18話 遥の車
17話にて末尾にヒールアンドトゥと2話冒頭シーンの回収を加筆してます。
まだご覧になられていない方はぜひご覧ください。
誤字修正しました。
サブタイトルを修正しました。
登場人物
水島 仁美 : 主人公
小島 遥 : 幼馴染
高橋 隆 : 幼馴染
中田 里美 : 高校の後輩
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強まる日差しに夏への移ろいを感じるころ、駅からバスで10分ほどにある大型ショッピングモールのカフェ前に二人の女性がたたずんでいる。
二人は女子大生だろうか、一人はミディアムでゆるふわなパーマ風の髪にマーメイドシルエットのスカートをモノトーンで統一した装いで、女性の美しさを際立たせている。
もう一人は胸元まであるストレートのロングヘアで、ハリ感のある生地に乗せた繊細なストライプに、センタープレスがスマートなきれいめコーデで清楚が際立つ初夏の装いといった様子だ。
遥と仁美だった。
仁美は例にもれずハチロクで移動しているのでパンツスタイルだ。
もちろん遥も同乗してきた。
「ひーとーみーせーんぱーい!」
200m先から聞こえるほどの声で女の子が二人に向かってダッシュしてくる。
小柄な少女でシンプルな白Tシャツや流行りのフリル袖のトップスとストライプのスカートにキャップをかぶり、スポーティーさが感じられる。
そのまま仁美に飛び込むように抱き着こうとするのを遥が阻んだ。
「はい、ストップ!」
二人の高校の後輩である里美だった。
「何するんですか、遥先輩」
里美がジト目&口をとがらせて言う。
「こんな人の多いショッピングモールを走るんじゃないの!」
「だって、仁美先輩に久しぶりに会えたんですよ!?だったらダッシュして飛び込むのも無理ないじゃないですか!」
遥の尤もな注意にそれでも反論する里美。
「いや、無理がなくとも非常識だから!」
バッサリ切り捨てる遥。
「まあまあ、遥。久しぶり、里美」
仁美が遥をなだめ、里美に挨拶する。
「お久しぶりですー、仁美先輩!ずっとあいたかったですー」
「ふふっ、私もよ」
二人で手を取り合い、久しぶりの再会に喜ぶ。
「はいはい、じゃあ三人そろったことだしお店入ろうか」
二人の様子を仕方なしと見てた遥が声をかける。
今日は休日でショッピングに来ている3人だった。
そのままカフェに入り、注文した品を受け取り席に着く。
「里美は教習所どこまでいったの?」
仁美が里美に尋ねる。
「まだ仮免いってないんですよー。S字とかクランクとか乗り上げちゃうし」
あー、それはねーと仁美が説明を始める。
なるほどー、と里美が頷いているところで遥が話を差し込む。
「そもそもあんたはAT限定なんだから、MTより簡単でしょう」
遥の言葉にムッとした様子の里美が反論する。
「遥先輩はいいですよねー。仁美先輩につきっきりで教えてもらってたんですからー」
「それはそうだけど・・・。でも代わりと言ってはなんだけど仁美のハチロクの練習にずっと付き合ってあげてたし!」
「そーそー、とっても助かったんだー」
里美の指摘に遥が思わず違う方向の答えを返したのだが、それに仁美が続いたことで話が変わった。
「それもです!」
「え?」
「何が?」
里美がテーブルをたたくほどの勢いで立ち上がり声を上げるが、仁美と遥ははてなマークを浮かべる。
「遥先輩だけドライブデートして!私もしたかったのに!遥先輩ばっかりずるい!」
「そりゃあ、だって同じ大学だし?」
「住むところも近いし、ね?」
駄々をこねる子供のような里美に、遥と仁美が二人して顔を見合わせる。
「そもそもドライブデートではないし、ね?」
という仁美と、
「う、うん」
と目をそらす遥。
ドライブデートとして楽しんでいた遥であった。
「私ももっと仁美先輩と一緒にいたいんですー!」
半べそになりながら仁美に抱き着く里美。
おー、よしよしとあやす仁美。
しょーがないなー、と遥。
「うーん、どうしようか?」
仁美が遥にヘルプを求める。
「あー、もう分かった、分かった!じゃあ、今度3人でドライブいこう!」
「えー、仁美先輩と二人がいいー」
遥の提案に口答えする里美。
漫画だったら青筋マークがついてる遥が声を上げる。
「あんたねー!人がせっかく提案してあげてるのに・・・」
「そうよ、里美。それにハチロクは乗り心地悪いからおすすめしないよ?」
仁美も遥に口を添える。
「じゃあ、車どうするんですか?」
里美の疑問に仁美が答える。
「それは、家の車借りるとかそれこそレンタカーでもいいんじゃない?」
「あ、それは私にまかせて。車は私が用意するから」
遥の言葉に仁美が質問する。
「遥のおうちの車お借りしていいの?」
「うん、まあ当てがあるからまかせてといて!」
「むー、分かりました。じゃあそれで手をうちましょう」
里美がしぶしぶOKする。
「あんた、それが人が車を出してあげるって言ってるのにその態度!?」
「まあまあ、遥。みんなで初めてのドライブ、楽しみねー!」
「はい!仁美先輩と一緒ならどこへでもお供します!」
三者三様の言葉でドライブが決定したのであった。
一方そのころ、隆はある目的のためバイトに明け暮れていた。
「とにかく頭金だけでも貯めないと」
一人呟き、大学の合間を縫っては労働に励むのであった。
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次の休日、早速3人でドライブへ行くことになった。
遥に家まで来るように言われて近所の遥の家まで歩いていく仁美。
遥の家の前には真っ赤なスポーツカーが止まっていた。
「あ、おはよー、仁美!」
遥が珍しくテンション高く挨拶してきた。
後輩の里美とのやりとりでは声を張り上げることが多い遥だが、それ以外では大人の女性とだれもがいうほど落ち着いている遥だ。
「おはよ、遥!もしかして、この車が?」
「そー、私の車なの!」
「え!?買ったの!?いつ!?」
「届いたのが昨日なんだけどね、仁美を驚かせようと思って黙ってたの!」
見事いたずらが成功したかのような表情で遥が言った。
そこに泊まっていたのはTOYOTA 86。
2000年以降スポーツカー氷河期を経てTOYOTAが満を持して発表したハチロクの名前を冠したFRスポーツカーだ。
まさにハチロクの子孫である。
しかし、後継機ではない。
ハチロクはあくまでカローラレビン、スプリンタートレノであるからだ。
ハチロクを参考にしたコンセプトで製作された車であり、ハチロクの名にあやかってTOYOTA86と命名されたのだ。
エンジンもSUBARU製水平対向4気筒であり、それに合わせたFR L/OはTOYOTA2000GTやTOYOTA800(ヨタハチ)の後継機と呼べるだろう。
ちなみにハチロクは直列4気筒エンジンである。
水平対向エンジンのメリットはその重心の低さだ。
ピストンが水平および対抗に動くことで直列型エンジンよりも高さが低く全長も短く、その分エンジンルームの低い位置に搭載できるのだ。
また、左右に2気筒ずつピストンが配置されるのでお互いの振動を打ち消すことで振動が少ないとされている。
「これまさか、新車なの!?」
仁美が疑問を口にする。
「そーなの。お父さんがどうせ買うなら新車にしろって」
遥の父親もかなりの親ばかだ。
町内でも評判の美人とうわさされる娘に父親は甘い。
免許取りたての娘にスポーツカーの新車を買う親は少ないだろう。
もっと小さな車やぶつけてもいい、練習台としての中古を買う家庭は多い。
TOYOTA86は3ナンバー車で、車幅が5ナンバー車よりも大きいのだ。
初めての車にしては車幅が大きく、普通の初心者では下手をすると取り回しきれずバンパーを擦ったり、ボディを凹ませたりしてしまうだろう。
仁美もそこを心配する。
「でも仁美、3ナンバー車はじめてでしょう?大丈夫なの?」
「大丈夫。そのために今日の行先は街中じゃなくて自然公園にしたんだもの」
遥は今日の行先を障害物の多い街中より、国道をひたすら行く自然公園を提案したのであった。
要はピクニックだ。
二人ともお弁当を持参している。
「さあ、里美を迎えに行くわよ」
「おー!」
二人で意気揚々とTOYOTA86に乗り込むのだった。
Appendix
今日はTOYOTA86についてです。
多くのハチロク乗りが最初ハチロクの後継機が出るということで大変期待してたんですよね。
ですが、その多くのハチロク乗りはTOYOTA86に乗り換えませんでした。
それは何故か?
軽くなかったからなんですね。
確かにTOYOTA86は1250Kgに200PSありますから、ハチロクが950Kgで130PSとすればパワーウエイトレシオは6.25と7.3となりますからTOYOTA86のほうが速いです。
それこそ、水平対向エンジンを積んだTOYOTA86のほうが低重心でしかも足回りはリヤはダブルウィッシュボーンですからサーキットを走らせたら段違いのコーナーリング性能を見せるでしょう。
ですが、それはハチロクに慣れ親しんできた人たちの求めるものではありませんでした。
軽さだけを武器にどれだけ速く走らせられるかという魅力にとりつかれたのがハチロク乗りたちでしたから、TOYOTA86の魅力には惹かれなかったんですね。
ですが、TOYOTA86が悪いというわけではないんです。
車重もハチロクが新車ででた当時は安全ボディなんてありませんでしたし、ABSやエアバックなどの今となっては当たり前の安全装備すらありませんでした。
今の車と比べると、本当に必要なもの以外ついていない、そんな車がハチロクだったのです。
そして、TOYOTA86を開発するにあったってのコンセプトも決して的外れなものではありませんでした。
TOYOTA86の開発者たちは当時のスポーツカーのハイテク、ハイグリップタイヤ、ターボ、四駆といった高価なスポーツカーではなく、遅くてもいいから安くて楽しい車を!という考えで開発を始めたそうです。
これは確かにハチロクをイメージしたものに違いありませんでした。
ただ、現代の安全技術を考えるとハチロクと同じものは作れなかっただけということなんです。
ですので、ハチロク乗りはTOYOTA86に乗り換えませんでしたが、90年代にスポーツカーに乗っていた40代、50代の人たちには大いに受け入れられました。
TOYOTA86が販売台数を売りあげ、成功したからこそ他のメーカーも追随しまたスポーツカーを作ることになったのです。
TOYOTA86が開発されなかったらすでにスポーツカーは高級車、スーパーカーを除き絶滅していたかもしれません。
それでもTOYOTA86が乗り出し400万円近く、シビックタイプRが500万円以上もするという世の中ではあるんですけどね。
話を戻すと、作中にも書きました通りTOYOTA86はハチロクの後継機ではなく、そのL/OからTOYOTA800(ヨタハチ)やTOYOTA2000GTなんですよ。
始めにハチロクではなくてヨタハチや2000GTの後継機なんです、と言えばハチロク乗りは反発しなかったのでしょうが、それはそれで絶対に文句を言う人が出たと思うんですよ。
前述したとおり、今と昔では車の中身が全然違うから同じようなものは作れないのです。
昔を知るからこそ、今との違いが分かってしまう、そういう人たちがどうしても文句を言ってしまうのです。
まあ、私もその一人ですが。苦笑
最後にまとめますが、ハチロク乗りからは批判を受けることもあったTOYOTA86ですが、コンセプトからすばらしく、それこそ歴史を変え、乗って楽しい車であることは間違いありません。
そんなTOYOTA86で次回ドライブに行きます。
といっても、TOYOTA86についてはここで書き連ねましたので、車を持つ楽しみについて書ければと思っています。
次回もぜひよろしくお願い致します。




