14話 ハチロク初運転5
教習所での里美の一文を追加しました。
誤文を修正しました。
登場人物
水島 仁美 : 主人公
小島 遥 : 幼馴染
高橋 隆 : 幼馴染
中田 里美 : 高校の後輩
水島 和仁: 主人公の父親
水島 佳澄 : 主人公の母親
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家の前まで戻ってきた仁美と遥はハチロクを横付けしエンジンを切る。
「ふー、焦ったー」
「ホントだねー」
遥と仁美は二人で苦笑いだ。
「ちょっと闇雲に練習しても同じこと繰り返しちゃうかもだから、ちょっとおさらいしようよ」
「うん、私もそう思ってた」
遥の提案に仁美は頷いた。
仁美は町内を一周してみて反省していたのだ。
ハチロクに乗れることで舞い上がってしまい、いざ乗ってみると全然うまくいかずテンパってしまい父和仁がどうやってハチロクを運転していたか、全く考えずに運転していたことを。
「ごめんね、遥。運転ひどかったよね?教習所で上手くできたものだから、その延長線上で考えてた。教習車とハチロクは全く別物だってことが身にしみて分かったよ」
「全然大丈夫。ホントそうよね。隣に乗ってるだけでもよく分かるもの」
うんうんと頷く遥。
「思うんだけどさ、感覚じゃなくてもっと具体的な操作方法を考えたほうがいいんじゃないかな?」
「そう!それも私も思ってたの!」
遥の疑問に仁美が大きく頷く。
「さっきから全く同じこと考えてたなんて!さすが私の幼馴染!」
「なによ、大げさね。それほどでもあるわ」
遥が自慢げに胸を張る。
内心では嬉しさで飛び跳ねている遥だった。
仁美は遥の言葉に笑い、つられて遥も笑う。
最初のハチロクの運転としては散々だったが、二人であることが失敗を楽しい経験としているようだった。
二人して笑い終えたあと、仁美は考えていたことを話す。
「パパが運転してたときのことを思い返してたんだけど、例えば発進するときやバックするときギヤが入らない時は半クラッチにしてから再度クラッチを踏んでいたの。理由はわからないけど」
「ふんふん」
「そして、発進するときは2000回転も廻してなかったわ。私、さっきから3000回転超えちゃってたもの」
「あー、すごい音させてたもんね」
「あと、3速にするときは一度クラッチ踏んでからもう一度クラッチ踏んでた」
「うーん、ほんとクラッチの操作がよくわからないわね」
二人してはてなマークを浮かべる。
これは常時かみ合い式のトランスミッションの構造によるものだ。
トランスミッション内にはメインシャフトとカウンターシャフトという二つのシャフトが走っており、お互いのシャフトのギアはトランスミッション内で常にかみ合っている。
そしてメインシャフト側のギヤはシャフトが貫通しただけで接続されておらず、何もしなければシャフトとギヤはそれぞれ独立して回転する。
それを一緒に回転させるのがスリーブだ。
このスリーブによってメインシャフトとギヤを固定しているのだ。
シフトレバーで動かしているのはギヤではなくこのスリーブなのだ。
1から5速のギヤをメインシャフトと固定するためのスリーブをシフトレバーで操作している。
このスリーブで固定するときに回転数差を吸収しているのがシンクロということだ。
言い方を変えると、スリーブと各ギヤの歯の位置がずれているのを調整しているのがシンクロなのだ。
しかし、ハチロクのシンクロは摩耗して位置ずれの調整幅が減ってしまっており、父和仁はこの位置ずれを半クラッチにてメインシャフト側のギヤ位置をずらしてやってから再度ギヤを入れていたのだ。
3速に入れるときも同じような話で、こちらは2速から3速に入れる際に一度クラッチを切ってNにし、クラッチをつないでから再度クラッチを踏み3速に入れている。
これをダブルクラッチという。
発進時と違い走行中なのでタイヤにつながったメインシャフトは回転しているので、クラッチを一度切ってからNで再度つないでやる。
そうすることでスリーブとギヤの位置をずらしてやりシフトチェンジをできるようにしているのだ。
しかし、これは完全に常時かみ合い式のトランスミッションを理解していなければわからない話であり、仁美はとりあえず和仁がそうしていたであろう操作を真似することしかできないのであった。
「とりあえず、パパがやっていたように真似してみるよ」
仁美もトランスミッションの理解ができていないことをわかっているので、まずは真似することから始めることにした。
「おっけー。じゃあ、再チャレンジだね」
遥も同意する。
エンジンを再度かけ、周囲を見回し車が来てないことを確認する仁美。
まずはバックを試そうとする。
父和仁はシフトレバーを軽くRに押し当てながら半クラッチにしていた。
それを真似するため軽くRに押し当ててみる。
この程度の力ではRにシフトが入らない。
これをゆーっくり半クラッチにしながらシフトレバーをRに押し当て続ける。
するとかかかっと音がしたのでクラッチを踏みシフトレバーをNに戻す。
しかし、先ほどシフトがはじかれた時よりも小さな音だ。
「ふー」
仁美は一息つく。
遥はじっと見守っている。
今度はサイドシフトレバーを先ほどより弱い力でRに押し当てる。
再度クラッチをミリ単位で操作するつもりで半クラッチを踏む。
今度は音がしないうちにクラッチを切った。
そのままシフトレバーを押し当てていると、スコッとRが入った。
「入った!スムーズにRに入ったよ!」
「ホントだ!音してない!」
二人してとても喜んだ。
ギヤが入っただけで喜ぶ姿ははたから見れば異様な光景だったことだろう。
今度は前進するため、1速に入れる。
念のためゆっくり押し当てるとスコッと入った。
やはり1速は問題なく入るようだ。
アクセルもミリ単位で踏むつもりで慎重に踏む。
回転数を2000回転に合わせようとするが、すぐに2000回転を超えてしまう。
今度は踏むというよりアクセルに足を置き少しずつ力を加える。
回転数2000回転を少し超え2500回転くらいでなんとか維持する。
そこでクラッチを慎重に半クラッチにする。
今度は車が動き出そうとする位置を探るように、動き出した位置を、感触を覚えておくつもりで半クラッチを踏む左足に集中した。
ウォーー、という普通の車と比べると大き目なエンジン音をさせながら、ハチロクは発進する。
騒音によるご近所迷惑は先に謝罪してあり、大目に見てもらえることだろう。
今度はエンジン音は大きいもののがっくんがっくんせずにスムーズに発進ができた。
「やった、やった!今度はスムーズに発進できたよ!」
「うんうん!」
ハチロクがスムーズに発進できたことに喜ぶ二人。
そのまま2速も問題なくシフトチェンジする。
とろとろと加速しT字路を一時停止、左折してメイン通りに出る。
仁美も周囲を確認しながら発進、左折をしているが一つ一つの操作に集中しているため、遥もしっかりと安全確認を行う。
「よし!」
仁美は今度は3速に入れるため気合を入れる。
バックミラーで後方から車が来てないことを確認する。
遥も仁美が操作に集中するときは周囲をしっかりと確認する。
「まずはクラッチを切ってNへ、そのままクラッチを一度つないでまた切る・・・」
うんしょ、うんしょといったタイミングで操作を行うのでエンジン回転数はアイドリング回転数まで落ちてしまう。
3速へのシフトも軽く押し当てた状態で半クラッチを踏む。
すると、ウオーン!という音とともにエンジンブレーキがかかった状態となり、二人してつんのめるがそれでも3速には入った。
「「!?」」
二人して驚きで顔を見合わせる。
「入った!?」
「入ったね!?」
「何でか分からないけど、この方法なら入るんだ!」
「何でか分からないけどね!」
二人しておかしなテンションで喜び合う。
免許取りたての女子大生がダブルクラッチを成功させた瞬間だった。
理屈は分からないが上手くいったことはとても嬉しい。
理屈は後でネットで調べようと思う二人であった。
「よし!このままぐるっと回って坂道発進だね!」
「うん!仁美、がんばって!」
仁美が上手になれば遥もうれしい。
仁美の笑顔を見るのが大好きな遥であり、その応援にも熱が入る。
そのまま住宅地をぐるっと回って再度メイン道路へ合流する手前の坂道にて一時停止する。
「さっきは回転数上げすぎてホイールスピンしちゃったから、今度は3000回転くらいで発進してみるね」
「うん、それがいいんじゃない?」
仁美は遥と頷きあい、サイドブレーキを引いてアクセルに足を置き力を徐々に入れる。
3000回転くらいなら低回転よりもまだ調整しやすい。
そして慎重に半クラッチを踏む。
徐々に車が前に動こうとする力を感じる。
しっかり左右確認して車が来ていないことを二人して確認した。
そこでサイドブレーキを降ろす。
ウォーーー!という割と大きなエンジン音をさせながら、それでもするすると発進しだすハチロク。
仁美はホイルスピンやエンストが怖くてなかなか半クラッチから足を離せない。
生前の父和仁なら、クラッチが減るー、と嘆いたことだろう。
半クラのままT字路を右折しメイン道路に出る。
そこでやっと安心した仁美はクラッチをつないだ。
そのまま40Kmまで加速し、3速に入れるためたどたどしくダブルクラッチを踏む。
相変わらず回転数はあわず、変速ショックは大きいものの3速にはちゃんと入るようになった。
やっと何とかハチロクを運転できたと、笑顔満面な仁美。
笑顔の仁美を見てやっぱり笑顔になる遥。
その後も何週も町内をぐるぐる回り練習する仁美と遥だった。
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本日隆は教習所に来ており、遥ともども路面教習までコマを進めている。
後輩である里美はというと、高校生ということもあり土日くらいしかこれずまだまだ時間がかかりそうだ。
大学の授業を終えて教習所の待合室にいた隆は後からやってきた遥に声をかける。
「よお小島。最近あんまり来てないみたいだけど。忙しいのか?」
遥がにんまりとしながら答える。
「そーなの。忙しいの!」
「お、おう」
ハイテンションな返事に引き気味になる隆。
最近遥は仁美につきっきりでハチロクの練習に付き合っている。
教習所で免許を取るよりも優先事項なのだ。
「なんか、楽しそうだな。免許のほうはいいのか?」
「免許はもちろん取るけどね。免許よりも優先することができただけ」
遥はもちろん自分で運転した車で仁美とドライブするという野望も抱いていて、免許取得のほうも時間を見つけては進めている。
「ふーん。」
何となく釈然としない隆。
仁美がいたころは仁美に追いつけないまでも、追いかけるように免許を取りに来ていた遥だったのでギャップを感じる。
「そういえば・・・。水島はその後どうなの?」
「どう、とは?」
顔を背けながら仁美のことを聞いてくる隆。
遥は怪訝な顔をしながら聞き返す。
「いや、免許取ってからどうしてるかなーと。大学で会いはするけど、授業の話がメインだし・・・」
だんだんしりすぼみになっていく隆。
「別にどうもしないよ?ふつーかな」
ははーん、仁美のプライベートの話を聞き出そうとしてるなこいつ、と内心で考えた遥はわざとそっけなく返事する。
「そ、そうか」
遥にさらっと流された隆は落胆した様子でそのまま口を閉ざす。
もっと男らしく堂々と聞いてくればまだ違う返事もするんだけどなー、と思いつつも余計なおせっかいを焼く気もない遥だった。
二人はその後、同じタイミングで問題なく免許を取得したのであった。
試験を終えた帰り、ロビーにあのナンパ男二人組がいた。
久しく顔を見ていなかったが、遥と隆をみて「ふんっ!」と顔をそっぽを向いてどこかへ行ってしまった。
いまだに免許が取れていないらしい。
教習所に来てるのに教習以外のことしてるから免許とれないんだよ、と二人して思うのだった。
Appendix
ほんと、このハチロクに初心者の女の子が乗っていいんですかね?
車ってこんな苦労して乗るものでしたっけ?
書いててホント疑問に思ってしまいました。苦笑
改めて書くと、ほんと大変な車に乗っているなと再認識しました。
まあ、主人公にはそれだけの強い動機があるわけで、その気持ちはだれにも止められないものなんですよね。
人は信念があれば強くなれるものです。
私の信念は「コケの一念岩をも通す」です。
調べてみたら苔でなく虚仮(愚か者)なんですね。
今まで勘違いしてました。
まさしく虚仮の筆者です。苦笑
私はあきらめが悪いので何度でも試し、失敗し、方法が考えつくものすべて試すたちでして。
それでよくものを壊すこともあります。
それこそハチロクも、ですね。苦笑
何度も失敗し、試し、壊しては直し、それでも乗り続けているのが今のハチロクです。
まさしく虚仮の一念ですよね?
虚仮な筆者が書き連ねる当作品を次回もよろしくお願い致します。




