2日目
老婆は、色々なことを教えてくれた。
雲の流れや空気の匂いから、天気の移り変わりを判断する方法。
「今晩は雨が続きそうだから、みんな踏ん張るんだよ。ちゃんとかたまって、風邪を引かないように。」
その言葉に周りの人と身を寄せあって夜を過ごした。
それでも、朝になると1人や2人、息が耐えているのだ。
「彼女たちは十分生きたよ。」
老婆はそういって、毎朝涙を流している。
豪雨や強風に見舞われた時の、自分の身を守る術。
「お嬢ちゃんは、比較的大丈夫だと思うけど……。きちんと子どもに伝えていくんだよ。」
実際、私はそんなに酷い環境ではなかった。
しいて言えば、木に跳ね返った風が強くて目が開けられないくらいか。
そんな時は周りはもっと酷く雨風にうたれていて、うめき声や泣き声が聞こえてくる。
耳をふさいでジッと通りすぎるのを待つ。
外が明るくなっても、目を開けたくなかった。
老婆の、いつもの涙まじりの言葉が聞こえてくるのを待って、覚悟を決めて目を開ける。
この間の雨で根腐れしていた彼女は、もう目を開けることはなかった。
強風で飛ばされたらしく、昨日まで笑っていた彼女たちはもうどこにもいない。
みんな、少しずつどこかが不調になって、だんだんと動かなくなっていく。
「私もあなたと同じ場所に居ればもっと長生き出来たのに。」
「あなたばかり、被害がなくてズルいわ。」
文句は腐るほど聞いた。
「私だって、みんなが死んでいくのは嫌よ。」
「この木がもっと大きければ。」
誰にもぶつけられず、頭を反響する言葉たちに切り裂かれそうになると、老婆はいつも撫でて慰めてくれていた。
他にも、生きる為の術や、
昔ここによく来ていた昆虫の淡い恋の話、
飛ばされてきたはいいものの、満足に根を張れず、衰弱していった者達の話まで。
みんな、彼女から毎日色んな話を聞いて育っているようだった。
今日は何の話をしてくれるのだろう。
無事に朝を迎えた人たちは彼女に催促をする。
「生き物はみんな、死んだら大地に帰って、生きる者達の支えとなるんだよ」
彼女の口癖のようなもので、ある朝彼女はそう微笑んで眠りについた。




