思惑 ①
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
「じゃあ僕はこの後、公務があるから先に行くね」
「公務……王太子の立場は大変なんですね」
「まぁね。じゃあ、また明日」
「はい。また明日、です」
テオドールが生徒会室を出て間もなく、リリーフィアも生徒会室を出た。
寮へと戻ると、そこには一通の手紙が置かれていた。差出人はハロルド・ドルファン……リリーフィアの実父だ。
Dear リリーフィア
寮生活は順調かい?
俺は隣国で新事業に携わっている。
慌ただしい毎日だが、充実した日々を送っているよ。リリーフィアは何か悩みはないか?何かあったら気兼ねなく相談してくれ。
From ハロルド
ハロルドからの手紙は学園に入学してから月に一度、届くようになった。学園入学以前は週に一度は届いていたが、父の為にもと遠慮し、月に一度で落ち着いた。
しかし、未だハロルドにカインの事を相談出来ずにいた。
カインはドルファン伯爵家と会う時、とても優しく思いやりのある好青年を演じている。それ故にハロルドはカインに対して確かな信頼があり、それを覆してまで相談する気にはなれなかった。
何よりも仕事で帰れない日々を送っている父に、これ以上迷惑をかけ、これ以上仕事を増やす訳にはいかない。
そして決まってリリーフィアは、友人はでき、カインとの関係も良好だと嘘の事柄で文字を綴り、手紙を父へ送っていた。
しかし、今日はいつもと違う。本当に友人ができ、生徒会役員にも選出されたのだ。それと、なりたい事も見つけた。
カインと良好だという嘘と、今月は事実を混ぜた手紙に封を押して引き出しにしまった。
◇◇
「では報告書を拝見致します、ドルファン卿」
テオドールは友好国である隣国に居た。そして、共有地区の内、ドルファン伯爵家が所有する領地まで足を運んでいた。
ハロルドから手渡された報告書を読み終えたテオドールは意味ありげな笑みを浮かべ、お礼を言った彼はいつもの余裕がある笑顔を見せた。
「しかし、ここまで簡単に事が進むとは……」
「そりゃあそうですよ。アーマルド卿は金にがめつい事で有名ですから」
「あの化け狸め……やはり今から学園に乗り込んであのバカ子息を殴る計画に乗り換えませんか」
「やりたいのは僕も山々ですが、それでは葉を枯らすだけ。やるなら根から枯らさなくては」
───1年前に遡る
「いきなりですが、ドルファン卿。僕……テオドール・ロア・ウィリアムと個人的な取引と賭けをしませんか?」
「王太子殿下自らお越しになったかと思えば……随分と大きなお話ですな」
テオドールは1年初期、現在と同じ場所でハロルドと談笑を交わしていた。開口一番に開かれた自己紹介が終わったと思えば、テオドールはそんな素っ頓狂な提案をし始めた。
「しかしこの提案に貴方は頷くしかありません」
「それはどうして」
「貴方のご息女、リリーフィア嬢が関わっているから……と、言ったら?」
「うちの娘が?」
「はい。婚約者であるカイン・アーマルドに精神的、肉体的に苦痛を強いられており、それを貴方にも言えずにいる」
それを聞いた途端、当主の仮面を着けていたハロルドは勢いよく立ち上がり、目を見開いた。
ハロルドにとってカインは愛娘に与えるに相応しい理想の婚約者像であった。自分の目が届く所ではリリーフィアを想うような行動をとっていたし、彼自身のスペックも悪くは無いと、本気で思っていたからだ。
「もちろん証拠はあります」
信じられん……と、言いたげハロルドに学園内での決定的な現場や浮気の決定的な証拠写真10枚以上をテーブルに広げた。
「これでも彼、用心深くて大変だったんですよ?初めて木に登りました」
ハロルドは写真を1枚1枚細かく目を通していき、
「その提案、喜んでお受けいたしましょう。そして……」
冷静さを保った当主ハロルド……国随一と言われている頭脳の顔は凛々しく、威圧感のある表情にテオドールは思わず背筋は凍った。
「そして……私はあのバカ子息を闇討ちする計画を立てればよろしいのですよね?」
「え……え、?」
(闇討ち……って、どんだけ親バカなんだよ)
頭脳明晰と名高い彼から聞こえてきた荒立たしい言葉にテオドールは思わず言葉を失った。
「安心してください。頭だけなら回りますのでバレない方法を考えます。あ、少し王太子の権力を使わせていただきますが、それはご了承を」
遂には年密な計画を書き記し始めたハロルドを、テオドールは何とかして強制的に止め、流れを引き戻した。
大分予想外だったのはハロルドの親バカ具合だ。
リリーフィアの様子や家庭環境を外側から見ている以上、テオドールはドルファン伯爵家において個人主義のイメージがあった。しかし、根っこはただ距離感が掴めない不器用家族であり、それが愛おしく見えてたまらない。
「僕が描いた筋書きをお話いたします」
テオドールの筋書きはこうだ。
5年前、共有都市内で金鉱山が見つかったが、隣国はもうひとつの金鉱山を見つけた為、その使用権を譲ると提案してきた。そこを誰に任せるか議論が続いていたが、その鉱山はアーマルド侯爵領付近であり、その使用権をアーマルド侯爵家に譲渡するようテオドールが仕向ける。
そしてここでひとつ、アーマルド侯爵に入れ知恵をする。
”鉱山の未開拓領域を東に3km進んだ所に金が眠っているぞ”、と。
「東に3km、というのは確定した事実で?」
「火山が発見されている場所、そして金が発見される場所の特性や地域を調べたので高確率で発掘されるでしょう」
さも簡単に、誰でも資料を揃えれば分かる事だろうと言いたげな口調だが、金の発掘場所を的確に当てられる事は通常なら不可能だ。
これが国を任される次期国王の、齢17歳の実力なのだとハロルドは痛感し、恐ろしくも感じた。
10話程度で完結予定です。
次話は
陛下とテオドール、テオドールとハロルドの取引や賭けの全貌が見えてくるお話です。
お時間がありましたら
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