最終話 まだまだ続く受難
昔の事でイジられて、涼が半泣きになった六時間目が終わり。
とうとう帰りのホームルームの時間になった。
「起立〜、気を付け〜、礼〜」
日直の号令で、今日の授業が終了した。
号令の最中、涼は亜美の隣に降りて、礼をしていたのである。
そんな涼を、担任である雅は朝以来、久しぶりで見た所為か。
熱のこもった瞳で、見詰めていた。
「ねえ、涼くん」
「ん? なあに〜?」
「今日帰り、何か用事があるの?」
「ううん、今日は真っ直ぐに、家に帰るんだよ〜」
「じゃあ、一緒に帰ろっか」
「うん、良いよ〜」
亜美が、涼に一緒に帰ろうと尋ねたら。
それを聞いた涼が、一緒に帰る事を了承した。
「ちょっ、ちょっと待ってよー!」
それから手を繋いで、二人が帰ろうとした所で、誰かの声がした。
見ると、美樹が慌てて、こちらにやって来る。
「亜美は、家が隣だから、いつでも会えるでしょ。
涼くん、今日は私と一緒に帰りましょ〜」
そう言って、涼と握っていた亜美の手を引き剥がし。
自分が、涼と手を繋いだ。
いつもは、遠くから涼の事を見ていただけであったが。
涼を拉致った時に、何かがハジけたのだろう。
美樹が、打って変わって、積極的になっていた。
「何するのよ! 涼くんを拉致った娘が何を言っているの!
あなたに任せると、安心出来ないの!」
「何ですってー!」
手を引き剥がされた亜美を、逆に、美樹の手から涼を引き剥がすと。
そう言って、美樹に反論した。
「そうそう、亜美はいつでも会えるし。
美樹は信用できないから、私と一緒に帰ろうね〜」
「ああっ〜!」
そんな声と共に。
涼の手が、別の方向に引かれて行く。
思わぬ、突然の事態に、涼が声を上げた。
「何するの、涼くんは、私と一緒に帰るの!」
「ちょ、ちょっとお〜!」
更に、別方向から声がして。
その方向に、涼が引っ張られる。
涼が止めるように言おうとするが、言葉が続かない。
「「止めなさい! 涼くんは私と帰るのだから!」」
それを見た亜美と美樹が、二人で涼を引っ張り返した。
「さあ、涼くん帰ろう〜」
「いいえ! 私と帰るの!」
「痛いよー! 止めてよー!」
二人で引っ張り返した後。
それぞれが、涼の手を、左右から引っ張り出した。
その余りの強さに、涼が苦痛を訴える。
「「あ、ごめんなさい・・・」」
涼が苦痛を訴える声に、二人が思わず手を離す。
その途端、涼が、また誰かに引き寄せられた。
「涼くん、今の内に、一緒に帰ろうか」
「ちょっとお! 抜け駆けはズルいよ!」
そして、涼を抱えて、教室から脱出しようとした娘を。
別のクラスメートが背後から掴んで、止める。
「涼くんは、私と帰るの!」
「いいえ、私と帰るのよ!」
「違う! 私と帰るの!」
「ちょっと! みんな止めてえ〜!」
クラスメート達が、涼を巡って争い出す。
涼は、その中で揉みくちゃになっていた。
「何よ、一緒に帰るのは私よ!」
「ふざけないで、私と一緒に帰るの!」
「アンタ、冗談は顔だけにしなさい!」
「それは、こちらのセリフよ!」
「何よ、アンタ、そんな格好でイケてるつもりなの?
ケバくてケバくて、下品にしか見えませんけどお〜(笑)」
「ふん! 地味でダサいヲタクに、言われたありませんわあ〜(嘲笑)」
「何よ!」
「そっちこそ、何よ」
・・・
「アンタねえ、そんな貧相な胸で相手しようとしてたの〜。
涼くんには、せめてコレくらいないと〜」
「プッ! ただ大きいだけなら、ホルスタインが最高じゃないの?
やっぱり、形が綺麗じゃないとねぇ〜、この牛女」
「何よ、この洗濯板!」
「牛女!」
「洗濯板!」
・・・
「美樹! あなたみたいな変態に、涼くんを任せる訳には行かないの!」
「幼い涼くんの、オシメの中身を好きなだけイジったり。
オッパイを触らせてた、あなたに言われたく無いよ、亜美!」
次第に、争いの内容が涼を巡る争いから、脱線して行き。
女同士の醜い争いへと、それぞれ移行していった。
そして、その中には、亜美と美樹の姿もあった。
「はあ〜、酷い目に会ったなあ〜」
争いが、いつの間にか脱線して。
注意が、自分から逸れたのに、気付いて涼は。
争っている集団の中から、脱出する事に成功した。
「ねえ、宮山くん」
「はい?」
「ちょっと用事があるから、一緒に職員室に来て頂戴」
「分かりました」
ホームルームが終わっても。
涼と帰るチャンスを伺う為に、教室に残っていた雅が。
みんなの注意が、涼から逸れたのに気付くと。
漁夫の利を狙おうと、涼に声を掛けた。
「さあ、職員室に行きましょう♪」
「は、はい・・・」
雅が涼の手を引いて、教室を出る。
涼は振り返り、教室で涼そっちのけで争っている。
亜美を初めとした、クラスメートの集団を見ていた。
「(ふふふっ、このまま職員室に行った後。
そのまま、一緒に帰るつもりだから♡)」
雅は、涼と手を繋ぎながら、廊下に出ると。
心の中で、そう、ほくそ笑む。
そうやって廊下に出た二人は、その足で職員室へと向かった。
***********
こうして、哀れな天才美少年の、編入初日が終わった。
しかし、これが終わりでは無く。
それが、これから毎日続くのである。
こうして、涼くんの甘い受難が、更に続いて行くのであった。
涼くんの甘い受難 終わり
相変わらず上達しなくて、代わり映えしない作品ですが。
そんな作品でも、最後まで御覧になって、ありがとうございますm(__)m
それでは、いつもの様に。
皆様の、御健康と御発展を願いまして。
この話を終了させて頂きます。