。」という風で、私があの大木にいい気持ちを抱いていないことを察しているようだった。
言い訳に聞こえるだろうけれど。いや、私は言い訳を続けた。
「お母さんの生まれるずっとずっと前から、みんなが声をかけていたの。大声をあげても、返事は無かったそうよ。答えてくれないから、彼のことは何もわからないの。きっと冷たい人なのよ。」
「聞こえないだけかもしれないのに……」
小さく聞こえたその声を、私は聞こえないふりをした。