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思惑 ②

開いて下さりありがとうございます!


短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。

 テオドールとハロルドの話し合いは続いた。


「ただの噂が噂では無かった。そして、報告しなければ誰にも見つからない宝の山をバカな貴族ならば、バレなければ……そう思うでしょう」

「その(きん)を売る先を作ればいいのですね?」

「話が早くて助かります。なので、偽商人でも使って密輸品を高額で買い取ると提案。あとは1ヶ月でも脱税をしてくれれば」

「ではその偽商人はこちらで用意させていただきます。疑惑のある商人に心当たりがありますので、それを焚き付けるとしましょう」

「ありがとうございます」


 そして、事細かくその日時や商人についての話し合いは続いた。


 学園内でハロルドがリリーフィアを守れない期間においてはテオドールが目を光らせる事、なるべくリリーフィアには気付かれたく無いというハロルドの意見を呑む事……長い時間を要した取り決めは夜、収束を迎えた。


「そうだ。今回の提案のお礼とまでいきませんが、ドルファン卿は新しい事業を展開しましたよね?」

「えぇ。うちの領地で採れた果実を少々」

「ではその果実を定期で送っていただけませんか?もちろん、それ相応の金貨と引き換えで」

「それって!」


 王族が定期で購入するという重大さは、商売を営む者ならば身に染みて知っているはずだ。


 ”王族御用達”のフレーズが付くだけで品の価値が圧倒的に上がり、信用性もある為に貴族や平民の見る目も変わる。


 商売を営む上で、これ以上ない好条件だ。二つ返事で頷きたい。しかし、疑問に思う事がないと言えば嘘になる。


「何故ここまで……」


 どちらかと言えば無理を言っているのはドルファン伯爵家側であり、テオドールにとっては無視しても構わない要件である。


 王族が数多いる貴族の一家をここまで気遣う必要は全く無い。ドルファン伯爵家は確かに国の重要ポジションにいるが、王家の誘いをあらゆる手を使って断り続けている。


 正直、咎められる理由は嫌という程思い当たるが、ここまで尽くしてくれる理由がないのだ。


 訝しげな顔をするハロルドの前、テオドールは爽やかな笑顔を浮かべると


「理由は単純です。個人的に恩があるんですよ」


 そう言って深くは語らなかった。


 個人的にあるという恩はハロルドに心当たりは無い。だとすれば息子か娘、妻の内の誰かとなるが、王太子と会って話す機会は数える程だ。


 考えても全く思い当たる節のないハロルドは深いため息と共に邪念を吐き出し、テオドールを見送った。


「恩……なんて一言で現すには軽すぎたかな」


 馬車に乗ったテオドールはそう言って窓越しの空を見上げた。


 人間は汚く、欲深い生き物である……それが9歳までのテオドールの結論だった。王太子である自分に恩を売ろうとする者、陥れようとする者、自分の欲の為に他者を犠牲にしてまでも生きる者。そんな汚い人間を支えるのは”王族としての義務だから”という理由でしか、体を動かすことが出来なかった。


 そんなある日の事だ。


 陛下主催のパーティーに参加した時、子供ながらも一際目立つ令嬢が端の方で佇んでいた。


 傍から見ていると目立つ良さといえば容姿だけで、社交性が皆無なただの令嬢だ。どこか自信なさげな瞳の奥で、何かに対して熱意を燃やす不思議な雰囲気がある。


 よく見てみると彼女はかの有名なドルファン伯爵家の特徴である深い青色の瞳をしていた。そしてそれは父の頭脳を受け継いだ天才と一部では噂されているドルファン伯爵家の息女───リリーフィアであると理解する。


 兄が優秀すぎるあまり、凡人と言われてはいるが彼女個人の実力は平均をゆうに超えているのは確かだ。


(もしかしたらこれから使える人材になるかもしれないな)


 テオドールはリリーフィアに話しかける事にした。


 話してみると、自信のなさが際立つこと以外は普通の令嬢という印象が強い、気弱な女性だった。


「私……社交性を身に付けたいのです。何か要点がありましたらご教授いただきたく思います」

「社交性ですか?やはり商談には活躍しますものね」


(あとは痒くなるようなゴマすりに)


 テオドールは貼り付けた笑顔を浮かべながら、そんな事が頭を過ぎった時


「商談もですが、私……婚約者のカイン様の役に立ちたいんです。こんな私を必要としてくれたあの人に、私に出来ること全てで返したい」


 リリーフィアは真っ直ぐな眼差しと声色は、テオドールを貫いた。


 誰かの為に生きる人はこんなにも力強く生きる人間がこの国にいるのだと、初めは驚きで直ぐには思考が回らなかった。


 しかし思ってしまったのだ。


 ”こんな善良で心優しい人間を守る事が出来るなら、僕はこの人達のような人間の為に人生をかけてみたい”と。


 ───それから1年も経たず、テオドールはリリーフィアとカインの歪な関係を知ってしまった。


 こんなにも怒りが湧いたのは初めての事だった。自分に気付きを与えてくれた善良で心優しい人間を陥れようとする人間がこんなにも近くに存在する事に、腸が煮えくり返る思いだ。


 どうすればあの人を助けられるのか、どうすれば気弱な少女が泣かない世界を作れるのか。


「父上!お話があります」


 そしてこの想いがただのいち令嬢へ向けるものでは無いと、知るのに時間はかからなかった。

10話程度で完結予定です。


次話は

テオドールと国王のお話です。


お時間がありましたら

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