第二章 新しいパーティーの結成④
第二章 新しいパーティーの結成④
次の日、俺は寮の部屋でリードとジャハナッグとポーカーに興じていた。ちなみに賭けているのは食べ物だ。
俺たちは自分の金で買った食べ物を持ち寄っていたのだ。
ジャハナッグもなるべく旨くて珍味な食べ物を賭けろよと言ったからな。だから、俺もいつもは行かない店で食べ物を買った。
でも、今日は負けが込んでいたので、俺はイライラしていた。
賭けていたスパイシーチキンは、全てジャハナッグに取られてしまったからな。
残すはフライドポテトとトマトジュースだけだが、トマトジュースを取られると喉が渇いたら、西館までわざわざ買いに行かなければならなくなる。
ここはジャハナッグが持ち寄ったジンジャーエールを奪いたいところだ。
まあ、いつまでもこんな風に遊んでいてはいけないのだが、今は待つしかない。果報は寝て待てという言葉もあるからな。
常に寝ていることなどできはしないが、焦らずに首を長くして待っていれば良い知らせも入ってくるもんだとジャハナッグは言っていた。
だから、その言葉を信じて俺もフライドポテトを食べながら、カードをチェンジする。
「来たわよ、ディン」
そう言って、寮の部屋のドアを開けたのは、セティだった。これには、俺も反射的に床のカーペットから腰を浮かす。
それと、今日のセティはきちんとブレザーとスカートを着用しているので、俺も目を泳がせたりする必要はなかった。
そんなセティの後ろにはカロリーヌと背が高い黒髪の女子生徒がいる。
たぶん、黒髪の女子生徒は【ハッピー・レンジャー】の最後のメンバーだろう。確かイルザとか言う名前だったはずだが。
「良く来てくれたな。わざわざ寮の部屋まで足を運んでくれたということは、俺の結成するパーティーに入ってくれる気になったのか?」
俺は役なしのカードを放り投げて、セティの元へと駆け寄った。
「そんなところよ」
セティは肩を竦めながら言葉を続ける。
「ま、アタシは気乗りしなかったんだけど、カロリーヌとイルザはディンと一緒に冒険したいって言うからね」
セティは後ろをチラッと見て、更に口を開く。
「だから、アタシも渋々、了承してやったのよ」
セティは小息を吐いた。
「これから、よろしくねっ。私も鞭の扱いとか得意だし、モンスターとの戦いじゃ頑張っちゃうから」
カロリーヌが今時の女子学生らしい態度で言った。
「私は君と剣を交えてみたいな。君の力は噂でしか聞いてなかったから、実際にこの目で見るのは楽しみだ」
美しい顔立ちをした黒髪の女子生徒は、どこか優雅さを感じさせるように笑う。
「はあ」
俺はついマヌケそうな顔をしてしまった。
「おいおい、あんまり情けない顔をしてくれるなよ。これから私たちを引っ張って行ってくれるのだろう」
黒髪の女子生徒は大人びた笑みを浮かべる。
「まあね」
そこに間違いはない。
「なら、頼りにさせて貰おう。不要だとは思うが、君と顔を合わせるのは初めてだし、一応、自己紹介をしておく」
黒髪の女子生徒は手にしている大きな剣を持ち上げた。
「私はイルザ・イルベルン。大剣使いだから、よろしく頼むよ」
イルザは晴れやかに笑った。
「ああ」
俺もイルザの物腰を見て、それなりにできる人物だと見て取った。
「それで、これからどうするわけ?何かアタシたちを指導したいみたいなことを言ってたけど」
セティがジロッとした目で言った。
「とりあえず、冒険者の館でパーティーとしての登録を済ませよう」
俺は威勢良く言葉を続ける。
「ちなみに俺と君たちの結成するパーティーは、第二パーティーという扱いになるから、それは理解しておいてくれ」
俺もリーダーなら登録の手続きとかも自分でできるようにならないとな。
「それなら、【ハッピー・レンジャー】の名前も消えることはないわね」
セティがほっとしたように笑う。
「そういうこと。もし、俺のやり方が合わないようだったら、いつでもパーティーは解散しても良い」
俺もハンスみたいに来るものは拒まず、去る者は追わず、をモットーにしたいし、あれこれうるさくは言いたくない。
ま、リーダーとしての器が試されるってことだな。
「それを聞いて安心した。アタシたちってとにかく面倒なことを嫌うから、その辺は理解して貰いたいし」
セティはブレザーのネクタイを着崩すように緩めた。
「そうだな。私も自由を愛する人間だし、意にそぐわないことをやらされるのはごめん蒙りたい」
イルザは微笑している。
「私は多少のことは我慢できるよ。でも、ちゃんと女の子、扱いはして欲しいな。体育会系のノリとかはマジ勘弁だし」
カロリーヌは可愛らしくウインクする。
「分かったよ」
俺は何だか心配になりながらも笑って見せた。
「じゃあ、今度は俺の自己紹介をさせて貰うぜ。俺の名前はリード・リーゼンベルド。ディンの大親友だ」
リードは俺の肩に馴れ馴れしく手を乗せる。
「ま、この通り、常に明るく振る舞うことをスタンスにしてるから、お前らもそのつもりで話しかけてくれよな」
リードは白い歯を見せてニカッと笑った。
「俺は悪竜ジャハナッグだ。ここ最近はしょっちゅうディンと一緒にいるから、覚えておいてくれよ」
ジャハナッグはチキンを口に放り込みながら言った。
「うわぁー、手乗りサイズのドラゴンって可愛いよねぇ。私の手の上にとか乗って見せてよ」
カロリーヌが爛々とした目でジャハナッグの傍に近づいた。
「俺はそこらにいるような下等な鳥じゃない。そんな軽薄な真似ができるかってんだ」
ジャハナッグはプイッと顔を背ける。
「私もドラゴンは嫌いじゃない。剣の腕をしっかりと磨いた暁には、大人のドラゴンも仕留めてみたいものだな」
イルザは悠々と笑った。
「アタシ、ドラゴンよりは猫とかの方が好きなんだけど。どうにも毛がない生き物って好きになれないのよね」
セティは頭の金髪をクシャクシャと掻きながら言った。
「お前らこのジャハナッグ様を甘く見ているようだな。俺がその気になればお前らなんてあっという間に胃袋の中だぞ」
ジャハナッグは鋭い牙を剥き出しにする。
「面白い。ならば、この私を胃袋の中に収めて貰おうじゃないか。言っておくが、私のバスターソードの扱いはちょっとしたものだぞ」
イルザが大剣の鞘を手に前に進み出た。
「そう来たか。なら、久しぶりに俺の本当の姿を見せてやろう。後になってブルブルと命乞いしても無駄だぞ」
ジャハナッグも売られた喧嘩は買うように言った。
「ちょっと待てよ、二人とも。これからパーティーを結成するという時に、無駄な争いはしないでくれ」
俺は慌てて二人の間に割って入る。
「ジャハナッグもイルザの言葉はただの冗談なんだから、すぐに熱くなるな」
俺は冷や冷やする思いでジャハナッグを嗜めた。
「いや、俺の言葉も冗談だったんだが」
ジャハナッグは爪でボリボリと頬を掻く。これには俺も拍子抜けしたような顔をしてしまった。
「どうやら、一番、冷静さを欠いていたのは君だったようだな。リーダーとしての責務を重く感じているのだろうが、もっと肩の力を抜いてくれて良い」
イルザは俺の肩にポンと手を乗せた。
「そうかい」
俺は何とも言えない気持ちになりながら、ボソリと返事をした。
《第二章④ 終了》




