62.サーラ
爆ぜろ、変態。
サーラの服装は、厳密に言うと、ヴィクトリアンメイド服(午後)です。午前は掃除のために淡い色の服装なんだそうな。サーラの服装は午後の接客用の黒です。
「――って感じで、君をさらって来たと言うわけ。」
「…なるほど…理解しました。意思を持つダンジョンなんて存在するのですね。」
「ふふふ。かなり稀有でしょうけどね。」
「私は、サーラと申します。ジス男爵家に仕えるメイドです。いえ、でした。と言うべきでしょうか。」
「それで、今後のことだけど…。」
「…もちろん、覚悟はできています。煮るなり焼くなりお好きにしてください。」
「よし、それじゃまずは、その覚悟を改めてもらおうか。」
「…どういう意味です?」
「死にたがりには用はないってこと。――生きる覚悟はできている?」
「――!?」
「彼女を助けられるのですか!?」
「そもそも、彼女は死なないよ。自分で毒を盛ったんだから。」
「え?」
「解毒薬は持っている?」
「…大した毒じゃないので大丈夫です。しばらくすれば収まります。」
「ええ?修一さん、どういうことですか?私、さっきからさっぱりです。」
「えーと、どっから説明すればいいんだろ。」
「えー、マスターまたぁ?」
イヴ、そんなこと言わないで。
「ヒントとしては、まず分析魔法の情報として、彼女のレベルが異様に高いことと、それに比べて兵士や貴族のレベルが低かったこと。彼女の健康状態に問題はなかったことがある。次に現場証拠として、船や騎士団の状態、終ぞ海賊を目にしなかった事実があって、最後に、貴族の『こうなるのならば無理やりにでも引ん剝くべきだった』という言葉があるかな。」
「えーっと…?」
「彼女の職業は何?」
「メイドですよね。…なんでメイドが戦闘を?」
「そういうこと。船や兵士の様子からして、戦闘は短期決着がついたのがわかる。要因は、相手が弱すぎたか、」
「――大将が討ち取られたか。ですね。」
「そう。正解は後者。理由は単純にあの兵らも弱いから。彼女が敵大将を討ち取った話も聞いていたしね。そこで次に重要なのは、彼女と大将の戦闘内容。勝負は一瞬だったろうね。」
「サーラさんはそんなにお強いのですか?」
「というより、暗殺だから。」
「え?」
「彼女は暗殺者――アサシンだよ。」
「…なぜ…わかったのです?」
「目線や体のさばき方とか気配とか色々あるけど、一番は武器かな。」
「……。」
「そんな方が何故メイドを?」
「詳しい理由は分からないけど、本来の主人があいつではないことは確かだね。役不足が過ぎる。それに、そうだったら彼女はとっくにひん剥かれているはずだ。」
「…それは想像に難くありませんね。では、もっと上位の人に下賜されたということでしょうか。」
リリシアがサーラの方を向いて尋ねる。
「…はい。…私はクラウン様の叔父君の命により本作戦にご同行しておりました。」
「その前の主人は?」
「……主の兄君です。」
「…なるほど。」
「修一さん?」
「…ジス男爵家で謀反が起き、領主であった父は叔父に討たれた。あいつが罰せられなかったのは共謀していたからか…。そして彼女の主人も変わり、今に至ると、ストーリーとしてはこんな感じか。」
「…まるで見られてきたかのようです。」
「最初の主人はどんな人だった?」
「…素晴らしいお方でした。私を拾い育ててくれたお方です。世界の広さを教えていただきました。」
「つまり、サーラさんは主人を殺した人に仕えなければならなくなったと…。」
「なるほどね。マスターが言っていた意味がようやく理解できたわ。」
「…私はこの作戦の中で死ぬつもりでした。しかし…敵を討って、いざ毒を飲むという時になって、怖くなりました。…私は死ぬ覚悟さえ出来ていなかったんです。」
「…それは違うよ。」
「……?」
「それは生に未練があったからだ。幸せになりたいと願ったからだ。でも、幸せを知らない者はそうは思えない。そう思えたのは、君の主人が世界を教えていたからだ。君はまだ世界に絶望していない。生への願いが君を救ったんだよ。」
「――!?」
サーラの目から雫がこぼれる。そして、一滴が作ったその道を、堰が壊れたように涙が伝った。
「…サーラさんっ。」
リリシアが思わずサーラを抱きしめる。
「…ぅぅう。ぅうわぁあああん。」
「君は亡くなられた主人のためにも幸せにならなきゃね。」
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