83.Side サーラ②
サーラ視点のお話です。
修一とイヴが神界に行っている間のお話し――。
シンカイの秘宝を求めて、濃霧に突き進むと、ご主人様が昏倒されてしまった。
「修一さん!修一さん!?」
リリシアさんがご主人様に縋り付く。しかし、返事が返ることはなかった。
私は、溢れ出そうになる涙をグッと抑え、状況確認に入った。
私は、メイドだ。主人の留守時は家を護らなければならない。
頭の中で擡げかけた嫌な想像を振り切るようにして、立ち上がった。
周りは、霧一色で何も見えないが、音や匂いに異変はないため、他船や敵に囲まれていることはないだろう。
魔物の動きも見られず、荒波も収まったようだった。
「リリシアさん、まずは、ご主人様を安静に致しましょう。」
リリシアさんがこちらにお顔を向ける。私の言葉を確認し、リリシアさんは目元を拭い、
「はいっ。」
と返事なさった。
二人でご主人様を丁寧に運び、キャビンのソファに横にし、毛布を掛ける。
「ふぅ、とりあえずは、これで良いでしょう。」
「ええ、後は、修一さんたちが帰ってこられるのを待つだけですね。
問題は――ご主人様とイヴさんの昏倒の原因と具合が一切不明であることだ。
今のところ、ご主人様の表情や呼吸に異常はないが、いつ何が起こるか分からない。イヴさんについては、何が起きているのか全く分からないのだ。
ご主人様は、誰かに呼ばれている気がするとおっしゃっていた。それが真であるならば、いずれ帰ってこられるだろう。しかし――。
“自分の与えた誤情報のせいで、ご主人様に何かあったら。”
その考えが頭を掠めると、もうダメだった。
頭が真っ白になり、視界がぐらぐらと揺れ始める。ご主人様方の危篤を否定すればするほど、その可能性が私を切裂き、焼き殺すようにジリジリと苦しめてきた。
手足が震え、立っていることさえ儘ならなくなる。
遂に、視界が黒く染まり始めた。
――これには覚えがあった。
そう、クレイシュ様の訃報を聞いた時と同じだ。
また、私はひとりぼっちに――。
「サーラさん、大丈夫ですよ。お二人とも必ず帰ってきます。」
冷めきった体に、言葉が届く。
それは灯となり、光が取り戻された。
「リリシア、さん…?」
「大丈夫です。あのお二人なら。私たちにできることは信じて待つことだけです。だから、信じて、待ちましょう。」
先ほどまでの、ご主人様に縋り付き泣いていた彼女はもういなかった。不安に揺れながらも、信じることに揺らぎのない強い目をしていた。
「大丈夫です。」
抱きしめられた力が、強くなる。
そこに、彼女の不安や思いを感じ、同時に、広がっていく熱が体を包むのを感じた。
すると、気付いたのは、目頭の熱さと頬を伝う微かな感触。
「あれ、わたし泣いて…?」
「ふふ、お気づきになられていなかったのですか?修一さんを運ぶ前からずっと泣かれてましたよ。」
彼女の瞳からも再び雫が溢れ出る。
そのあとは、もう、二人で抱き合って泣くだけだった。
こんなにも不安なのに、とても心強い。
涙が溢れて止まらないのに、胸をこみ上げるのは確かなる温もりだった。
ひとしきり泣き終えると、今度は笑いあった。
「ふふ、ひどい顔ですね。」
「ええ、ご主人様がご覧になったら、ビックリされます。」
「顔、洗いに行きましょっか。」
「はいっ。」
そう、出来ることは、信じることだけだ。
私は、もう、信じられる。
私は、もう、ひとりじゃない。主人がいて、友がいる。
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