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リリーフィアのこれから 最終回

開いて下さりありがとうございます!


短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。

「陛下、お願いがございます」


 面会時間を何とか勝ち取ったリリーフィアは提案書と共に現れた。


 簡単に要約すれば、元アーマルド侯爵領の統括権利をリリーフィアに一任する事、その利益の全てを国へ寄付という形で提供する事、権利は移るがリリーフィアの名で動かない事、のみっつだ。


 国王は目を丸くし、リリーフィアを見た。提案してきた本人に害はあっても利は無く、王太子の婚約者としての公務や王妃教育は多忙を極めており、それに加えて領地管理となれば睡眠時間を確保出来るか分からない。


 リリーフィアの才は認めてはいるが、その全てを完璧にこなせるかどうか。ただの紙切れひとつで、民の命運もかかっている話だ。


 国王がチラリとリリーフィアへ視線を移す。


 元よりこの手の話を簡単に持ってくる性格でないのは分かっているが、どうも決定するには要素にかけていた。


「私は……元アーマルド侯爵領の件が私の贖罪だと思っております。どうかご検討の程、よろしくお願い申し上げます」


 リリーフィアが頭を下げ、言葉の重みに国王は声を漏らす。国王は前向きに検討しすることとしようと、リリーフィアを退出させた。


 元アーマルド侯爵領を国が一時預かりとする案を出したのは他でもない王妃であった。国王はとりあえず話を聞いてみるかと、軽い気持ちで王妃の元へと向かった。


 ◇◇


「リリーフィアに預けてみたらどうかしら」


 ロザリーは紅茶を飲みながらサラッと簡単に答えを出した。


(そんな簡単に……)


 レオナルドは相変わらず考えている事が分からない奴だと、広げた提案書に再び目を向けた。

 何があのロザリーをここまで突き動かすのか。自分には理解出来ないが、よく見れば何かあるのかと何度も文字を追うが、どうしても全く理解出来ない。


 そもそもリリーフィアという存在がロザリー同様に得体の知れない何かのように見えているのだ。その謎の人物に民を任せてもいいのだろうか。


 見るに見かねたと言わんばかりにロザリーはため息を吐くと、口を開いた。


「あの子は贖罪だと言ったのよね?」

「あ、あぁ」

「きっと何の為の贖罪かと聞いたところであの子は答えないでしょう。(わたくし)には全く分からないことだけれど……あなたとテオドールはどういう経緯でアーマルド侯爵家が没落したか、それにリリーフィアの婚約破棄がどういうふうに関わっているのか、知っているでしょう?」


 ロザリーはにっこりと首を傾げた。

 その笑みが悪魔の微笑に見えているレオナルドは思わず身を震わせる。


 どこまで知っているのか……そう考えたが、きっと彼女は全てを知った上でここに座っているのだろう。


「それだけじゃなくて……(わたくし)はリリーフィアなら、どこまでも真っ直ぐなあの子になら出来ないことでも無い案件な気がするのよね」

「お前がここまで断定するとは意外だな」

「あらぁ、そうかしら?」


 チェスを指すときと同様、彼女はその一手の何手……下手すればその何百先を見据えている女だ。心理戦においてレオナルドは百戦百負。そして何よりも怖いのは、ロザリーが確信した事は必ず彼女が思った方へ動くのだ。


 朗らかでありながら聡明で警戒心の強い女……そんな心強い存在が隣にいるのは何とも有り難い幸運なのだろう。


 レオナルドは提案書をまとめると、執務室へ戻って行った。


 ◇◇


「初めの一年目は目を閉じれば、死への道が見えそうになりました」

「そうですね……あの時のリリーフィア様は屍の様でとっても心配しましたのよ?陛下と力技で寝かし付けたのが昨日のようですわ」


 自分でもまさか一任されるとは思っていなかった。父とふたりか、見張り役でもひとり設けられるのかと思っていた手前、一任された時は張り切ったものだ。


 贖罪と言えば格好の良いものだが、これはそんな格好いいものではない。ただ自分が後悔しない生き方をするとした時、アーマルド侯爵家が没落するきっかけ作りをしてしまった後ろめたさを無くす為の……本当に身勝手な行動だ。


 だからこそ、その身勝手に付き合わされる事になった元アーマルド侯爵領の民には迷惑をかけたくなかった。その為に視察や運営、自分に出来ることは全てやってきたつもりであり、それが結果になった今は両手を上げたいくらい幸せで溢れている。


 それからどれ程話し込んでいたのか


「リリーフィア、少しいいかな」


 東屋から見える日が真ん中を過ぎた頃、テオドールが姿を表した。


「アメリア、そろそろ帰りましょう」


 その後ろから現れたセオドアは名残惜しそうにするアメリアに手を差し伸べた。王妃となったリリーフィアとはより一層会うことが困難になり、今日に限っては半年ぶりのお茶会だ。

 予定ではこのまま王宮に泊まり込むはずだったが、テオドールの表情を察したアメリアは渋々了承し、次の約束を決めると連行されるかのようにふたりは帰って行った。


「ルーズ夫人は変わりないようで何よりだよ」


 執務室へ向かう途中、ルーズ男爵家の馬車をたまたま見つけたテオドールは疲労困憊だと言わんばかりに乾いた笑みを浮かべた。


「えぇ本当に。皆様とお話しているとあの頃に戻ったようで、つい気が緩んでしまいますわ」


 テオドールが嬉しそうに微笑むリリーフィアを眺めていると、学園時代の俯いていたリリーフィアの面影が不意に過ぎった。


 それに関連する事を話そうとしているせいだろうと、思わずテオドールは立ち止まる。


「陛下?」

「アドニスとカインの件なんだけれど……」


 視線を逸らし、曇った顔をするテオドール。立ち止まった彼を振り返ったリリーフィアは


(本当に優しい人ね)


 と、テオドールの対面で立ち止まった。


「今から思えばあれもひとつの試練なのだと思っています。落ちこぼれだと蔑まれていても、あの頃の私はそれを脱却しようとは思いませんでした」


 そう言ったリリーフィアはテオドールの手を握り、


「あなたは優しいから、どこまでも私を想ってしまうから……でも安心してください。私はもうあの頃のように俯いているだけの女性ではありません。テオドールの妻であり、国母なのですから」


 朗らかながらも強い眼差しでテオドールと目を合わせた。


 握られた手は相変わらず優しく繋がれていた。しかし、テオドールにとってはそれが強く逞しく感じる。


「もう守られるだけの私でない事は、テオドールが1番知っているでしょう?」


 そうだったと、テオドールは噛み締める。


 思えば子猫を助けた時から、カインを直向きに想っていた初対面の頃から、芯が強い人であった事を忘れていた。守らねばと思い上がっていただけかもしれないが、彼女を見てしまえば全て傲慢だったのだろう。


 緊張の糸が切れたテオドールはごめんねと、眉を下げた。そして、アドニスとカインの現状について話したいと、執務室へ急いだ。


 執務室へ入ると、テオドールは直ぐに話を切り出した。


 あの脱税騒動後、アドニスは妻であるフィニスの一件も踏まえ褫爵(ちしゃく)を言い渡された。平民となったアドニスだったが、直ぐに隣国へ席を移したらしい。


 隠密部隊に調査させた結果、始めた事業は全て頓挫し、今では昔の影は無く、路地裏での生活を余儀なくしているのだとか。

 そして、カインは国で一番過酷とされているルーズ男爵家が管轄する騎士団へ送り込まれた。毎日血反吐を吐く鍛錬を送りながら、どこで入手したのか大衆紙に描かれていたリリーフィアの肖像画をいつも持っているらしい。その姿は盲信に近い姿であり、セオドア曰くリリーフィア以外の女性との婚約は無理そうなのだとか。


「……そう、ですか」

「君のことだから責任を感じてしまうのではないかって思ったんだけど……」


 テオドールの意向で、国は最大限の慈悲を2人に与えた。それを踏みにじるまで膨れてしまった傲慢とプライドを優先したアドニス、自分から手放した女にしがみつきながら生きているカイン。


 テオドールも負い目を感じていたが、王となる者が抱えていいものではない。自分の発言や行動には責任を持たなければならないが、後悔をしてはならない。


 だからこそ、テオドールが押し込んでいる負い目諸共、自分が元アーマルド侯爵領の復興という形で勤しんできた。


「王太后より王妃教育の際、王は支柱だと教わりました」

「あぁ……あのスパルタ教育か」

「はい。そして王妃は大地なのだと。大地が揺れた時、国を支える支柱は揺らいでしまう。だから王妃となるものは揺るがない何かを持っていなくてはならない」


 テオドールは真摯に話を聞いていた。


「私が信じているのはテオドールの優しさという目に見えない大きな慈しみの心です。それを与えられたのにも関わらず、プライドを優先し、更生でなく盲信に走った彼らに私から言えることは何もありません」


 慈悲の手を振り払った彼らは、自分で自分の道を破壊したのだ。


 リリーフィアは心配そうに歪むテオドールを前に、そっと口元へ人差し指を当てると


「私はこう見えても、強かな女なんですのよ?」


 そう言って天に昇った陽を眺めた。


 辛かった10年間は決して戻ってこない。

 しかし、あの10年間を払拭する事は出来る。


(それも全部……テオドールと一緒なら)


「私の生涯はテオドールに差し上げます」


 リリーフィアは僕もだよと微笑むテオドールの手を握る。


「でも死ぬその時は返していただきますからね?」

「返さないといけないのかい?」

「はい。死ぬ間際、返してもらった数十年の思い出を噛み締められるなら……これ以上の幸せは無いでしょうね」

「まるで君の方が先に逝ってしまう様な口振りだね」

「テオドールは私をひとり置いていく事はしませんから」


 リリーフィアは約束ですよ?と、テオドールの肩に頭を預けた。


「仰せのままに」


 テオドールはリリーフィアの肩に手を回すと、引き寄せる。


「愛してるよ」

「私も愛しております」


 ずっとこれらもふたりで。

 幸福も後悔も、きっとこの人とならば笑って終える事が出来るのだろう。


 ……the end

短編から数えれば約2年間、お付き合いいただきありがとうございます。誤字脱字や日本語が怪しかったところ、長期間投稿をお休みした時期もありましたが、皆様のおかげで完結まで締めることが出来ました。ありがとうございした!


お時間がありましたら

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― 新着の感想 ―
大作、面白く読ませて頂きました。 読み進むに連れヒロインが少しずつ成長していく姿が良かったです。 カインは親に恵まれていたら最もまともで婚約破棄もすることなく幸せを掴むことが出来たかも知れませんね。 …
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