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第二章 学院を取り巻く事情⑦

 第二章 学院を取り巻く事情⑦


 その日の内に俺たちはまた迷宮の中に足を踏み入れていた。


 時間を置けばリザードマン・ロードと戦おうとする意気込みが失われてしまうように思えたからな。

 

 同じ仕事を引き受けた他のパーティーやギルドにも先を越されたくないし。

 

 だからこそ、俺もリザードマン・ロードに対する怒りが燃え上がっている内に迷宮に潜りたいと思ったのだ。


 その気持ちはみんなも一緒だろう。

 

 ちなみにリザードマン・ロードは九十六階の南側のフロアーにある一室をアジトとして使っていると言う。

 なので、俺も無駄足にならないためにもリザードマン・ロードがアジトにいてくれることを祈りたかった。

 

 俺たちは行く手を遮るように現れたゴブリンやオークなどを打ち倒しながらひたすら歩き続ける。

 その途中でちゃんと休憩も取り、革袋に入れていた水を飲んだりもした。

 

 そして、俺たちは一時間かけて九十六階にまで辿り着いた。それから、リザードマン・ロードのアジトまで直進しようとする。

 

 すると、筋骨隆々とした体付きにゴブリンより遙かに怖い鬼の顔をしたモンスターの集団が立ちはだかった。

 その屈強そうなモンスターたちを見て、俺も背中から汗が流れるのを感じる。甘く見られる相手ではないことはすぐに分かった。

 

「あれはオーガだ。間違いなく手強いモンスターだから、ディン君も今まで以上に気を引き締めろよ」


 ハンスの声には並々ならぬ力が籠もっていた。

 

 それを聞いて俺もみんなの顔を見たが、ゴブリンやオークを前にしていた時のような余裕は感じ取れなかった。

 

 つまり、みんなにとっても強敵となるモンスターが現れたと言うことだろう。

 

「でも、倒してやるさ」


 俺は剣を構えると、オーガの出方を窺う。

 

 オーガが手にしている無骨な棍棒を、どこまでかわしきれるかで勝負も決まるだろうなと思いながら。

 

「負けられない」


 アリスは杖の先端に特大の火球を作りだした。火球はメラメラとした音を立てていて、今にも爆発しそうだった。

 そんな火球にはアリスの怒りが注ぎ込まれているように感じられた。


「ああ。俺も容赦をしてやれるような気分じゃない。今日の俺の相手をするモンスターは気の毒ってもんだ」


 カイルも炯々とした目で槍を構えた。

 

「かかって来い!」


 俺が気合いを入れて叫ぶと、アリスは先制するように特大の火球を五匹のオーガたちに向かって放った。

 その火球は一番、前にいたオーガにぶつかり、まるで空間が撓んだような大爆発を引き起こす。

 その瞬間、肌が焼けるような熱波が押し寄せてきた。

 全てを焼き尽くすような灼熱の炎もオーガたちを包み込んだし。だが、すぐにオーガたちは燃え盛る炎の壁を突き破って、突進してきた。

 

「みんな、凄い突進力だけど、気圧されてくれるなよ」


 ハンスの声を聞いた俺はどうあっても接近戦は避けられないと覚悟し、オーガたちを待ち構える。

 ここは胆力を見せないと。


 ハンスも押し寄せるオーガたちに矢を何本も放った。

 が、筋肉の鎧で覆われたオーガは、矢が刺さってもさして堪えた様子もなく、床をめり込みそうな勢いで蹴って肉薄してくる。

 

「やっぱり、普通に矢を当てたんじゃ、たいしたダメージは与えられないな」


 ハンスが歯噛みしながら言った。

 

 それから、一番前にいたオーガは力任せな感じで棍棒を振り上げると、全体重を乗せるように俺に殴りかかってきた。


 とても受けとめられるような攻撃ではない。


 俺はそれを軽やかに避けると、反撃とばかりに剣を一閃した。その一撃はオーガの腕に食い込んだが、筋肉によって刃が押し返されてしまう。

 

 たいした頑強さだ。

 

「やるな」


 そう賛辞を言って、俺は剣を引き戻すとありったけの力を込めた唐竹割りをお見舞いする。

 その一撃はオーガの脳天を叩き割った。脳漿が派手に飛び散ったが、それは盾で防ぐ。

 

 が、すぐに別のオーガが棍棒を勢い良く俺の盾に叩きつけた。突き抜けるような衝撃が俺の腕に伝わって来る。

 危うく盾を落とすところだった。

 

 オーガと力勝負をするのは避けた方が懸命だな。

 

「くっ」


 俺は小さく唸ると、早さを生かすような動きで、オーガの側面に回る。それから、旋風のような斬撃をオーガの横腹に叩き込んだ。

 筋肉の鎧で覆い切れていない横腹は切り裂かれ、傷口からは内臓が飛び出した。


 これにはオーガも悲鳴を上げる。

 

 俺はオーガが痛みで二の足を踏んだ隙に、もう一度、更に威力を増した斬撃を先ほどと同じ部分に叩き込む。

 その渾身の一撃は見事、オーガの胴を真っ二つにした。

 

 俺は息を吐くと、次のオーガに視線を向ける。三匹目のオーガはカイルと一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

 カイルはオーガに絶え間なく槍を突き出していたが、どうしても致命的なダメージを与えることができない。

 オーガは一歩も退くことなく、幾度となく棍棒をカイルに叩きつける。

 カイルもさすがに受けとめられないと判断したのか華麗なステップを刻んで、その攻撃を避け続けた。

 

「やってくれるじゃねぇか。でもよ、そんな単調な動きじゃ、いつまでたっても俺の体は捉えられないぜ」


 そう強がるように言ったもののカイルの顔にいつものような余裕はない。

 

 そして、オーガの猛攻に押されていたカイルを助けるようにハンスの放った矢が流れ星のような軌跡を見せて飛来する。

 その矢はオーガの額にストンッと突き刺さった。鏃が脳にまで達したのか、そのオーガは急に力が抜けたように前のめりに倒れた。

 

「額までは筋肉で守ることはできないぞ」


 ハンスは勝ち誇ったように言った。

 

 四匹目のオーガにはアリスが小さな火球を連続して放っていた。が、オーガはタフネスぶりを見せ、炎の触手を振り払って前に進もうとする。

 

 すると、その体にピカッという光りと共に雷のような光りが落ちた。が、体からプスプスと白煙を上げながらもオーガの足が止まることはなかった。

 

「こうなったら!」


 アリスは力の籠もった声を発すると、目の前にバチバチと激しくスパークする光りの球を作り出した。

 あの光りの球にはかなり大きなエネルギーが込められているな。

 

 そして、アリスの眼前にある光りの球は放たれると、目にも留まらぬ早さで飛来し、真っ正面からオーガの体にぶつかる。

 すると、オーガの体は内側から膨れ上がり、破裂するのと同時に大爆発した。目も眩むような青白い光りも迸る。

 

 凄まじい威力だ。

 

 一方、最後の一匹のオーガは最初に放たれた特大の火球の直撃を受けたのか、松明のように燃えて倒れていた。

 こうして現れたオーガたちは全て打ち倒された。

 

「さすがにオーガには手を焼かされたな。リザードマン・ロードと戦うためにも体力は温存しておきたかったんだけど」


 ハンスは息を整えながら言った。

 

「アリスはあんな凄い魔法を使ったけど、体力の方は大丈夫なのか?」


 俺もオーガの体がバラバラに弾け飛んだのは見ていた。その後にアリスの顔が苦しげなものに変わった瞬間も。

 

「大丈夫。シェリーのカタキを取るまでは倒れたりなんかしないし、余計な心配はしなくて良いから」


 そう強気に言いつつも、アリスの顔色は良くなかった。

 

「でも、無理はしてくれるなよ、アリス。あんまり片意地を張っていると、思わぬミスをすることになるぜ」


 カイルがやんわりと嗜める。

 

「そうだ。何がなんでも友達のカタキを取りたいという気持ちは分かるが、僕たちが命を落としたら意味がない」


 ハンスはアリスの肩をポンポンと叩いた。

 

「その通りだね。アタシなんてまた何もできなかったから、アリス以上に悔しい思いをしてるんだよ」


 チェルシーは口をヘの字にしながら言った。

 

 確かにチェルシーが活躍できるような戦いじゃなかったな。でも、チェルシーが俺たちの背後を守ってくれていることには頼もしさを感じる。

 

「ありがとう、みんな。ちょっとだけ、心が軽くなったよ」


 アリスが柔らかい笑みを浮かべると、みんなも実に良い顔をして笑った。

 

 それを見た俺は、やっぱり良いパーティーだなと思った。それから、絶対にこいつらは死なせないぞと決意する。

 

 守りたいものができると人は強くなると言っていたのは爺さんだったはずだ。その言葉は改めて胸に刻んでおこう。

 

 俺たちはオーガたちの屍を見ながら一息吐くと、集中力が途切れない内にリザードマン・ロードのアジトへと向かう。

 

 これ以上、連戦を続ければアジトに辿り着く前にこっちの体力が尽きてしまうだろう。

 なので、今まで以上に警戒しながら、周囲の様子にも気を配った。

 

 そして、俺たちはとうとう立て付けの悪そうな扉の前にまでやって来た。

 

 冒険者の館でチェルシーが収集した情報に間違いがなければ、この扉の奥がリザードマン・ロードのアジトだ。

 

 俺は迷宮で扉を見たのは初めてだなと思いながら、その扉を押し開けた。

 

 すると、そこにはたくさんのリザードマンたちがいた。


 パッと見て十三匹はいるリザードマンたちは積み上げられた木の箱の上で肉を食べたり、何かを飲んだりしていた。

 

 部屋の中央には焚き火があったし、壁には様々な武器が括り付けられていた。中には人間のものと思われる骸骨も標本のように飾られている。

 

 それを見た俺は胸糞が悪くなった。

 

 一方、俺たちの存在に気付いたリザードマンたちは、すぐにビクッと反応して、近くの武器に飛びついた。

 それから、一斉に攻撃態勢を取る。

 

 俺も迅速な動きを見せたリザードマンたちを目にし、普通のリザードマンたちとは明らかに違うなと思った。

 

 集団で人を襲うことに慣れている連中だと判断したのだ。

 

「最近、作られたばかりの集団にしては数が多いな。リザードマンはゴブリンやオークと違って、それほど徒党を組むことが好きなモンスターじゃないんだが」


 ハンスはリザードマンたちを睨め付けた。

 

「やっぱり、リザードマン・ロードの存在が大きいと言うことか」


 ハンスは分析するように言った。

 

「でも、こいつらは野放しにするわけにはいかないぞ。この数で襲われたら、さすがに死人が出るし」


 俺は青い炎のような闘志を燃やす。

 

 力のない冒険者にとって、こいつらは相当な脅威となるし、いかなる理由があれ、生かしてはおくわけにはいかない。

 

「同感だ。これ以上、他の冒険者が襲われない内に、この集団はしっかりと壊滅させておかねぇと」


 カイルも敢然と言った。

 

「私も心を鬼にして戦うよ。もう、一匹も討ちもらしたりはしないし、シェリーのカタキは絶対に取ってやるんだから」


 アリスは憎しみではなく、使命感のようなものを感じさせながら言った。

 

「アタシは邪魔にならないようにみんなの援護に回るよ。この数のモンスターを相手に、足手まといにはなるわけにはいかないし」


 チェルシーは少し頼りない。

 

 それから、俺たちは囲まれないように部屋の入り口で陣形を組む。

 

 すると、かなり立派な鎧を着込んだリザードマンが手にしていた大剣の切っ先を芝居かがった動きで俺たちに突きつけた。

 

 あのリザードマンは他のリザードマンとは明らかに違うし、体も大きい。おそらく、リザードマン・ロードだろう。


 ボスとしての貫禄みたいなものがあるからな。

 

 そんなことを考えていると、躙り寄っていたリザードマンたちは怒濤の如き勢いで、攻撃を仕掛けて来る。

 

 これは一瞬の気の緩みも見せられないな。

 

「死にたい奴から、かかって来い!」


 そう叫ぶと俺は活路を開くように、リザードマンたちに斬りかかった。最初のリザードマンは斧を振り下ろしてきたが、あいにくと遅すぎる。

 疾風のような斬撃が、そのリザードマンの首をあっさりと撥ねた。首がなくなった体は倒れることもできずにその場で折れ曲がる。

 

 まるで跪いて神に頭を垂れているようだ。

 

 が、すぐに俺の横合いから、もう一匹のリザードマンがメイスで殴りかかってくる。

 ただ、そのリザードマンはメイスを扱いに慣れていないのか、その動きは稚拙だし俺も簡単に避けることができた。

 

 それから、俺は目にも映らないような突きを放ち、そのリザードマンの喉を刺し貫く。

 剣を引き抜くと、そのリザードマンはゴボッと血の塊を吐き出して倒れた。

 

 俺は次はどいつだと周囲を見回す。すると、俺の剣の刀身に矢が当たった。危うく矢が体に突き刺さるところだった。

 そして、矢を放ってきたのはボウガンを手にしたリザードマンだった。

 

「ボウガンまで使ってくるのか。こいつは予想外だったな」


 俺は遠距離からの攻撃は厄介だと思い、吹き抜ける風のようにボウガンの矢をつがえようとしているリザードマンの方に駆ける。

 が、そうはさせまいと剣を持ったリザードマンが立ち塞がるようにして俺に斬りかかってきた。

 

 俺は「邪魔だ!」と叫んで、そのリザードマンに苛烈、極まりない斬撃を叩き込んだ。

 その斬撃はリザードマンの剣をへし折り、刃はそのまま弧を描くような軌跡を見せる。

 それはリザードマンの胸を横一文字にかっさばいた。

 

 が、そのリザードマンが倒れた時には、ボウガンの矢は既にセットし終わっていた。ボウガンを手にしたリザードマンは俺に向かって矢を放とうとする。

 

 避けられない。

 

 そう思った瞬間、見計らったようなタイミングで、別の方向から飛来した矢がボウガンを手にしたリザードマンの眉間に突き刺さった。

 矢を食らったリザードマンはボウガンをポロッと落として倒れる。

 

「ありがとう、ハンス」


 俺はハンスに向かってグッと親指を突き立てる。正直、今の一撃には本当に助けられた。

 

「さすがに矢を使った戦いで、後れを取るわけにはいかないからな。弓の大会で準優勝したこともある僕の腕は伊達じゃないよ」


 ハンスも自負を滲ませながら微笑した。

 

 一方、カイルは三匹のリザードマンに取り囲まれて、執拗とも言える攻撃を仕掛けられていた。

 が、カイルはまるで神がかった動きで、様々な角度から迫る剣や槍を避けると、閃光のように槍を突き出す。

 その一撃を心臓に食らったリザードマンは倒れ、カイルの隙を突こうとしたリザードマンの喉にはチェルシーが投げた短刀が突き刺さる。

 

 残りの一匹はカイルの容赦のない三段突きを食らい、腹と胸と顔に穴を開けられて倒れた。


「それなりの連携は見せてくれたが、俺たちには通じねぇぜ。あの世に行ったら練習し直してくるんだな」


 カイルは豪胆に言った。

 

「アタシの存在も忘れると痛い目に遭うんだから」


 チェルシーの笑顔も弾けた。

 

 残り五匹となった普通のリザードマンたちに対しては、アリスが夥しい数の火球を浴びせていた。

 それを食らったリザードマンたちは全てを焼き尽くす炎に包まれる。何とか炎を消そうと床を転がったが貪るような炎は消えはしなかった。

 

 三匹のリザードマンが火だるまになって動かなくなる。

 

 残りの二匹はそれぞれバラバラの方向からアリスに迫ろうとした。

 

 その内の一匹は、あの赤い大楯を持っていた。

 

 大楯には矢も刺さったままになっていたから、俺たちが討ちもらしたリザードマンで間違いない。

 

「シェリーを殺したのはあなたね。絶対に許さない」


 アリスは左から迫ってきていた大楯を持ったリザードマンに鮮烈な光りの刃を放つ。リザードマンは盾で光りの刃を防ごうとした。

 

 が、光りの刃は盾を紙切れのように切断すると、リザードマンの体も綺麗に真っ二つにして見せた。

 そのリザードマンは割れた盾と共に血溜まりの上へと倒れ伏す。

 

 これでシェリーのカタキは取れたな。

 

 だが、右側から迫ってきたリザードマンにはアリスも対応が遅れる。

 

 リザードマンはアリスの体にかぎ爪による一撃をお見舞いしようとした。が、その体に三本の矢が同時に突き刺さる。

 その内の一本は寸分の狂いもなく、リザードマンの経口に突き刺さっていた。

 

 もちろん、援護をしたのはハンスだ。にしても、三本の矢を同時に放つなんて何という神業だ。

 

「これで、普通のリザードマンたちは全て倒せたな。正直、苦戦は免れないと思っていたけど、そうでもなかったか」


 そう口にするハンスの息は全く乱れていなかった。

 

「ああ。俺ももう少し手応えがあるかと思ったが、所詮は烏合の衆だったみてぇだな。それとも俺たちが強すぎたのか」


 カイルはせせら笑うように言った。

 

「とにかく、後はリザードマン・ロードだけだし、最後まで気を引き締めていこう。さすがに、アイツはあっさりと勝たせてくれる相手じゃなさそうだからな」


 そう自分に言い聞かせるように言うと、俺は呆然とした顔で口を半開きにしているリザードマン・ロードと対峙する。


 手下がいた時に自分も戦っていれば、もう少し戦況は違っただろうに。高みの見物をしているからこうなるんだ。

 

 そして、俺は躊躇いなくリザードマン・ロードに斬りかかった。

 リザードマン・ロードは厚みのある大剣で俺の斬撃を受けとめた。それから、豪快に剣を振り上げた。

 

 俺はがら空きになった脇の下に剣を叩きつけた。が、リザードマン・ロードの鎧は思ったよりも丈夫で刃が跳ね返されてしまう。

 リザードマン・ロードは腕の筋肉を隆起させながら、俺の頭上に大剣を振り下ろした。

 まともに受けとめれば、剣が折れて脳天を叩き割られる。

 が、俺は敏捷性のある動きで、横に飛び退く。勢い余った大剣は石の床に傷を付けただけだった。

 

 その際、飛来した矢がリザードマン・ロードの鎧の隙間に突き刺さった。リザードマン・ロードがグッと呻き声を漏らす。


「僕の狙いの正確さもたいしたもんだろう」


 ハンスはそう言ったが、それでも動きを鈍らせことなく、リザードマン・ロードは何度も大剣を俺に振り下ろしてきた。

 しかし、その大剣による攻撃は、ことごとく空を切った。力はあるようだが、剣を扱う技術はまるでたいしたことがないな。

 

 攻撃力がある武器を持てば強くなったと勘違いしているクチか。

 

 そして、アリスが生みだした特大の火球もリザードマン・ロードに激突し、その体を轟々とした炎で覆い尽くす。

 俺の鼻に肉が焼ける匂いが入り込んだ。

 

「簡単には死なせないんだからね。シェリーの受けた痛みは何倍にもして、あなたに返してやるんだから」


 アリスの酷薄とした言葉が放たれる。

 

 が、リザードマン・ロードは炎に包まれ、火柱になりながらも剣を振り上げて、勇猛果敢に俺に斬りかかろうとする。

 

 そんなリザードマン・ロードの死に物狂いの形相は俺の目に焼き付く。

 

 もっとも、そんなことで怯んだりする俺じゃない。

 

 そして、俺だけを標的としているようなリザードマン・ロードの足にカイルの槍の穂先が突き刺さる。

 これにはリザードマン・ロードもたまらず膝を突いた。

 

「卑怯だなんて言わせないぜ。最初に集団で俺たちをくびり殺そうとしたのはお前なんだからな。因果応報ってやつだ」


 カイルは槍を引き抜くと無感情な声で言った。

 

 俺は膝を突いて息を荒げているリザードマン・ロードを見据える。

 

 もうリザードマン・ロードに戦う力はない。

 

 でも、ここで情けをかけて殺さなければ別の誰かが殺されるかもしれない。そうなれば、アリスのように悲しむ人間も出て来る。

 

 そう思った俺は慈悲なく強烈な斬撃をお見舞いした。

 その吸い寄せられるような一撃はリザードマン・ロードの首を切断し、大きな頭部を宙に舞わせる。

 ボトッとリザードマン・ロードの頭部が床に落ちると辺りは静まり返った。

 

「終わったな」


 俺は何だか寂寥感を感じながら言った。


「不思議と喜ぶ気にはならないな。むしろ、後味が悪いものを感じるよ。学院の生徒を殺したモンスターの討伐だっていうのに」


 ハンスも冴えない顔をしている。

 

「カタキ討ちなんて、口で言うほど綺麗なものじゃないのかもしれないね。必死に生きているのは人間もモンスターも同じだから」


 アリスは達観したように言った。

 

「そうだな。本当に憎むべきなのはモンスターなんかじゃなく、こんな状況を作り出したラムセスってことだ」


 カイルは空しさを感じているような目でリザードマンたちの屍を見る。


「負の感情をぶつける相手を間違えちゃいけねぇ」


 カイルの言う通りだ。ラムセスだけは許すわけにはいかない。

 

「アタシもそう思うな」


 チェルシーが切なそうに笑った。

 

「それでも、僕たちはモンスターと戦い、殺し続けなければならないんだよ。何がなんでも生き延びて、普通の生活を取り戻さなきゃならないんだから」


 ハンスが締め括るように言うと、俺たちは揃って頷いた。それから、リザードマンの武器を何個か回収すると、学院に戻ることにした。

 

 第二章⑦ 終了




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