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第二章 新しいパーティーの結成②

 第二章 新しいパーティーの結成②


 俺は食堂で朝食を食べると、ジャハナッグの案内で仲介屋のニック・ニコルソンの居る部屋へと向かった。


 そして、部屋の前でドアをノックすると、眼鏡をかけた小太りの男子生徒がニヤニヤ笑いながら姿を現す。

 

 その風貌はどこか本に出て来る探偵を彷彿とさせた。

 

「そろそろ来る頃だとは思っていましたが、アッシに何か用ですかね。学院一の冒険者のディンの旦那」


 男子生徒はヨレヨレのネクタイを緩めながら言った。


 ジャハナッグが言うに、仲介屋のニックはこの学院のあらゆる情報に通じているというのだ。

 

 おそらく、俺がパーティーのメンバーを探す際に自分を頼ることも予期していたのかもしれない。

 

「旦那って」


 俺はその呼び方にちょっと引いてしまった。


「アッシの言葉遣いは気にしないでください。常に下手に出るのが、アッシのような賤しい人間の生き方ですから」


 男子生徒は腹の辺りを掻きながら言った。


 この風体じゃ、普通の生徒としての扱いは受けられないだろうな。女子からも嫌われていそうだし。

 

「そうか。で、お前が仲介屋のニックなのか?」


 俺は再確認するように尋ねる。


「その通りです。ま、本業は情報屋ですが、その他にも色々なことをやってます。裏の仕事を斡旋したり、問題のある冒険者を紹介したりするのもアッシの仕事ですよ」


 男子生徒、いや、ニックは頼もしそうな笑みを浮かべた。


「なら、冒険者としてあまり活動していない生徒の情報をくれ。できれば新しいパーティーに組み入れやすい奴を頼む」


 俺がそう言うと、ニックは自信のありげな笑みを浮かべた。


「分かりやした。ちょっと名簿に目を通しますんで待っていてください」


 そう言うと、ニックは薄暗い部屋の中に戻り、しわくちゃの紙の束を持ちながらやって来た。


「どうだ?」


 俺は神を捲るニックの反応を伺う。


「仲間に入れるなら【ハッピー・レンジャー】っていう三人組のパーティーを結成していた女子たちが良いと思いますよ」


 聞いたことがない名前のパーティーだな。


「どうして?」


 既にパーティーは結成しているんだろう。


「【ハッピー・レンジャー】は三ヶ月間、冒険者としての仕事は何もしてませんし、そのメンバーである三人の女子たちは生活保護を貰って暮らしています」


 活動の実体がないと言うことだな。なら、その三人を俺のパーティーに引き込める余地は十分ある。


「しかも、学院の仕事の方も真面目にやらないので、生徒会もその三人への生活保護を打ち切ろうとしているみたいですよ」


 それは良い情報だ。


 最後の砦とも言える生活保護が打ち切られたら生きる術がなくなるからな。そうなれば迷宮の仕事をするしかなくなる。

 

「そうか」


「その辺の事情を上手く突いてやれば、けっこう簡単に旦那のパーティーに入ってくれるかもしれませんね」


 ニックは一拍、置いてから口を開く。


「三人とも旦那と同じ高等部の一年生ですし」


 ニックはニヤリと笑った。


「なるほど」


 その辺は駆け引きになりそうだな。


「ちなみに【ハッピー・レンジャー】のメンバーのセティ・セルファーナとカロリーヌ・カルベスなら寮にある倉庫を改修した部屋で暮らしています」


 倉庫で暮らしていると言うことは、生活に余裕はなさそうだな。


「なら行ってみるかな」


 善は急げ、だ。


「それが良いですよ。ちなみに今回はアッシの顔を覚えて貰うってことで、情報料はタダにしときます」


 ニックはタヌキのような顔で笑った。なかなか抜け目がなさそうな奴だな。さすがジャハナッグが紹介した仲介屋か。


「でも次からはちゃんと金を取りますからね。それを理解した上で、今後ともご贔屓に」


 そう砕けたように言うと、ニックは頭を掻きながら部屋の奥へと戻って行った。それから、俺はその足で寮にある倉庫へと向かう。


 倉庫にはネームプレートが貼られていて、それにはセティとカロリーヌの名前が記されていた。


 俺は倉庫のドアを軽くノックする。


 でも、誰も現れなかったし、何の物音も聞こえてこなかったので、俺はドアノブに手をかける。

 

 留守かもしれないと思ったが、一応、確かめたくてドアノブを回した。

 

「失礼するよ」


 俺がドアを開けると、中は光りで照らされていた。でも、色々なものが乱雑に置かれていて何とも汚かった。


 女物のパンツとかシャツが脱ぎ捨てられているのは、はしたなさを感じるな。


「なに、あんた?誰の許しを得てアタシたちの部屋に入ってるわけ。ひょっとして、下着泥棒?」


 ぼさぼさの金髪を掻き上げながら一人の女子生徒が眠そうな目でベッドから立ち上がった。


 その女子生徒は制服のブラウスだけしか身につけていなかったので、ちょっと艶めかしい。

 

「違う。突然、押しかけて悪いけど、俺はディン・ディルオールだ。君も俺の名前くらいは聞いたことがあるだろ?」


 俺は少し腰を低くしながら言った。


 ちなみに金髪の女子生徒はスカートをはいていないので、白い太股が丸見えになっている。

 

 なので、俺も目のやり場に困った。

 

「まあね。で、有名な冒険者のあんたが、なんでアタシたちの部屋の中に入ってきてるわけ。言っておくけど、この部屋は何があっても明け渡さないからね」


 ここは俺とリードが使っている部屋の半分ほどの広さしかない。しかも、窓も付いてないから熱気が籠もっていた。


 何となく女の子、特有の甘ったるい匂いと、汗臭い匂いが混じり合ってるし。


「そのために来たわけじゃない。俺は生徒会から活動のない不活発な冒険者の指導と育成を任されているんだ」


「それで?」


 女子生徒はふてぶてしい顔をしている。


「とにかく、単刀直入に言うけど、俺が新しく結成しようとしているパーティーに入らないか。お金とか欲しいだろ?」


 俺の問い掛けに女子生徒は顔をしかめた。


「アタシ、そういう面倒くさいのは嫌なのよね」


 女子生徒は首の辺りの汗を拭いながら言葉を続ける。


「もし、パーティーに入ったりしたら、あれこれ指図されたり、やりたくもない仕事をやらさせれたりするんでしょ?」


 そう言って、女子生徒はベタついているような金髪を鬱陶しそうに何度も掻き上げた。


「でも、このままだと生徒会は君たちに支給している生活保護を打ち切るぞ。もし、そうなったら、生活する術がなくなることになる」


 餓えて死ぬと言うことはさすがにないだろうが、困ることはたくさん出て来るはずだ。


「マジで。それはちょっとヤバイかもしれない。つーか、生活保護を打ち切るなんて、生徒会の奴ら、最悪なんだけど」


 女子生徒は目を見開いた。


「何もしない君たちが悪い。でも、俺のパーティーに入ってくれれば、実入りの良い仕事もできるし生活も安定する」


 それは保証する。


「だから、そんなに悪い話じゃないはずだ」


 こういう持ちかけるような言い方は苦手なんだけどな。


「うーん」


 女子生徒は腕を組んで考え込む。それを見ていた俺は男がいるんだからスカートくらいすぐにはけよと言いたくなった。


 この辺の無神経さが、仕事をしないことに繋がっているのかもしれないな。


「もう起きた、セティ。お菓子を買ってきたから一緒に食べようよって、この人たち誰なの?」


 オレンジ色の髪をポニーテールにした女の子が入り口から現れた。


「ちょうどい良いところに来たわね、カロリーヌ」


 女子生徒、いや、セティは現れた女子生徒の方を見る。


「何かこの人、自分の結成するパーティーに入らないかって、アタシを誘ってるのよね。だから悩んでるとこ」


 セティは気怠そうな顔をした。


「少し誤解しているようだけど、誘っているのは君だけじゃない。【ハッピー・レンジャー】のメンバー全員だ」


 俺は力を込めて言った。


「じゃあ、私もあなたのパーティーに入らなきゃならないの。それはさすがに遠慮したいところだけど」


 女子生徒、いや、カロリーヌは持っていた紙袋をセティの胸に放り投げる。すると、セティは袋の中を開けて、美味しそうなマフィンを取り出した。


「でも、このままだと生徒会は君たちに支給している生活保護を打ち切るぞ。そうなったらどうするもつりだ」


 俺は脅すような口調で言った。


「そう言われると困るよねー。やっぱり、いつまでも何もしない生活を許してくれるほど、生徒会も甘くはないか」


 カロリーヌは束ねたオレンジ色の髪を触った。


「そういうことだ」


 俺は顎を引く。


「ディンの結成するパーティーに入ることになってる俺からも頼ませて貰うよ。ディンは本当に良い奴だからお前たちを後悔させたりはしないって」


 リードが援護するように言った。


「ディンって言うと、竜王ガンティアラスと魔獣アルカンデュラを倒したトップ冒険者でしょ。そんな人が私たちを誘ってるの?」


 カロリーヌは目をパチクリした。


「ああ」


 リードは自分のことのように嬉しそうに笑う。


「そういうことなら、イルザとも相談しなきゃならないよね。イルザは他の部屋で暮らしているから」


 カロリーヌの言葉を聞き、さすがにこの倉庫で三人は暮らせないよなと納得する。


「まあ、イルザなら、反対はしないかもね。あの子、モンスターとは戦わないけど剣を振るったりするのは好きだし」


 セティは宙を仰ぎながら言った。


「でも、私たちと同じで面倒なことは嫌いなんだよね」


 カロリーヌは唇に指を添える。


「ま、トップ冒険者のディンの名前を出せば嫌な顔をせずに食いついてくるかもしれないけど」


 カロリーヌは小さく笑った。


「そうね。とにかく、このままじゃ本当にクシャトリエルの店で体を張って働くしかなくなるし、自分の身の振り方は考える時か」


 セティもクシャトリエルの名前くらいは知っているんだな。


「そうだよ。ま、セティもいい加減、お風呂に入った方が良いよ。その汗臭さだと男の子も逃げていくから」


 カロリーヌはまるで鳩のように笑った。


「そうよねぇ」


 セティは茶にするように言った。


「とにかく、良い返事を期待しているよ。俺も別に急いでいるわけじゃないから、ゆっくり話し合って良いし」


 俺は柔らかな声で言った。


「分かったわよ」


 セティがマフィンを頬張りながら頷くと、俺は漂う臭いから逃げるようにセティとカロリーヌのいる倉庫を後にした。


《第二章② 終了》



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