63.Side イヴ③
イヴ視点のお話です。
海に沈むと決めた少女を見て。
マスターが連れてきた少女、サーラは泣き疲れたのか眠ってしまった。リリシアが様子を見ているとのことなので、修一は自室に戻った。
「お疲れ様、マスター。」
「ん、ありがと。」
「彼女のことどうするつもり?」
「…彼女次第だけど、歓迎はするよ。イヴは反対なの?」
「まさか。でも彼女、暗殺者でしょ?大丈夫なの?」
「正直分からん。でもリリシアが手放さないだろう。一応対策はするつもりだよ。」
「ふふふ。間違いないわね。…ねぇ、マスター。今日、彼女を見て私、思い出したことがあるの。――私、この船には全く関係ないかもしれない。自分でも不思議なんだけど、海や船で死んでないことははっきりと分かるのよ。…ってこれだけじゃ何の進歩もないわね。」
「少しずつ思い出していけばいいさ。」
「ふふふ。ありがと。」
「イヴ、俺はお前が何者でも構わないからな。」
「――っ。ありがとう。…少しドキッとしちゃったわ。もしも私に体があったらハグしてキスしてあげたのに。」
「それは残念だな。…それじゃいつか体が戻ったら、その時に頼むことにしよう。」
「ふふふ。覚えていたらね。早くしないと忘れちゃうかも。」
「それなら急いで準備しないとな。…体が出来たら何をしたい?」
「もちろん美味しいものを食べたいわ。蕎麦は必須ね。あと、酔っぱらうっていうのも知らないからお酒も楽しみね。それと、お風呂でしょ、布団でしょ…。」
「随分とやりたいことで溢れているな。」
「えぇ。だからマスター、早くしてね♪」
「はいはい。頑張りますよ。そう言われたら意地でもやるさ。男だからな。」
「ふふふ。…ねぇ、マスター、何で船を沈めたのか聞いてもいい?」
「『何で』とはどういう意味だ?」
「沈める必要はなかったのではなくて?」
「確かに放っておいても、彼らが陸に還るのは不可能だったろうな。」
「ならどうして?」
「あのまま生かしても行きつく先は地獄しかなかったからっていうもあったけど…一番は、けじめ、かな。」
「けじめ?」
「護りたいものを護っていくための覚悟を自分自身に示したかったんだよ。」
「護るためなら咎事も辞さない――と?」
「そういうこと。」
「愛ね。」
「まさしく。」
「誤魔化さないのね。」
「 “愛=正義”ではないって思っているからね。愛っていうのは、“何かを代償にしても、完遂させるエネルギー”のことだと思う。だから、愛は正しいっていうのは当人だけのはなしであって、本人にとっては正義でも、周りにとっては悪だということは珍しくない。愛っていうのは美しくもとてもリスキーなことなんだよ。」
「それを知ってて愛を取ったのね?」
「人間一人にできることなんか、それが限界だからね。」
「そう、なら私はマスターを見守るわ。あなたが何を犠牲に何を得たって、私は絶対にあなたのそばにいてあげる。」
「何を犠牲にしても?」
「それを聞くのは野暮ってものでしょ?」
「はは、そうだな。…ありがと、イヴ。」
「ええ♪」
そのあと二人は遅くまで語り合った。久しぶりの二人。偶にはこういう日も必要だ、そう感じた修一だった。
*****
――マスター、分かってくれたかしら?貴方の言う通りやりたいことで溢れているの。知りたいことで一杯なの。だから早くしてよね。
本当に不思議。思い出すことを怖いと思っていたはずなのに、さっきの一言でそんな気持ちが霧散してしまったの。今は楽しみで仕方がないわ。
体ができたら、どうしましょう。キスくらいはしてあげる。でもその先は、簡単にはさせてあげないわ。私を夢中させてみせなさい♪
妹たちが増えるのは一向にかまわないけれど、私のことをおざなりにしたら許さないわよ。
ねぇ、分かってる?マスター。早く私を捕まえてね。私はあなたを―――してるのよ。
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