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勇者だから、魔王を倒す。  作者: つぶあん


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勇者、寝込む。

 額には濡らされたタオルが置かれている。

 なかなか起きない俺を見たメイドが、顔色の異変に気づいて熱を察し、置いてくれたものらしかった。よく熱を出していた俺は、このような目覚めを何度も経験していた。


──コンコン


 ドアがノックされる。扉を開けて入ってきたのはヒティネだった。


「おはよう。目が覚めた? 」


 そう言うヒティネの声色は、いつもより穏やかに感じた。


「熱が出ちゃったのね。アレイさんには伝えておいたから、今日はゆっくりおやすみなさい」

「はい。ごめんなさい」

「どうして謝るの? セタンはなんにも悪いことをしていないでしょ? 頑張った証よ」


 そう言いながら、枕元で林檎を剥いているヒティネの顔を眺めていた。


「セタン、昨日なにかあったでしょう」


 俺はドキリとした。


「どうして、分かったんですか? 」

「分かるわよ。お母さんだもん。フェルダほど分かりやすくはないけれど、あなたのこともちゃんとわかってるのよ、セタン」


 俺を諭すかのような口ぶりだった。


「何があったのか、言いたくなかったら言わなくてもいいのよ。あなたは、それができる強い子だから」

「うん」

「だけど、抱えきれなくなったら誰かを頼ってね。もちろん私でもいいし、アルタムでも、フェルダでも、アレイさんでもいいわ。誰かに話すことで、楽になれることもあるんだからね」


 開けられた窓から、撫でるようなそよ風が吹き込んだ。その風は、カーテンを微かに揺らして、隙間から入る陽の光を、大きくしたり、小さくしたりしている。

 俺は、ヒティネの方を見ることが出来なかった。目から今にも溢れようとしているこの涙を、見られたくないと思ってしまった。


「剥けた林檎、枕元に置いておくわね。食べられそうなら食べておいて」


 ヒティネはそう言い残すと、部屋を後にした。一人だけになった部屋で、気怠い体を起こす。そしてのそのそと、皮が剥かれた林檎が乗った皿に手を付けた。

 噛む時に、シャクシャクと音が出た。口いっぱいに果汁が広がる。その味は、思っていたよりも少し酸っぱい。

 林檎を食べ終わると、空になった皿を元の場所に戻す。

 手持ち無沙汰になって周りを眺めた。

 何となく、手を伸ばしていたのは一冊の本だった。貰った日から、いつも枕元に置いていた、「初めての勇者」について記された本だった。

 部屋の外にいる使用人たちに気付かれないように、ゆっくりと、静かにページをめくる。この体調で、本を読んでいるのを知られたらきっと怒られてしまうと思ったのだ。

 短期間で、何度も目を通した物語を、念入りに読み始める。一文字一文字を確かめるように読んだ。

 物語の勇者と、ベッドで横になる俺の、些細でも構わない共通点を見つけ出したかった。

 そうして、いつの間にか眠っていた。



──コンコン


 ノックの音で、目が覚めた。

 読んでいたはずの本は、元の場所に片付けられていた。林檎が入っていたはずの皿も、もう見当たらなかった。


「入ってもよろしいですか? 」

「はい、どうぞ」


 扉の向こうにいる人物に、返事をする。

 すると扉は開かれた。声の主は、アレイだったらしい。

 そしてその後ろに、ビートと、何故かクリスの姿も見えた。


「体調はいかがですか? 」

「大丈夫っすか? セタンくん」


 アレイとビートは立て続けに聞いてきた。クリスは何も話さない。


「はい、すみません。突然休んでしまって......」


 俺は、精一杯取り繕った笑顔で答えて見せた。


「いえいえ、問題ありませんよ。まだ十年も、時間は残されているんです。一日体調を崩したくらいで、どうにかなる訳ではありません」


 十年、と聞いて、きっと俺の表情は曇ったのだろう。その先の旅立ちを、想像してしまった。


「ほんとごめんなさいっす! 絶対俺の訓練が厳しすぎたせいっす......」

「元々、体調を崩しやすかったんです。勇者になったからと、調子に乗ってしまっていました。僕の管理不足なだけで、ビートさんに非はありませんよ」

「いやいや、絶対きつい訓練の後に模擬戦なんかしたからっす。走るのと、筋トレだけで終わっとけば良かったっす」


 そう言うビートは、いつもの快活さを失って、見るからに肩を落としていた。

 それを見て、ビートらしくない、と思った。そして、そう見えてしまうくらいには、仲が深まっていたのだと感じさせられた。


「本当に、大丈夫ですから。こちらこそ、アレイさんに、ビートさん、クリスまで、お忙しいのにお見舞いに来ていただいて、すみません」

「いえ、アルタム様と、昨日の件でのお話もありましたし。本当はスアレも来たがっていたのですが、彼女には訓練に励むよう伝えておきました」

「俺が原因みたいなもんっすから、来て当然っす」

「俺も、今日はたまたま午後から予定が空いていたからな。フィンも行きたいと駄々を捏ねていたが、あいつはダンスのレッスンが終わらないから、置いてきたんだ」


 クリスは名前を出したことで、ようやく話し始めた。その口ぶりは、いつもの軽快なものではなく、少し重たく感じた。


「ビートくんとも少し話したのですが、明日はお休みにして、そのまま元のお休みとくっつけて、四連休といたしましょう」

「でも、それじゃあ......」

「体調の悪い中無理をされて、さらに悪化されては元も子もありません。この機会に一度、しっかりとお休み下さい」


 否定しようとしたものの、聞き入れて貰えない様子だった。


「あまり、大人数で騒いで、体に障ってもいけません。私は一度、アルタム様とお話して参ります。ビートくんはどうしますか? 」

「俺も一回、失礼するっす。指導してた人間として、セタンくんのご家族に謝ってくるっす」

「俺は残るよ。少しセタンと話したいこともあるし」


 そうして部屋には、俺とクリスの二人きりとなった。部屋の中は、一人でいる時よりも静かな気がする。


「「あのっ」」


 静寂に耐えかねた俺と、何かを話し始めようとしたクリスの声が重なった。


「いや、なんでも......先どうぞ」


 俺は少し遠慮がちに、クリスへ譲った。

 そうしてクリスは、話し始めた。

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