表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
息遣い『僕と彼女の四季巡り』  作者: 珀武真由
21/34

 秋―リンドウ(竜胆)

おはようございます。

今回、花言葉を追記?してあります。いつもありがとうございます。 

至らぬところがまだまだありますがよろしく!

今回もおつき合いの程よろしくお願いします。

 

 竜胆(リンドウ)。花言葉(誠実、悲しんでるあなたを愛す、正義)

 

 ◇◆◇


 私と彼のあいだに咲く

 ──リンドウ。


 互いを癒す気持ち

 互いを癒す時間

 互いを癒す眼差し

 

 凛とまっすぐ、上向く紫の花弁を晒す竜胆(リンドウ)ように、彼だけを真っ直ぐ見続けられるかな?


 この人だけを誠実に……。


 無邪気な彼の笑顔が、目の前にあった。道すがら咲くリンドウを尻目に、彼の手をしっかり握り歩く。

 今日は二人、楽しいかそれとも苦痛になるか、想像つかないお出掛け日。


 湿る土、泥濘む足場。

 水気を含んだ緑葉の香りが漂う木々の中、軽く踏んだだけで沈む地面に私は四苦八苦していた。


 何故こんな場所を歩くのか?


 それは─。

 彼と山の頂上で朝陽を見るため。

 山と云ってもそんな高くはなく、中級レベルの山。今は前と違って短いコースもあり、日帰りも出来るという事だが敢えて時間をかけ、頂上を目指すコースを選んだ。


「本当。今はいいね。途中まで車で来られて便利だ」


 横にいる彼はぼやいた。

 この山は彼が高校時代に登ったことがあるらしく、想い出の山であることを教えてくれた。

 彼の記憶では峰を詣でるための山道は滑らかでは無く、ウネウネ、モリモリと険しく困難極めるものだったらしい。

 昔と今を比べ、苦笑する彼だが瞳は輝いていた。


 昔の彼は今と違いアウトドア派だったのかなと、私は首を傾げた。


 彼が時折見せる無邪気な表情に目を奪われ、足が地面に取られることしばしば。


「大丈夫?」


 転けそうになる私を彼は幾度も手を差し延べ腰をグイと引き、足を地に付かせた。

 私はギュッと手を握り、前を歩く彼の背を見て微笑んだ。


「ありがとう」

「うん、お安いご用で」


(お安い? ぷふふ、変なの)


 優しい彼に甘えた。


 慣れきった彼の優しさも、こういう所だと新鮮に感じる。


(本当は慣れてはいけないのだ。人の優しさは常日頃感じてこその有り難み、なのに……)

 

 この登山計画のついでに彼は自分の父親の話を少し、してくれた。彼は中学、高校と、よくお父さんと休みが合えばに滝行、山行に出掛けたらしい。


 愉快で楽しいお父さん。

 時には厳しく、時には優しく。


 ただ会話の節々に出てくる「行」という言葉に、何の荒行を強いられていたんだろうこの人は……。

 と、頭の中は疑問符で溢れた。


 この会話を反芻さす私はそれとともに、景色も頭の中に入れた。

 そよそよと揺れる葉の間には菊に似た白い花と、黄色い花が頭を振っている。


(うわぁ。あれはアキノキリンソウにリュウノウギクかな? フフ、()だなぁ)


 彼の手を握っていた私の手は、彼の服へと代わっていた。きゅっと服裾を掴み、ゆっくり息を吐く私を彼は気遣う。


「どうした? 疲れた?」

「ううん。花が綺麗だなと思って」

「ああ、確かに。山の植物は清らかだね」

「ふふ、空気も良いしなんか清々しい──。気分いいなぁ」


 揺れる緑と花々に、気持ちは晴れ晴れしていた。

 山から見下ろす地上の風景もミニチュアのようで面白い。

 小さな情景に満足する私の横で、彼も深呼吸していた。彼の手が私の頭を優しく撫で、満面の笑顔を空に向けた。


「一旦、此処いらで休もうか?」

「じゃあお弁当、広げる?」

「だね」


 山道から外れた原っぱな場所で、拵えてきた少量のサンドイッチと、おにぎり、を出した。

 私はシートの上に置かれた荷物を見てほくそ笑む。


 大きいリュックは彼。

 小さいリュックは私。

 

 まるで今の私たちのように寄り添い、置かれていた。不思議と笑みがこぼれ、表情筋が弛んだままの私がいた。


「ん、美味しい。あれ、何見て笑ってるの?」

「ううん」


 私は首を右、左に大振り、わざと彼から視線を外した。

 だってリュックと私らの肩の並べ方が似ていたなんて─。

 恥ずかしくて、言えない……。

 私の思考がバレないように、余所の様子を窺う。


「すごいあの人、カメラが三台も首に。私はコレなのに」


 胸ポケットにしまい込んであるスマートフォンを出し、彼の姿にシャッターを切った。ちょうどおにぎりを頬ばる姿をレンズに収めた。


「おまっ、なんてところを」

「かわいいよ!」

「あのな─……」


 彼の秀麗な顔は可愛い表情を浮かべ、おにぎりで口を動かしむくれていた。


(わわ、久々に見たむくれ顔。なんか楽しい)


 少しじゃれ合った後、また開けた道を歩く。見ず知らずの私に笑顔を向けすれ違う人、またそれを会釈し返す。

 ああ、山だと人はこんなにも打ち解け、解放されるんだ─と。

 普段、頭に描く山とは違う山の醍醐味を知りつつ……、頂上についた!

 ついた山頂は思ったより人で溢れ、私は少しがっかりした。


(そうだよね、私達だけじゃないもんね)


 カシャッ。


 私の耳元に聞き慣れたシャッター音が切られた。

 「うん?」と訝し、彼を覗くといきなり連写された。彼の手のひらに、ご自慢の小型カメラが乗せられていた。


「なっ、なっ」


 慌て腕を伸ばし、彼の前をパタパタと忙しく動くと嘲笑された。


「仕返し、実は持ってきてた」


 怒った私はぷくぅと、むくれた。

 するとまた「面ろ顔」と彼は云い、パシャリと撮っていた。


 「ハハ、拗ね顔が良いね」と彼は吹聴し、私のおでこをぐりぐりと子どもをあやすように撫でた。


「あと少ししたらこれより半分に減るから静かだよ、今は中腹に車置けるから。そこに戻る人もいるしね」


 私に白い歯を見せる彼がいた。私は考えを読まれ、頬を更にムウッと膨らませた。


(どうしてこの人は私のことがわかるんだろう)


「フッ、かわいい」


 呟いた彼は人目を盗み、キスをする。


(この人は~~)


「だって可愛かったし、したかったんだもん。そんな顔しないでよ」


 「誰も見てないよ」と彼は私を抱き寄せ、耳元で囁いた後、


「ママ~あそこ、チュチュしてる~。ねーねー」


 親に報告しながら足早に去っていく子どもが……。

 二人でその子を見送り、私がたじろぐと「子ども恐るべし」と彼がほざくので、軽く弩ついてやった。

 笑い合い、手を握り歩き、テントを取りに宿舎へ向かう。


 頂上履歴と貸し出し名簿に名を書き、屋外に出て彼と一緒に空を仰いだ。空は夕帯を携え、所々を薄紫に染めていた。

 ミニテントを急いで張り、荷物を置き直すと少し平野を歩いた。

 雄大な夕焼けに感動させられ、夕陽に照らされた野草をみつけては彼のカメラに焼き付けた。

 暗くなった足元を懐中電灯で照らし、二人でテントに戻った。


「来てよかったね」

「うん」


 入り口を背に坐る彼はカメラを片していた。


「ねぇねぇ、さっきの小さな白い」

「リンドウ、たぶんツルリンドウじゃないかな。地面に蔓を張り咲く小柄な花。白に視えたのは色素が薄いせいかな」

 

 説明する彼は少し身震いを起こしていた。気が付くとテントが風で少し揺れており、彼は入り口から入る隙間風を防ぐために敢えて背にしていたんだ。私の風よけに。


「うー、山の夜は冷えるね」


 私は包まれていた毛布の中に彼を入れ、一緒に暖を取った。


「暖かい、こういうの良いね」

「フフ、あたっかい」

「寝袋出そうか、ひとつ持ってきてあるよ」

「ひとつ?」

「僕、起きてるつもりだったから」

「私一人で寝るの?」

「ううん、キミ寝袋に入れて星でも一緒に見ようかなと」

「見たい!」


 細々と会話を楽しんだ後、彼がテントの入り口を開けた。私は寝袋に身体を収納させられ、芋虫のような形になっていた。

 彼の胸にもたれ、夜空に顔を向けると弾かれた金平糖のように、輝く満天の星粒があった。


「うわっ、何これ!」

「綺麗でしょう」

「ん、ッブシッ」

「ハハ、オヤジみたい寒い?」


 軽く頷いた私は腕を摩り、彼に擦り寄った。


「火器用具があれば珈琲、入れるのにね」

「いいね」

「ハイッ」


 彼の手には白く緩く、ほわんと温かい煙を立ち上らすカップがあった。


「ンン?」

「さっきの宿場でホットコーヒー分けて貰った」


 小さな魔法瓶からは無くなったお茶の代わりに、柔らかい珈琲の薫りと湯気が上がっていた。


「……ほんと、こういうところ抜け目ないよね」

「そう?」


 珈琲を飲み終えた私は空いたカップを彼に返す、すると今度は自分の分を入れ、飲んでいた。


(ほんとにこの人は……眠ぃな─……)


 身体が温まると私はうつらうつらし始めた。そんな私に気が付いているのか彼がボソボソ、話す。


「俺さ、実は一人じゃ眠れないんだ……」


 彼は何故ベッドに私を連れ込むのかの理由を今さら打ち明かしたけどあまりに声は掠れ、聞き取りずらく……、今日の疲れも有り、気が付くと私は彼の腕の中でぐっすり寝ていた。


「おやすみ」


 山が明るくなった─。

 ……顔に、薄らと差し込む暉で私は目を覚ました。


「おはよう、今起こそうかと」

「うん……きれ─ぃ」


 感動し、呆ける私の重い瞼に彼は優しく、キスをした。


「またぁ」

「寝惚けてるし、手も出せまい」


(確かに手は袋の中だ)


 もうっと笑う私の前にフッと、影が過った。


「ママァ~~!!」

 

 子どもが嬌声を上げ、走り去る。

 彼は軽く項垂れ、やれやれといった感じで小言を零した。


「……また?」


 髪を掻きあげた彼は私をギュッと抱いた。私は彼の腕の中でけらけらと笑っていた。

 テントを片し、返す間も朝陽はやんわりと私達を包み、楽しい始まりの時間を見守ってくれていた。


「じゃ、帰ろうか」


 彼が私に手を差し出してきた。綺麗でそれでいてがっしりと、身を任せられる大きな手を。

 うんと私は明るく、きびすを返した。歩き出した靴の横にはひっそりと、小さいリンドウが花開いていた。


 


 お疲れ様です。ご拝読ありがとうございます。

図々しいですが感想がほしい。

と思う私は馬鹿なのか?

ポイントなどお付けいただけると嬉しいです!

これからも自分なりの線引きですが頑張ります!だから人の線引きが欲しいです。勉強に励みになります。これからもますますよろしくです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ